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魔法陣から放たれる眩い光とキィィィンという甲高い音が儀式の間を呑み込んだ。

光と音は次第に弱く小さくなっていき儀式の間に居合わせた者達は食い入るように魔法陣へと視線を送る。

光が消え、音が消え魔法陣の中心には長身痩躯のスーツ姿の男が立っていた。

黒髪をオールバックに撫で付け、神経質そうな切れ長の目とは些か不釣り合いな丸眼鏡、口元は引き結ばれシャープな輪郭も相まって受ける印象は些かならず鋭利なものであった。


「よくぞ呼びかけに応じてくれた!勇者よっ!我らの救世主よ!!」


居並ぶ者達の中で一際豪奢な衣装を身に纏った老人が白く長い髭を撫でながら歩み出た。


「勇者よ!その力をもって我らを滅びの運命より解き放ってくれ!!」


興奮気味に老人は叫び、周りに居た者達も勇者様!勇者様!と叫んでいた。

そんな中でスーツ姿の男は何一つ反応を示すことなくピンッと背筋を伸ばし直立不動、そんな男の様子に叫ぶ声は次第に引いていき儀式の間に言いようのない沈黙が降りる。


「ゆ、勇者よ、どうしたのじゃ、なぜ黙ってお――」


男の様子を不審に思った老人が声をかけるもその言葉は男の胸元から発せられた振動音によって遮られた。

音の発信源である携帯電話を取り出した男は通話ボタンを押すとスっと耳に当てた。


「はい、ルクスリアです」


『あっルクス、大丈夫~?』


応じたスーツ姿の男、ルクスリアに甘く蕩けるような声音で呼びかける女の声。


「私自身のことでしたら今のところは、状況の理解でしたら残念ながら確証には至っておりません」


『あら、見当は付いてるのね。たぶん正解よ、そこはこっちとは異なる次元に存在する世界、異世界ってことになるわ。そして指名はあ・な・た』


(当たって欲しくはなかったですね)


そんな事を思いながらルクスリアはやや青みがかった黒い瞳を閉じた。


「……アスモデウス様、開拓をなさるなら資材部に回してもらいませんと。私では対応出来かねます」


『あぁ、違うわ、そうじゃないのよ。ほら、前は召喚陣流すのに魔導書とか使ってたじゃない、陣のロット確認したらその頃の物なのよね』


「つまり魔導書が」


『そう、流れちゃったみたい。でもまぁ、魔導書なんて旧式が今更起動するなんて驚きよね~』


「よほど保存状態が良かったのでしょう。名指しの召喚陣など骨董品もいいとことですから」


『なんだか懐かしいわねぇ、新米のあなたに仕事のいろはを教えてた頃を思い出すわぁ』


(嫌な流れですね)


『そうだわ!たまには初心に還ってみるのもいいんじゃないかしら。ルクス、ちょっとてきなさいよ!」


結構なイレギュラーに加え随分面倒なことをサラッと言ってくれる上司にルクスリアの眉間には深い皺が刻まれていた。


「お言葉ですがアスモデウス様、私にも仕事があるのですが……」


『大丈夫よ~。皆、優秀な子達だもの。フォロー出来るわよ、それにあなたの育てた子達なら顔も繋いであるんでしょ?」


「それはそうですが、進行中のものもあります。途中で他の者に代わるというは失礼に――」


『そういうのは私が引き受けるわ。だからそっちに集中しても大丈夫よ~』


「しかし、それではアスモデウス様に負担が、アスモデウス様の代役などおりません。どうしてもと仰るのなら、ここを他の者に当たらせるのがよろしいかと」


『あら、舐めないでくれるかしら、誰があなたを教育したと思ってるの。私よ、この、わ・た・し。負担でも何でもないわよ』


迷惑な思いつきを引っ込めようとしない上司に思わず出そうになるため息をルクスリアはグッと堪える。こうなってしまっては絶対に折れることの無いのを知っているため。

だが、ここで引き下がるわけにもいかない。


「アスモデウス様、模造品イミテーションを覚えていらっしゃいますか?」


『どうしたのよ、急に。……覚えているわ、上位の世界の魂を下位の世界に落として凡人から英雄を作り出すアレよね。盤上での格なんて、たかが知れてるのにねぇ~。量産の安物は客の質を落とすからホント参ったわよ、忘れるわけないわ~』


「はい、こちらに呼び出された時、……私は勇者と呼ばれました、最初は召喚陣を使わせるための方便かと思いましたがアスモデウス様が関知されていないということは――」


『ふーん、勇者召喚がまかり通ってるてことね。チェス盤の上である可能性があると……』


勇者の一言にアスモデウスのトーンが一段落ちた。


「駆け出しならともかく、今更神々のいさかいに関わったところでデメリットの方が大きいかと。しかも今時勇者召喚をしてる世界の神など」


『イカサマの世界の価値。確かにねぇ、でも今はジャンクの可能性も捨てきれないじゃない』


(統治者無き領土……なおたちが悪い)


【神の居ない世界】


「ですがギャンブルには変わりありません。仮にジャンクだったとしても抹消までにファンシーカラーが見つかる保証はありません、そのような不確定な物のために今ある仕事を疎かにするのは賛成しかねます」


『プッ、クッフフッ、クククッ、フフッハハハハハハハハハハッ』


「……アスモデウス様」


突然笑いだした上司にルクスリアの眉間に刻まれた皺が一層深くなる。


『ハァ~ア、ホントにルクスは面白いわ~堅実な悪魔なんてあなた以外いないでしょうね。フフッ』


「・・・・・・」


『でもねルクスリア、昔から言ってるでしょ。あなたはもう少し冒険することを覚えなさいって』


この言葉を聞いてルクスリアは反対することを諦めた。

この後に続くであろう言葉も容易に想像することができる、それは右も左も分からない駆け出しの頃から言われ続けてきた言葉だから。


『アスモデウスの名において命じます。ルクスリア、そこであなたの価値を示しなさい』


王者の威厳に満ちたその声に逆らうことはできない。


「仰せのままに。我が主」


『フフッ、よろしい。期待してるわよルクス。じゃあね~』


ルクスリアの言葉に満足したようで聞こえる声は一転して柔らかくなりその声を最後に通信は切られた。

ルクスリアは携帯を懐にしまうと深いため息を吐き、眼鏡のブリッジを右手の中指でスッと押し上げる。


「ゆ、勇者よ……」


ルクスリアの行動に困惑しながら、それでも声をかけてくる老人へと視線を向ける。


(はぁ、……さて仕事にかかりますか)


ルクスリアは老人に向き直り右手を胸に当て腰を折る。


「ご利用ありがとうございます。アスモデウス配下、このルクスリアが貴方のお望み、叶えてみせましょう」


放置してたものです。続くかは気分次第。

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