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Season2 Episode2「天国から来たボス」

Season 2 — Episode 2 登場人物


レイチェル・ジマーマン


現在の肩書き:過労気味のサーカス団長


法律事務所を経営するっていうのは、本来なら契約書と裁判の日程を管理する仕事のはずだった。ところが今のレイチェルが管理しているのは、神聖なる存在の憑依、マッドサイエンス、悪魔の寄生といった、毎日のように繰り広げられる大騒ぎ。それでも彼女は、事務所の請求書が地獄行きになるのだけは何とか阻止しようとしている。


Episode 2での一言:

「こんなのに法的書面なんかいらないわ。必要なのは強い酒よ」


グレッチェン


現在の肩書き:何事にも動じない宿主


文学専攻の大学院生。左肩の上に何千年も生きている悪魔が浮かんでいるという状況を、うるさいアパートのラジエーターに対処するのとまったく同じテンションで受け流している。密かに優しいところがありながら、徹底的にシニカル。そして現在、正式に恋人募集中ではない。


Episode 2での一言:

「またメフィが文句を言ってる。火曜日だしね」


サーシャ(アレクサンドラ・カラマゾヴァ)


現在の肩書き:神に仕えるパン職人


カラマゾヴァ・ベーカリーの物静かな末娘。磨き上げられた銀の十字架と、底なしの慈愛、そして焼きたてのサワードウを携えた彼女は、あまりにも純粋すぎて、文字通り全能の神ですら「ここを住処にするなら最高だ」と判断してしまうほど。


Episode 2での一言:

「形而上学についてお話しする前に、シナモンロールはいかがですか?」


メフィストフェレス(「メフィ」)


現在の肩書き:格上げされた陰気な憑依霊/不本意な後部座席の運転手


かつては伝説的な高位の誘惑の悪魔だったが、今ではグレッチェンの肩に浮かぶ、単なる影のような寄生生物に成り下がっている。何とか恐ろしく邪悪な雰囲気を保とうと必死になっているものの、現代人の心理学とサーシャのパン作りが、彼の人生の仕事をことごとく台無しにしている。


Episode 2での一言:

「俺は可愛いマスコットなんかじゃない! 俺は古代から存在する悪の力だ! 笑うんじゃねえ!」


ルイーズ・ゴールドバーグ博士


現在の肩書き:暴走する実証研究者


シンディの母親であり、UCLAの頭脳明晰で遠慮というものを知らない教授。普通の人間が実存的な宇宙の恐怖や神の奇跡を目にするところで、ルイーズが見るのは実験データ、赤外線による熱シグナル、そして娘の友人たちに無許可で頭蓋スキャンを行う絶好の機会である。


Episode 2での一言:

「興味深い! パン職人が部屋に入ってくるたび、悪魔の心拍数が上昇している!」


シンディ・ゴールドバーグ


現在の肩書き:プロの被害抑制担当


厳格な規律を重んじるカヨの一番弟子。その一方で、日々の最大の課題は、マッドサイエンティストと化した母親が罪もない一般人を実験台にするのを阻止するため、物理的に母親へ飛びかかってでも止めること。


Episode 2での一言:

「ママ、サーマルカメラを置いて、パン職人から離れて!」


トシキ・タドコロ


現在の肩書き:指定傍観者


カヨののんびりした息子で、ベーカリーでアルバイトをしている。特殊能力もない。悪魔の寄生物もいない。神からの祝福もない。ただの普通の青年なのに、なぜか宇宙規模の大混乱が始まる瞬間を狙ったかのように、その部屋へ入ってしまう。


Episode 2での一言:

「俺、アイスコーヒーを届けに来ただけなんだけど。なんで俺たち、神と話してるんだ?!」


突然の来訪者(ボス/全能の神)


現在の肩書き:人間の姿をした好奇心旺盛な旅行者


メフィが古代から知る、畏怖すべき元「ボス」。人間の感情について実地調査をするため、ちょっと地上まで降りてきた。現在は、人間というものがなぜこんなにも奇妙で、美しく、そして完全に予測不能なのか、その答えを探っている。


Episode 2での一言:

「人間の愛は実に非論理的だ。私はこれが大好きだ」


火曜日の朝。ジマーマン法律事務所。


レイチェルはデスクに座り、ぬるくなったコーヒーをすすりながら、色分けされた新規依頼受付用紙をぼんやり眺めていた。

RING! RING!

レイチェルは受話器を取った。

レイチェル

「ジマーマン法律事務所、レイチェルです」

依頼人

「もしもし、助けてほしいんです。友達が……なんだか変なんです!」

レイチェル

「どう変なんです?」

依頼人

「神様が見えるって言うんです! 神様が自分の中にいるって!」

レイチェルは固まった。ペンをメモ帳の上で止め、鼻の付け根を指でつまむ。

レイチェル

「なるほど。それで、私たちに……」

依頼人

「助けてほしいんです! お願い! 怖いんです!」

レイチェルは長く重いため息をついた。山積みになった支払い期限超過の請求書を思い出す。

レイチェル

「分かりました。何とかできるか、考えてみます」

レイチェルは電話を切ると、すぐにグレッチェンへ電話をかけた。


大学のアパートでは、グレッチェンが電話に出た。

グレッチェン

「レイチェル?」

レイチェル

「グレッチェン、また依頼。友達が……神に取り憑かれてるって」

グレッチェン

「神?」

レイチェル

「そう。二人で来られる?」

グレッチェンは黙り込み、左肩越しに無表情な視線を送った。

そこにはメフィストフェレスが浮かんでいた。影の爪を気だるそうにいじっている。

グレッチェン

「メフィ?」

メフィ

「……神? ちょっと待て。エーテルをスキャンしてみる」


数秒間、完全な沈黙が流れた。

すると、メフィの小さな影のシルエットが強張った。赤く光る目が純粋な恐怖で大きく見開かれる。

声が激しく震えた。

メフィ

「……まずい。

とんでもなくまずい」

グレッチェン

「何?」

メフィ

「……あいつだ! ボスだ!」

グレッチェン

「ボス?」

メフィ

「ああ! 昔の俺のボスだ! あのフォーストをめぐる賭けの、あの大ボス!」

グレッチェンの目がわずかに見開かれる。

グレッチェン

「……あの神?」

メフィ

「そうだ! それに俺は、本当に、本っ当にあいつに会いたくない!」

グレッチェン

「どうして?」

メフィ

「気まずいんだよ!あいつは俺のボスだ!それに俺は……あれだ……何千年も積極的に人間を堕落させてきたからな!」

グレッチェンは乾いた、無言の鼻笑いを漏らした。

グレッチェン

「ボスが怖いの?」

メフィ

「うるさい、グレッチェン!何千年も好き勝手やってきた悪魔の俺が、今更昔の創造主に会えるかよ!」

グレッチェンは再び電話に向き直った。

グレッチェン

「レイチェル、行く。でも……ちょっと複雑」


⸻


その日の午後。依頼人の家の前。


レイチェル、グレッチェン、サーシャが歩道に立っていた。

そこへ突然、鋭いブレーキ音とともに、流線型のセダンが路肩に滑り込んできた。

ルイーズ・ゴールドバーグ博士が、巨大な金属製の機材ケースを抱えて車から降りてきた。


ルイーズ

「こんにちは、皆さん!」

レイチェルは完全に呆気に取られた。

レイチェル

「ルイーズ?! 何しに来たの?」

ルイーズ

「あなたから超常的な現場現象についてメールをもらったでしょう。当然、実証観察用の機材を持ってきたの。科学のために」

レイチェルは両手で顔を覆った。

レイチェル

「ルイーズ、お願いだから……」

助手席のドアが開き、シンディが申し訳なさそうな顔で降りてきた。

シンディ

「ごめん、レイチェル。ママに文字通り車へ押し込まれたの」

サーシャが温かく微笑む。

サーシャ

「シンディ?」

後部座席から、トシキがずるずると這い出てきた。小さく呻きながらパーカーを直している。

グレッチェン

「トシキ?」

トシキ

「連れてこられた。シンディが人間の盾が必要だって」

シンディは顔を赤くして腕を組む。

シンディ

「ママとサーマルカメラに挟まれて、車の中に閉じ込められるなんて嫌だったの!」

ルイーズは金属ケースの留め具をパチンと開けた。


CLACK!


ルイーズ

「では始めましょう。赤外線センサー、デジタルEMFメーター、指向性マイク、それから――」

レイチェル

「ルイーズ! これは繊細なコンサルティング訪問であって、SF実験じゃないの!」、すべては科学実験なのよ」


⸻


家の中では、依頼人のジェシカがリビングで慌ただしく待っていた。

ジェシカ

「来てくださってありがとうございます! 彼女は二階の寝室にいます。出てこようとしないんです!」

一行は階段を上っていった。

レイチェルは閉ざされた寝室のドアの前に立ち、優しくノックした。


レイチェル

「エミリー? レイチェル・ジマーマンです。助けに来ました」

短い沈黙。やがてドアがゆっくりと開いた。

そこに立っていたのは、二十代後半くらいの青白い女性だった。身体はか弱そうに見える。

だが、その目は――あり得ないほど澄み切った、息を呑むような光を放っていた。


エミリー(神)

「ようこそ。あなたたちが来ることは分かっていました」

その声は柔らかく、穏やかで、そして恐ろしいほど絶対的だった。一行は寝室へ入った。

エミリーは質素な木製の椅子に腰を下ろし、光り輝く視線を全員へ向ける。

エミリー(神)

「全員、見えています。あなたたちの罪も。恐れも。そして最も深い欲望も」

彼女はレイチェルへ目を向けた。

エミリー(神)

「あなたは、争いを避けるために、繊細な平穏を守るために、小さな嘘をつく。でも、嘘は嘘です」

レイチェル

「わ、私はただ事務所を維持しようとして――」

エミリーはルイーズへ目を向けた。

エミリー(神)

「あなたは生き物を、ただのデータポイントとして見る。共感することなく観察する。冷たい人です」

ルイーズ

「私は『客観的かつ科学的に厳密』という表現にして欲しいわ。続けてちょうだい」

エミリーはシンディを見、それからサーシャへ視線を移した。

エミリー(神)

「あなたには嫉妬がある。彼女に対して。彼の近くにいるから」

シンディの顔が真っ赤になる。

シンディ

「ち、違います!」

エミリーはトシキを見る。

エミリー(神)

「そしてあなた。あなたは母親の意思に縛られている。母親が暗黙のうちに認めてくれなければ、自分で決断することをためらう」

トシキ

「……なんで俺の私生活をそこまで攻撃するんだよ?!」

最後に、エミリーの視線がグレッチェンへまっすぐ向けられた。

エミリー(神)

「そしてあなた。寄生者を抱えている」

グレッチェンは無表情のままだった。

エミリーはグレッチェンの左肩越しに、まっすぐ視線を向ける。

エミリー(神)

「メフィストフェレス。あなたを感じます。そこにいるのでしょう。彼女の肩の上に」

グレッチェンにしか聞こえないメフィの声は、錆びた蝶番よりも硬く、緊張していた。

メフィ

「……ボス」

エミリー(神)は優しく微笑んだ。

エミリー(神)

「まだ人間を堕落させているのですね」

メフィ

「……一応、試みてる。とはいえ……最近は驚くほど難しい」

エミリー(神)

「難しい?」

メフィ

「ああ。ほら、長い話なんだよ」

エミリー(神)は小さく笑った。

エミリー(神)

「知っています。今はこの娘と一緒なのですね。グレッチェン。興味深い選択です」

グレッチェンが半歩前へ出る。

グレッチェン

「どうして彼女の中にいるの?」

エミリーは静かにため息をつき、物思いにふけるような表情になった。

エミリー(神)

「もう一度、人間を理解したかったのです。フォーストとの古代の賭け……私は勝ちました。ええ、辛うじてですが。人間というものは興味深い。あまりにも複雑で、あまりにも矛盾している。だから私は、この人間の肉体へ降り、中から観察することにしたのです」

その表情が、突然苦しげに揺らいだ。


エミリー(神)

「でも……この娘には耐えられない。私の神性は、普通の人間の器には重すぎるのです」

一瞬、エミリー本人の必死な声が漏れた。

エミリー

「……お願い……助けて……」

ルイーズが即座に前へ出て、デジタル温度プローブをエミリーの顔へ向けた。

ルイーズ

「興味深い! 神による憑依は、悪魔が宿主となっている場合とはまったく異なる熱的・電磁的シグネチャーを示しているわ!」

ルイーズはさらに身を乗り出す。

ルイーズ

「現在、あなたの神性の共鳴が神経経路に与えている負荷を、一から十で表すとどのくらい?」

エミリー(神)はルイーズを見つめた。

エミリー(神)

「……あなたは実に奇妙な人間ですね」

ルイーズ

「ありがとう。簡単な頭蓋スキャンをしてもいいかしら?」

全員

「ルイーズ!!」

シンディが母親のコートをつかみ、後ろへ引っ張った。

シンディ

「ママ、空気読んで!」

サーシャが静かに前へ出た。

首から下げた磨き上げられた銀の十字架を、指で強く握る。

そして、エミリーの光る目を見つめた。


サーシャ

「主よ」

エミリー(神)

「何でしょう、我が子よ?」

サーシャ

「もし人間の心を理解したいのでしたら……私を宿主にしてはいかがでしょう?」

全員が一斉に息を呑んだ。

グレッチェン

「サーシャ! 何を言ってるの?!」

サーシャは穏やかで、しかし揺るぎのない声で答えた。

サーシャ

「エミリーには、この重荷に耐えられません。でも私は……生まれた時からずっと、あなたに祈ってきました。あなたの近くにいたいのです。それに、エミリーには自由になってもらうべきです」

エミリー(神)は若いパン職人を見つめた。

本当に興味を惹かれたようだった。


エミリー(神)

「自分を差し出すというのですか? なぜ?」

サーシャ

「それが、あなたが私たちに教えてくださったことだからです。愛と無私の心を」

グレッチェンの耳元でメフィがパニックになった。

メフィ

「待て! 待てって! ダメだ! とんでもなくダメな考えだ!」

グレッチェン

「どうして?」

メフィ

「ボスは強烈なんだよ! 強烈すぎる! こいつ、燃え尽きるぞ!」

だがサーシャは一歩も引かなかった。

サーシャ

「私は大丈夫です」

エミリー(神)は立ち上がり、サーシャへ歩み寄った。穏やかで揺るぎないサーシャの目を見つめる。

エミリー(神)

「……あなたは驚くほど純粋ですね。よろしい。あなたがそれを望むのなら」

瞬間、エミリーの目を満たしていたまばゆい光が消えた。

膝から力が抜け、ジェシカの腕の中へ倒れ込む。

ジェシカ

「エミリー!」


一秒後。エミリーが瞬きをした。

目は普通の状態に戻っていた。

エミリー

「……何が……起きたの?」

ジェシカは泣きながら彼女を強く抱きしめた。

ジェシカ

「戻ってきた! もう大丈夫よ!」

その一方で、サーシャの目が光り始めた。

しかし、エミリーのような激しい輝きではない。

サーシャの目からは、温かく、穏やかで、柔らかな光が放たれていた。

サーシャは穏やかに微笑む。

サーシャ

「……私は大丈夫です。なんだか……温かい」

サーシャが口を開くと、二つの声が完全に重なった。

彼女の柔らかく優しい声に、深く響く神性の声が溶け合っている。

サーシャ(神)

「この器は……精神が安定しています。ここなら、彼女を傷つけることなく存在できます」

サーシャ

「ようこそ、主よ」

グレッチェンが慌てて彼女のそばへ駆け寄った。

グレッチェン

「サーシャ、大丈夫?」

サーシャはグレッチェンの手を取った。

その手のひらは、心地よいほど温かかった。

サーシャ

「私は完全に大丈夫よ、グレッチェン。本当に」

グレッチェンの頭の中に、メフィの甲高い呻き声が響く。

メフィ

「……ボス? 本気でパン屋の娘と一緒にいるつもりか?!」

サーシャ(神)

「ええ。当分の間は」

メフィ

「最高だ。素晴らしい。これで俺は毎日、あんたと、この耐え難いほど純粋な娘の両方を相手にしなきゃならない!」

グレッチェン

「メフィ……」

メフィ

「何だよ?! 文字通り全能の神がすぐ隣に座ってる状態で、どうやって邪悪な悪魔のオーラを維持しろっていうんだ?!」

サーシャ(神)が、豊かで温かな笑い声を上げた。

サーシャ(神)

「落ち着きなさい、メフィストフェレス。あなたを裁くために来たのではありません。私は学ぶために来たのです」

メフィ

「何を学ぶんだ?! 俺の堕落させる仕事を完全に不可能にする方法か?!」

サーシャ(神)

「そうかもしれません。どうなるか見てみましょう」

メフィは呻き声を上げ、影の両手で顔を覆った。

メフィ

「……完全に悪夢だ」


⸻


その日の午後。


静かな住宅街にある小さなカフェ。

一行は大きな木製のボックス席にぎゅうぎゅうに集まっていた。

グレッチェンとサーシャは隣同士に座っている。

話をしながら、サーシャがテーブル越しに手を伸ばし、グレッチェンの指に自分の指を絡めた。

グレッチェンもためらうことなく握り返した。

その場にいる全員の中で、形而上学的な会話を直接頭の中で聞くことができるのは、グレッチェンとサーシャだけだった。

メフィ

「……見ろよ。これを見ろ。

俺の職業に対する、完全な侮辱だ!」

サーシャ(神)

「ずいぶん取り乱していますね、メフィストフェレス」

メフィ

「俺は誘惑を司る古代の存在なんだぞ! 俺の仕事は、人間が偽りの笑顔の裏に隠してる醜くて利己的な動機を暴き出すことなんだ!」

サーシャ(神)

「それなのにあなたは、ただ恋人の手を握っているだけの娘の上に浮かんでいる」

メフィ

「現代のシステムの欠陥なんだよ! 昔なら、人間のエゴをちょっと突けば、七つの大罪の一つを犯す。はい、終わり! ところが今はどうだ? 偽善の皮を剥いで、生の欲望をさらけ出してやると、あいつらはこう言うんだ。

『本当の自分を見つける手助けをしてくれてありがとう!』

俺の堕落を自己実現に変えやがるんだ!」

サーシャ(神)は、サーシャの胸の奥から温かく静かな笑い声を響かせた。

サーシャ(神)

「それは興味深いことではありませんか? あなたが彼らを破壊するために灯した小さな火花が……彼らを前へ進ませる燃料になるのです」

メフィ

「腹が立つ! 最悪だ! ゲームバランスが完全におかしい!」


グレッチェンはアイスティーを気軽に一口飲み、サーシャの手の甲を親指で優しく撫でた。

グレッチェン

「ねえ、メフィ……そんなに嫌なら、本当に悪い奴のところへ行って取り憑けばいいじゃん。腐敗したCEOとか。筋金入りの嘘つきとか」

メフィ

「それで何をしろっていうんだ?! すでにクズみたいな奴がコート一着盗むのを見てるだけか? そんなのどこに職人芸があるんだよ?! イージーモードだぞ、グレッチェン! 退屈なんだよ!」

グレッチェン

「ああ。じゃあ私が手強いから、ここに居座ってるんだ?」

メフィ

「俺がお前と一緒にいるのは、冷たくて知的な仮面を剥がして、お前の聖人ぶった魂を泥の中へ引きずり込むことが俺の最高傑作になるからだ! お前の馬鹿みたいな恋人が、その聖人の光で俺を目潰ししなければな!」

サーシャ(神)

「メフィストフェレス、あなたを目潰しするつもりはありません。むしろ……あなたの存在を気に入り始めています」

メフィ

「……何だと? 俺の悪魔としての尊厳を侮辱するな!」

サーシャ(神)

「あなたが生み出す摩擦がなければ、人間の心は停滞します。あなたは人間に闇を見つめさせる。そしてその結果、人間はより強い確信を持って光を選ぶのです」

メフィ

「俺の悪行を正当化しようとするな! 俺はお前の小さな教育教材じゃないんだぞ!」

グレッチェンは小さくニヤリと笑った。

グレッチェン

「メフィ、どうやら助手から教育実習生に昇進したみたいだね」

メフィ

「うるさい、グレッチェン!」


ボックス席の反対側では、サーシャとグレッチェンの静かな親密さと、二人が周囲のことなど完全に気にしていない様子に、ついに反応が爆発した。

トシキはアイスコーヒーを飲んでいる途中で固まった。

目が飛び出しそうなほど見開かれている。

トシキ

「待て――

何?!

ちょっと待て! 二人って……付き合ってるの?!」

シンディはフォークを皿に落とした。

CLINK!

そしてグレッチェンとサーシャを交互に見つめ、完全に呆然としている。

シンディ

「待って! いつから?! なんで私だけ今まで知らなかったの?!」

トシキ

「この町、みんな秘密の恋愛を隠してるのか?!」

一方、レイチェルは落ち着いて紅茶を一口飲み、知っていたと言わんばかりの笑みを浮かべて顎を手に乗せた。

レイチェル

「あら、何を今さら。二人とも、ネオンサインくらい分かりやすかったわよ。数週間前には気づいてた」

トシキ

「レイチェル、知ってたの?!」

レイチェル

「私は弁護士よ。観察が仕事なの」

ルイーズ・ゴールドバーグ博士はタブレットから顔すら上げず、眼鏡を軽く直した。

ルイーズ

「二週目の時点で統計的に明白だったわ。非言語的なボディランゲージと、グレッチェンの心理評価記録に基づけば、恋愛感情が存在する確率は九十八・四パーセント」

グレッチェンがルイーズへ鋭い無表情の視線を向ける。

グレッチェン

「ゴールドバーグ博士……私の恋愛状況を心理評価ファイルに記録したの?」

ルイーズ

「データはデータよ、グレッチェン」

シンディは両手で顔を覆い、静かに呻いた。

シンディ

「ママ、人の恋愛まで勝手に分析しないで!」

トシキはまだ困惑しながらも、苦笑して首を振った。

トシキ

「……マジかよ。神が中にいるパン屋の娘と、悪魔が取り憑いてる大学院生が付き合ってる。これはもう、人類史上最も奇妙なカップルだろ」

シンディは最初の驚きを振り払うように微笑んだ。

シンディ

「正直……なんか、二人らしいけどね」


⸻


グレッチェンのアパート――深夜。


グレッチェンはベッドに横たわり、天井に浮かぶ淡い月明かりを眺めていた。

メフィは窓の近くに気だるそうに浮かび、影の尾を苛立たしげに揺らしている。

グレッチェン

「メフィ?」

メフィ

「何だ? 新しい誘惑の作戦を考えるのに忙しいんだ」

グレッチェン

「出ていかないよね?」

メフィはしばらく黙った。

赤く光る目を細め、窓ガラスを見つめる。

メフィ

「言っただろ。お前みたいな皮肉屋で心を閉ざした知性を壊すには時間がかかる。俺がいなくなった瞬間、お前の勝ちだ。俺はゲームに負けない」

グレッチェン

「そう。サーシャのシナモンロールとは関係ないんだ」

メフィ

「彼女のシナモンロールは無関係な変数だ!」

グレッチェンは身体を横向きにし、唇にかすかな笑みを浮かべた。

グレッチェン

「じゃあ、これからも頑張ってね、悪魔さん。どっちの仮面が先に剥がれるか、見てみましょ」

メフィ

「……フン。じゃあな、宿主。明日も堕落活動は続く」


⸻


サーシャの寝室――カラマゾヴァ家。


サーシャはベッドのそばに跪き、銀の十字架を両手で包んでいた。

サーシャ

「主よ?」

サーシャ(神)

「何でしょう、我が子よ?」

サーシャ

「メフィに言ったこと……本当にそう思っているのですか? 彼の闇にも意味があると?」

彼女の中に宿る神の光が、柔らかく輝く。

胸の奥を穏やかな温かさが満たしていく。


サーシャ(神)

「あなたがグレッチェンを愛している姿を見なさい、サーシャ。あなたが愛しているのは、磨き上げられた完璧な像ではありません。疑いと格闘し、闇を抱えながら、それでも毎日温もりへ手を伸ばしている一人の人間です」

サーシャは目を閉じ、その言葉が脈の中まで染み込んでいくのを感じた。

サーシャ

「はい……」

サーシャ(神)

「もし人類が完全に秩序正しく、従順な存在だったなら、愛はただの命令になってしまいます。でも、欲望も、混沌も、そして誘惑さえも……それらがあるからこそ、あなたが愛するという選択は本物になるのです。メフィストフェレスは人間の心の醜さを暴こうとします。しかしそのたびに、彼は人間が持つ恩寵の可能性を明らかにしてしまう」

サーシャは静かな部屋で温かく微笑んだ。

サーシャ

「彼、本当に悪魔としてはダメダメなんですね」

サーシャ(神)

「それは本人には言わないでください。あの子、意外とメンタルが弱いのです」

サーシャは静かで可愛らしい笑い声を漏らした。

そして、ベッドサイドの蝋燭を吹き消し、穏やかな眠りへ目を閉じた。


[シーズン2・エピソード3へ続く]

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