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冬晴るる日⑧

 視線が交わる。瞬間、キィンと金属音を立てて剣がぶつかった。フェデリーカとフェリーナが左右から攻撃を仕掛ける。風を切る音とともに繰り出された斬撃は軽々しく避けられた。攻撃で体制を崩したこちらを、カーティス兄さんの剣が狙う。


 幾度となくそれを繰り返し、次第に互いの体に傷がつき始める。切り傷、擦り傷、刺し傷。取るに足らない小さな傷から、命に関わる致命傷まで。どれ程の時が経過したときか。狙われたフェリーナは首から胴体に向けて切り裂かれ、フェデリーカは体制を崩したところを狙われ刺された。


 あちらも傷を負っているのに、その程度の差がありすぎる。崩れるように地面に座り込んだ。横腹の傷から血が止まらない。


「内臓は避けたか。しかし、その傷では動けないだろう」


「ッ……ふ、」


 座り込んでいる私の首に添えられた剣先。そのまま一思いに首を掻き切られる。かと思えば、視界には倒れ込むカーティス兄さんの姿。もう瀕死で、死んでしまったのではと思っていた、フェデリーカが隙をついて攻撃をしかけたのだ。


 カーティス兄さんの視界から、意識から私という存在が外れたその瞬間。


 短剣を投げつける。


 勢いのまま投げられたそれは、弧を描くことなく、標的に突き刺さった。首元、頸動脈を掻っ切り、カーティス兄さんにトドメをさした。


 運に任せた投擲。はたして、それは私の味方をしたのだ。


 重い体を動かしながら二人に近づく。手を伸ばせば触れられるほどの距離に近づいた時には、どちらも息絶えていた。言いようのない喪失感に苛まれるも、体を引きずりながら足を進める。


 クレアは逃げ隠れた時に避難させた瓦礫の裏、そこに変わらず座っていた。


 カーティス兄さんを刺したせいで血だらけの剣を放り投げ、腹の傷を押えながらクレアの元に向かう。放り出された手は冷たかった。その手を両手で包み、傍に座り込む。


「…………ク、レア。」


 彼女は答えない。


「クレア……。」


 こちらを見ない。


 もう死んでしまったのではと理解したくなくて、首で脈を測ろうとした手をもとに戻した。近くで敵軍と戦っている兵士たちの音が聞こえてくる。剣と剣がぶつかり合っている金属音、「死にたくない」と叫び逃げ惑う足音、降伏を促す敵軍の声。可哀想だとは思うが、私にできることはないし何かをするつもりもない。


 戦場で陽動や指揮を得意とするセレーナ姉さんもカリーナ姉さんもいない。シエラン兄さんはそういったことが得意ではないし、そつなくこなすのはクリスティーナ姉さんだが、そもそも二人ともカーティス兄さんが殺してしまった。そのカーティス兄さんも私が殺したのだ。


「……ッかは、ごほ」


「! クレア……?」


 急に意識を取り戻したのか気管に入った血に咳き込んでいる。


 まだ命はある。


 生き残っているのは私とクレアだけ。


 街に降りていったところで助けて貰えはしない。今頃、ジェニーロスト国の兵士が詰め寄ってきているはずだ。クレリデイラ家を拘束し、戦争の首謀者としての責任を取らせる。そしてカーティス兄さんを新たなシリディ国の王にするという契約を果たすために。契約を果たす相手も、もういないとも知らないで。この戦争とも言えない蹂躙劇は、下に位置する「厳寒の街」ジェラムの民も傷付けているのだろう。おそらく街もその影響で混乱状態だ。


 あえて捕まって、クレアの治療を頼むことも考えた。だが、敵の兵士が子供とはいえ死にかけの敵を、しかもクレリデイラ家直系とされている私たちのことを助けてくれるはずがない。なら一か八か。フェデリーカ達のような私たちを助けてくれる存在がいない今。厳寒の街と名高いジェラムの由来となった山、入った者は誰も生きて帰って来れない「死の魔境」ジェニラーム山に登る。みすみす捕まって死ぬよりも、運に任せて命を賭けるほうがよっぽどマシだ。

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