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---55--- 拠点 お風呂造り 1

---55--- 拠点 お風呂造り 1


 衛兵団隊長の先導により王宮内の廊下を無言で宝物庫を目指しゆっくり歩みを進める。

 正直このままむさ苦しい緊張しまくっている男の背を眺めながら無言でゆっくり歩き続けるのは耐えがたい苦痛だ。


 心の癒しにシャボちゃんだけでも連れて来たら良かったかもと少し後悔している。


「隊長、宝物庫はまだか?てか宝物庫は何処にあるんだ?」


 まさか此処で話し掛けられるとは思っていなかったので、返答次第で、この命が終わる可能性があると思っているデデルクは、顔を引き攣らせながらゆっくり振り向き生唾をゴクリと飲む。


「は、は、はい!。 宝物庫は地下にあ、あ、有りまして・・・もうしばらくで着きます」


 少し嘘を付いてしまった、今居る階は王宮でも高い個所地上三階部分だ。

 宝物庫は地下にあり、ここから四階分下らなければならない。

 しかも曲がりくねった迷路のようなこの王宮内をだ。


 辿り着くまでには数分要する。

 このペースで歩けば確実に十分以上は時間が掛かるだろう。


 何故こんなにこの男は緊張して歩いているのかが理解出来ないシアキは一つ今後の為、悪戯を思いつく。


「このまま歩くのは流石に面倒だしさ~。

 そこの窓から中庭に飛び降りて、手っ取り早く地下を目指さないか?」


 廊下の窓を覗き、下の中庭を見ているその目は本気の目だ。

 此処は地上約十五メートル程の高さがある三階部分だ。


 もし完全装備状態の自分がその窓から飛び降りるとどうなるかはどんな馬鹿でも容易に想像が出来る。

 それは確実に高い個所から投げ落とした卵のように地面に叩きつけられ潰れて死んでいる自分の姿だ。


 そんな事には成りたくないので、慌てて、このまま歩き、宝物庫を目指す事を提案する。


「マムラ国王様、大変申し訳ありません。

 私は、この高さから落ちれば確実に死んでしまいますので、ご足労ですが、このまま歩き宝物庫を目指して頂けませんでしょうか?」


 すでに窓枠に腰掛け足を外に向けて、足をぶらぶらさせながら、こちらを見ている。


「いや、此処から降りた方が早いって!。 大丈夫だって、死にはしないって、じゃ~行くぞ」


 そう言いながら飛び降りて行った。

 それと同時に自分の体に紐が結び付けられているかのような感覚を覚える。

 その正体が何かを確認しようと全身に目をやるが何もない、触り確かめようとするが、窓に体が引き寄せられ、必至に足を踏ん張り耐えるが耐えきれず、窓から飛び出て宙を舞い落下する。


 中庭には、マムラ国王がニヤリと不気味な微笑みを見上げ落下する自分の方を見ている。

 このまま地面に叩きつけたられ、死ぬのだと思いギュッと瞼を閉じ、最後の時を待つ。

 だが一向に地面に叩きつけられる強い衝撃が体に伝わってこない。

 高いと言っても、これ程の長い滞空時間があるのは、何故なのかと不思議に思いそっと瞼を開け確認する。

 すると眼前鼻先、地面ギリギリで浮いて停止していた。


「ヒィー」


「ははは、そんなに悲鳴をあげなくてもいいぞ。


 な!死ななかっただろ、これから俺が居る時は不可能って思う事も出来るって思っておいてくれ。

 隊長さんには、これから国王への伝達係にもなってもらうんだからな、これ位俺が一切常識等通用しないって事は予め分かっておいてもらわないといけないからな。


 さぁ~宝物庫は何所だ?指で指示してくれるか。

 正直隊長の足は遅いからな、その原因って装備が重いからじゃないのか?。

 これからは、もっと早く動けて硬い防具にした方が良いぞ。


 で?どっちだ? このまま浮かして持ったままの状態で連れて行くからな」


 もうこのマムラ国王は常識が通用しないと言う話しが片付くものではないと感じながら、宝物庫がある今居る位置からちょうど向かいの中庭の端にある階段方向を指し示す。

 原理は分からないが完全装備で約六十キロあり自分の体重を合わせると軽く百キロは超えている。

恐らく発言内容からすると、その重量を腕一本で持っているという事だと推測すると恐ろしくなる。これ以上、自分が重荷にはなってしまっていたらと考えると後でその事を追及され、この命がなくなってしまうかも知れないと思いすぐさま降ろすよう懇願する。


「丁度向かい側の階段で御座います。

 マムラ国王様。 今「持ったまま」と仰いましたが、私の総重量全てがその御手に載っているという事でしょうか?。


 もしそうなら降ろして頂けますでしょうか、マムラ国王様の御手を煩わしたと我国王に知れれば、私が怒られてしまいます」


 まるで風船を持っているかのように右上に隊長を浮かせている。

 その中庭で繰り広げられている光景を観た王宮内で働く者達は恐れを抱き、身を隠せる場所へ足早に去っていく。


「ははは、気にするな、まぁ~俺の言葉を少しは噛砕き理解し推測したのは褒めてあげるよ。

 実際俺が右手一本で隊長を持ってるって言うのは正しからな、確かに相当な重量だと思うが、これ位の重さなら俺は平気だから気にするな。

 でも今後もっと動きやすい装備に変えた方が良いぞ。毎回浮かせて持つのは嫌だからな。

 しかしこう見ると風船だな、隊長風船だな。

 皆見事に吃驚したのか逃げってたな、ちょっと薄情な気もするが、こんなもんだろうな理解出来ないものには近づかない方が自分の身の為だって考えたんだろうな。 さてと目的地の宝物庫は今居るこの場所の丁度反対側なんだな!。

 やっぱり、中庭に降りた方が早かったな!。

 何かワクワクするな、浴槽に使えそうな物があるか分からんが宝物庫って響きは男心を擽るな」


 降ろす事を微塵も考えていない様だ。

 総重量百キロ越えをしているはずの自分を右手一本で持っていると言っているにも拘わらず、凄い勢いで中庭の端から移動する。

 この中庭の広さは正四角に整えられ、一片の長さが約五百メートルと結構な広さを有しているのだ。

 通常完全装備状態の自分が反対側を直線で目指したとしても到着するまでに恐らく途中息切れを何度も起こし休憩数回入れてるので約二分程度は掛かるだろう。


 だが、マムラ国王は何の重さを感じていないかのように歩みを進めている。

 浮いているので、マムラ国王の歩いた後方に目を向けると中庭に歩いた証となる様に、地面にくっきりと足跡が深々確実に重量が圧し掛かっていたとの証が歩いた軌跡となって残されていた。

 この足跡は他国の使者が訪れた際に見せれば説得材料になるかもしれないと思い、必ずこれを保存すると心に誓うのであった。


 本当に重さなど感じていないのだろう、息切れもせず一度も休憩をする事なく、あっという間に地下に続く階段に辿り着く。

 階段を降りても、宝物庫迄は二百メートル程歩かなくてはならないが、お構いなしに速度を変える事なく地下の松明の光しかない薄暗い廊下を進んでいく。


「マムラ国王様、そろそろ降ろして頂けますか?。

 これ以上は流石にマムラ様の御手を疲労させてしまいます。


 この先二つ程、角を曲がりますと宝物庫になります。

 そこを守る警備衛兵が居りまして、その者達は国王以外の侵入者を理由がどうであれ襲うよう訓練を受けております。

 危険ですので、私が王命を伝えてまいりますので、降ろして頂けますでしょうか」


「ん?気にしすぎだって、まぁ~少し同じ態勢で持ってるから手が怠くは成るけど、重さ的には軽いから大丈夫だし、このまま行くぞ」


 話しが噛み合わない、この先は国王以外の者には誰彼構わず襲う衛兵が待ち構えているのだ。


 先二つ程、角を曲がり、宝物庫らしい場所が見えた、扉は格子状で室内が見れる状態だ。 厳重に扉を太さ五センチ程の鎖で取っ手部分をぐるぐる巻きにし施錠されている。

 現れた不審者と何故か浮いている自国の衛兵団隊長を見て扉の前で警備に当たっていた衛兵が槍を向け、シアキを静止させる為行動する。


「何者だ!その者は我国の衛兵団の隊長ではないか!その方を速やかに地面に降ろし、ひれ伏し降伏しろ、さもなくば・・・」


 槍を突きつけられているが手で払いお構いなしに、格子状の扉の前に立ちシアキは宝物庫内の物を物色する。

 部屋内に無造作に金時計、ただの柱時計、懐中時計、宝石等様々な金銀財宝の宝の山々が無造作に山積みに置かれている。

 その山の中に陶器製で四隅にライオンの四肢を思わせる金細工が申訳程度に施された浴槽があった。

 この財宝の中では凄く地味目だ。その横には全て金で作られたのだろう金の浴槽とかがある。


 槍を手で無造作に払われた事に怒りを覚えた警備衛兵は脇腹を狙い槍を両側から突き刺す。 両脇に槍が勢いよく突き刺さり進み、一人は腹部分へ槍を進め、もう一人は背中側に槍を進め交差する様に槍を進める服を見事に両断してみせた。

 身体が露わになるがそこには傷一つ付いていなかった。


「なんだ化け物かコイツは!」


 その言葉を聞き夢中で宝物庫を見ていたシアキは自分の服が切り裂かれているのを確認し、両側に居る槍を持った衛兵がこれ以上騒ぐと面倒くさいと思い殺気だった目線で一人一人ギロリと睨み付ける。

 見られた瞬間、背中に氷水を勢いよく掛けられたように悪寒を感じ、額から汗が噴き出てる。 そして恐怖が全身を支配し呼吸すらする事を拒み身動きが全く取れなくなりガクガク体が震えだす。

 このまま息をしないのは流石に不味いと思い必死に心の中で息をしろ息をしろと念じ、どうにか浅いが呼吸をする事が出来た。


 思いのほか自由に対象を絞って殺気が出せる事にシアキは喜びを感じている。

 だがこれは極近距離であるから成功しているだけでシアキはイマイチ出し方を把握していない状態だ。


「あぁ~もう、服が台無しじゃないか~。

 それにうるさいぞ、お前達、しかも少し睨まれただけで、額から汗流し悲壮な顔して震えて動けなくなるんなら最初から攻撃を仕掛けようとするな。

 相手との力量位は図れるようになった方が良いぞ、しばらくそうやって固まってろ。

 取敢えず、どれを貰うかもう決めたぞ、隊長。

 あの奥にある浴槽とそこの時計を一つ貰っていきたいんだが、確認しておくがホントにラミン国王はこれらを使わないのか?」


 無邪気に微笑みながら宝物庫内のある一点を指示さしている。

 その箇所には金銀財宝の山の上に無造作に置かれている傷は無いがこの中ではとても地味目な浴槽があった。

 この部屋にある物は、貴族位を剥奪された者や富豪から家の取り潰しの際に集められた物や同盟国からの貢物が各種保管されている部屋だ。


 何故、警備衛兵二人が攻撃態勢のまま動けない状態に陥っているのに、自分は何も無いのかという事に対し少しだけ優越感を覚えながら、この部屋にある物は使用しない物ばかりである事を伝える。


「此処にある物は、王は一切使用致しませんので、大丈夫です。 では、施錠の鎖を外しま・・」


 こんな立派なものを使わず飾りもせず無造作に山積みしている位なら民に時計でも譲ればいいのにと思い少し苛立ちを覚える。

 そして両側で槍を突き刺そうとしている警備兵の顔色がどんどん青ざめていくのを横目で確認し、恐らく恐怖で息をする事が出来ず酸欠状態になってきているのだろうとシアキは判断しそろそろ殺気を解除してやるかと思う。


 ただ殺気を解除するのは味気ないので、隊長の解錠の返答を待たず、眼前の太さ五センチ程の鎖を人差し指一つで叩き落とし解除しようと考え空いている左手人差し指を振りかざして叩き下ろす。


 施錠の鎖が壊れた瞬間に殺気を同時に解除する。

 警備衛兵達はそれに合わせるようにカハっと息を吸い込み、同時に腰を抜かしその場に座り込んでしまう。


「ははは、ゴメンゴメン、少し殺気を解除するの忘れてたな。

 しかし人差し指で軽く叩いたつもりなんだが、壊れたぞ!。


 う~ん隊長、国王に一応宝物庫何だから、もっと丈夫な物で施錠するか魔法で強化した方が良いと伝えといた方が良いぞ。


 それと警備衛兵がこんな緩い殺気如きで呼吸するのを忘れる位恐怖して動けないとか有り得ないぞ。

 おまけに腰を抜かすとか警備兵としては弱すぎだぞ。


 ほらお前達の隊長さんを見習ってもっと修行しろ、殺気の中隊長は平気だっただろ。


 まぁ~いいや、他の国の警備体制とか興味ないしな。

 隊長、腰抜かしてる連中を介抱してやってくれ。


 じゃ~あそこに有る浴槽とそこの時計を一つだけ貰って行くからと、ラミン国王に伝えといてくれな」


 そう言い残すと宝物庫内部に入っていく。

 まだ、宝物庫内の侵入者用の罠が解除されていないのを伝えていない。


 このまま中央付近に近づけば、仕掛けられた対侵入者用の罠が発動し無数の矢が雨の様に飛んでくるのだ。


「マムラ国王様、まだ宝物庫の侵入者用の罠は解除されておりませんその場で一旦止まってください」


 忠告するが、時すでに遅し、既に中央迄歩みを進めていた。

 侵入者用の罠が起動し無数の矢がマムラ国王目掛け降り注ぐ。


 次に予想されるその無残な光景を見たくないとフジイデ王国衛兵団隊長のデデルク・サンドは瞼を強く閉じる。


「おいおいおい、隊長、ちゃんと見ておけよ。折角面白いものが見れたのに、どうした俺が矢に串刺しに成ってる所を見たくなかったか?。 大丈夫だから眼を開けてこっちを見てみろ。」


 死んだと思った者が声を掛けてくるので、恐る恐る閉じていた瞼をあけ、宝物庫中央付近に目を向ける。


 そこには金銀財宝の山の前でマムラ国王がこちらを向き手を振っている。

 その金銀財宝の山の上に無数の矢が何か見えない膜の様な物に突き刺さったかのように宙に浮遊した状態で浮いていた。


「言っただろ、俺と一緒に居る時は常識が一切通用しないって。

 よし、デデルク・サンド!良いか良く聞け、これから罠があるなら発動する前に事前に教えておいてくれ。


 俺はこうやって周りを警戒して無傷に行動は出来るが、不意に何かあった場合、お前がその罠に掛かって怪我したり死ぬ恐れがあるからな、一応ラミン国王に、お前に怪我させたとかで謝りたくはないからな。

 本当に今回一緒に宝物庫に入ってなくてよかったな、はははは、それに今回の事は俺が事前に罠が有るかって聞いてないのが悪かったから気にするなよ」


「はい、分かりましたマムラ国王様、今後このような事が無いように事前にお知らせさせて頂きます。

 私がもっと早く気づき危険である事を伝えなければこのような失態を犯したにも拘らず、ご寛大な対応をして頂き痛み入ります」


「気にするなって、じゃ~今度こそ、この浴槽と、この懐中時計を貰って行くから、ラミン国王に伝えておいてくれな」


 浴槽と金細工が施された懐中時計に触れ、手を振って見せたと思った次の瞬間、マムラ国王の姿と共に浴槽等が掻き消えた。


 拠点玄関前に転移で到着し、浴槽を降ろし浴槽をまじまじと腕組みをしながら眺める。 懐中時計を玄関階段に置き少し悩む。

 食事後、すぐに風呂に入りたいので、簡易的に浴場を室外の死角スペースに作ってしまおうと思い立つ。


 あまり設計図等が無い状態での工作とか得意ではないが、思い立つとどうしても作りたくなるものだ。

 薪置き場に行き、まだ薪に成形されていない森から貰った直径で三十センチ枝長さ三メートルの物を手に取り上空に浮かせ、魔素で板状に切断していく。


 成形し終わった板を浮かせたまま、屋外で誰からの目にも触れない死角位置になる室内の窓もない玄関横の地面に板を敷き詰める。

 そして壁に成る様に地面に残りの板を埋め込み人一人が行きき出来る隙間を開けて壁を作る。

 余った板を屋根代わりに数枚置き、その中に貰ってきた浴槽を設置し簡易の露店風呂が完成する。

 

「う~ん、これはこれで即席にしては良い出来だな」


 湯が張られていない浴槽を見ていると食事前にどうしても風呂に入りたいと言う欲求が生まれる。


 単距離で念話をするのは精神力の無駄遣いだと思い取敢えず室内に入る。

 リビングでは他種族、神族二名、魔族三名、空族一名、獣人族一名、人族二名が楽しそうに食事をしている。 モンスター一体は所定の位置で寛いでいる。


 戻ってきたシアキに気づき全員頭を下げて口の物を飲み込んでお帰りの挨拶をする。

 全員皿に綺麗に取り分けられ各々食事をしているが、奴隷のリムだけは自身の前に取り分けられた皿を置き食事に一切手を付けていない。


「リムどうした?全然食べてないじゃないか?」


 その問い掛けにラフェルが何故食べていないかの説明をしてくれる。


「シアキさんが食事に手を付けていないので、私が食事をする事は許されませんと言って、リムちゃん食べなかったんですよ。

 ちゃんとシアキさんがリムちゃんに食事に対して、命令を出してあげないと今後こうなちゃいますよ」


「そっか、俺は先に全員食事しててくれって言ったんだが、それでは駄目だったんだな。

 リムいいか、これから幾つか俺が命令するから覚えておくんだ。


 俺が食事の時に居ない事も想定されるからな。

 俺が居なくて色々食事が眼も前に提供されたら、ちゃんと食事をする事を命令する。

 リム自身が空腹を感じている際は特にちゃんと食事を取る事を命令する。

 仲間と食事をする際は、皆と楽しく食事をする事も命令する。


 いいかこれを守れるか?」


「はい、ご主人様の命は絶対です。今後その様な際はお守りします。

 あとご主人様、皆様のお食事を作るのを許可頂いておりますが、台所を使用する際は、誰に許可を得れば宜しいでしょうか?」


「う~ん、奴隷は一々主人の許可と命令が必要なんだな。

 許可か~台所の使用とか許可を取る必要はないし自由に入り食事を作る事を許可する。

 これで誰に許可取る必要もなくなっただろ。

 出来る限り、何か命令とか許可が必要な事が思いついたらその都度教えてくれ。

 

 俺達は冒険者だから一緒に戦いに行くって事もあるし危険な目にも合うかもしれないけどな、リムにも仲間達と同じように極力女の子らしい生活を送ってもらおうと思ってるんだ、皆も、リムにさせてあげて欲しい事とかあったら教えてくれな」


 全員うんうんと頷く。

 この主人は奴隷である自分を本当に一人の女の子として接してくれる。

 その事が未だに信じられないが、同時にこの恋心を気づかれた際、主人に拒絶されたらと思い描くだけでココロが締め付けられるような嫌な感覚を覚える。

 だが、自分を大切にしてくれる主人に対し何かお礼をしなければと思い自分でも何故このような事をしているのか分からないが、その場に立ち上がり皆の注目を集めている。


 この場を何とかしなければと思い立ち綺麗に一礼をしてみせる。


「ご主人様、本当にリムはご主人様の奴隷である事を誇りに思います」


 その綺麗な一礼が何を意味しているか分からないがシアキはリムの肩にそっと振れポンポンっと優しく叩く。


「ゴメンな、奴隷じゃ無かったらもっと自由にさせてあげれるんだろうけど、もう少しだけ我慢してくれな。


 よし、じゃ~皆は、そのまま楽しく食事をしててくれ、俺はこれから風呂に入るから。


 フェンラ美味そうに食事してる所、悪いんだが、外に簡易露天風呂作ったんだ。

 浴槽に水が欲しいんだが水を出してくれないか?・・いやお湯って出せないよな?」


 両手にトカゲの丸焼きを持ちムシャムシャと美味しそうに食べている。


「おふふゃふむひゃ・・ふ~お湯は無理なのじゃ」


「そっか、じゃ~水だけ頼めるか?お湯には自分でするからさ」


 もう返事すら惜しいのだろう再びトカゲの丸焼きに齧り付き美味しそうに食べながら、頷き立ち上がり外に向かう。

 全員どんな物なのか興味があるので食事を取り止めて後を着いてくる。


 室内からの窓もない玄関横に板で人一人入れる様に雑に板で壁が造られていた。

 室外拠点の死角位置になるように設置されたその不格好な物の中を全員代わる代わる覗き込み、浴槽とこの空間の造りをマジマジと観察する。


 唯一、元王女のラフェルと富豪の娘サジュラはお風呂を使用した経験があるので、どのような造りに成っているのか覗き込むが、自分の知るお風呂の造りとは全く異なっていたので、凄く新鮮な気持ちで目を輝かせながら観察している。

 そして元々自身の術で体を綺麗にする神族のララは浴槽自体見た事がないので、今後ルルと入るかもしれない物を興味津々鼻息を荒くして興奮状態で見ている。


「へ~シアキ器用に造ったね~。一緒に入るにしても狭いねコレ」


「当り前だろ!これは一人用だからな、ルルとララは食事後お風呂造り頼むぞ。


 今日、俺はこれに入って食事をして寝るからな。

 あ!確か酒あったよな、飲みたいが年齢的に駄目か・・・、いやルルそもそもこの世界って酒は何歳から飲んでいいんだ?」


「ん?あ~この世界はお酒に年齢制限は特にないよ~」


 そんな事で良いのかと思いつつシアキは元の世界では、いい歳したオッサンであったので、飲めるんなら風呂に入りながら一杯ってのも良いな~と思うのだった。

 水精霊魔法でフェンラが浴槽一杯に水を溜めてくれる。


「これで水の量は良いかの~・・モグモグ」


 あとはこれを沸かすだけだが、どう沸かせばいいか見当がつかない。

 下から火で炙ると浴槽が割れてしまいそうなので却下だ。

 上から火で炙る?果たしてお湯に成る迄、浴槽の淵が耐えられるのかが不明なので、これも却下だ。

 此処は水の中に魔素で熱線を作りだして湯を沸かす事が現実的な方法だと行きつく。


「よし、魔素で熱線を作って水の中に放り込むか!皆一応沸騰しすぎるかもしれないから離れておいてくれ」


 此処でシアキはミスを犯す。

 自身のステータス内容を確認せずに魔素操りを実行しようとする。

 先程フジイデ王国の中庭で衛兵団隊長を浮かせた事とこの風呂場を造るのに木を板に変える時使った魔素操りで今日は後何もできない程に精神力が底をついている。


 そして魔素操りを実行した瞬間、浴槽に凭れ掛かる様にし皆の前で気を失い倒れてしまった。

 それに合わせる様に奴隷のリムも腰を抜かしたようになり地べたに座り込み、まるで草食獣が肉食獣に囲まれた時のような、おびえた眼で仲間達を見てガクガク震えだす。


「え!シアキさん・・・え!リムちゃん大丈夫?」


「ふぉうしふぁふぉほふゃ?・・ど、どうしたのじゃ?」


 両者に手を差し伸べられながら、近づかれるだけでリムは恐怖が込上げてくる。

 恐怖の対象から少しでも離れなければと今出来る最大限の逃げる行動をとる。


「いや~」


 悲鳴を一つ上げ、仲間の眼前で、頭を地面に擦り付けひれ伏し身をこれでもかと縮めブルブル震える。

 この場に居るルル以外何が起きたのかが理解出来ず仲間達は狼狽える。


 状況から見て、恐らくシアキとの感情の共有が切れて、精神が乱れ自分達を恐怖の対象と体が認識しているのだとルルは推測しこれは面白いっと思うのであった。

 奴隷のリムの精神が今どんな状況か容易に想像出来たので、この世界の神がどう行動するのかを見てみたくなり何もせずこの状況をニヤケ顔で見守る事を決める。


 仲間であるリムが自分達の眼前でひれ伏している所を、シアキに知られれば怒られてしまうと言う概念しかないラフェルとフェンラは、取敢えずこの状態を止めさせリムを立たせる為、両脇に手を差し入れようと手を伸ばす。

 

「リムちゃん取敢えずそれはやめて、ちゃんと立とうね、ほら・・」


「どうしたのじゃ、リム殿、ほら立つのじゃよ・・」


―― いやー怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

――― 落ち着くだえ、お主の主人は精神力が尽きて、気を失っただけだえ。

――― お主の主人の仲間を怖がってどうするだえ。

――― そのままではお主の精神が崩壊してしまうだえ止めるだえ、兎に角落ち着くだえ。

――― ほれ、わっちだえ神だえ分かるだえか?


―― 神様、神様、ご主人様が、ご主人様が、神様、神様、助けてください。

―― ご主人様を助けてください、神様、神様、神様。


――― このままではお主の精神世界は崩壊し、わっちが共存出来なくなるだえ。

――― 取敢えず精神を落ち着かせるだえよ。

―― 神様、神様、ご主人様を助けてください、神様、神様、神様。


――― はぁ~たかが主人との感情の共有が切れただけだえ、数時間休めばお主の主人の精神力も回復するだえ。

――― って聞いてないだえな~体が勝手に恐怖を覚えて、精神が恐怖で支配されていっておるだえな。


――― これは不味いだえ、仕方ない緊急措置を行うだえ。

――― 今から少しの間お主の体をわっちの意思で動かすだえよ。


―― 何卒、神様、ご主人様をお救いくださいお願いします。


――― ただ、お主の精神は、今超が付く程、不安定だえ。

――― このままわっちと交代すると精神崩壊する可能性があるだえ。

――― お主の精神保護をする為、一時お主の精神を休眠状態にするだえが、文句は無しだえ、良いだえな。

――― これ以上待てないだえ、早く同意するだえ。


―― はい、同意します。

――― では、少しお主は寝ているだえ。目を覚ましたら元通りだえ。


 その神とのやり取り後、リムの意識は眠りにつき精神保護状態になる。

 ひれ伏しガクガク震えていたリムは何事も無かったかのように立ち上がり、起こそうと手を伸ばしていたラフェルとフェンラの手を払い除ける。


 その行為は奴隷では絶対有り得ない行動だと思い叩かれた手を両者は不思議そうにみる。


「お主達は考え無しに行動しすぎだえ。


 ふ~何たる事だえ、わっちが外に出る破目になっただえ。


 主人が少し精神力が切れて気絶し感情の共有が無くなった途端、この子は、お主達を恐怖の対象としてしか認識出来なくなっておったのだえ。

 それ位気づいてこの子から離れるとかするだえ。

 危うく精神世界崩壊を起こす所だったんだえよ全く・・。

 う~ん取敢えず、魔族と空族の二人は、この馬鹿な男を部屋に連れて行き寝かせてくるだえ。


 それに神族!、お主は何ニヤケ顔でおるだえ。

 何故皆に指示を出さず、このわっちの体であるこの子の精神の安定を図らなかっただえ?。

 場合によってはお主の存在を書換えても良いだえよ」


 奴隷のリムがテキパキと指示を出し、ルルに文句を言う。


「ははは、神降ろし中のリムちゃんに怒られちゃった~。ふふふ、リムちゃんの体だと凄く新鮮だね~。

 ん~私の存在を書換えるって脅しで来たか~ふふふ、面白そうだね~それ。

 良いよ別にやっても~。 ただ私達は騙せても、一応シアキは騙せないんでしょ~。

 もしそんな事をしたってばれたらシアキがどう出るかな~。

 きっともう、あなたの消し方位ならシアキは思い付いてたりしてね~ふふふ」


 悪戯っ子がするようなニターっとする微笑みを見せながら話す。


 神降ろし中のリムは、ゴクリの生唾を飲み込む。

 実際高次元生命体と言っても生命体である以上一定条件で攻撃を受ければ、傷も負うし存在が消滅する事だって有り得る。

 その方法を思い付いているかもしれないと言われ、強ち嘘ではないかもと先程の王宮でのやり取りで薄々気づいているので今の言葉を冗談だとして処理する。

 

「す、する訳ないだえ、ただの冗談だえ」


「ま~良いけど~ね~。

 ラフェルちゃん、フェンラちゃん、シアキはそのままでいいよ~私が連れてくから~。

 えっと神って何か呼びにくいし~何て呼べばいいかな~」


「わっちの神名は教えないだえ。呼びやすいように呼べばいいだえ」


「ふふふ、そこは教えてくれないんだね~。

 まぁ~そうだよね~創った世界の住人に神名を教えると、その者に対して術が一切使えなくなるものね~。

 この法則は私の時と同じなんだね~、ふふふ。


 リムちゃんって、その子の名前で呼ぶね~。

 共有切れで動けないリムちゃん本体は精神保護の為に寝かしてるんでしょうし、そのまま、シアキが回復するまで交代宜しくね~リムちゃん、ふふふ。


 さ~ってと、面白いものも見れたし~、えっとこの場合魔力切れを起こしたって言った方が良いんだよね。


 じゃ~魔力切れを起こした、シアキに代わって皆に私が指示を出しま~す。

 皆はご飯を再開ね~。


 ララちゃんは、食事はしなくて良いから~今すぐ何処からか巨岩(・・)を持って来てね~。

 食事後はお風呂造って、出来たら皆でワイワイお風呂に入ろよ~お酒もお風呂で飲んじゃお~。

 私はシアキを部屋に寝かしつけてくるね~ふふふ」


 軽い口調で各々に指示を出し、シアキに触れ最後ニターっと微笑みを見せ転移で室内に戻る。

 ゆるい口調なのであまり焦る状況でないと判断出来るが、最後の悪戯っ子の笑顔を見て、嫌な予感がしたラフェルとフェンラは慌てて室内に駆けこみ、シアキの部屋の扉を開け様子を見る。


 案の定ベッドに寝かされたシアキ横で、幸せそうな表情を浮かべたルルが、頭をよしよし撫でていた。

 なんと羨ましい光景だと思い文句を言おうとするが、人差し指を口に縦に当て静かにしてっという仕草をして見せられる。

 その次の瞬間、シアキの体が淡い白い光に包まれる。


「ふふふ、二人とも勘違いしてるでしょ~こうしないと精神治癒系の術は発動しないのよ~。

 大丈夫だよ~、抜け駆けはしてないから安心してね~。


 よし、これで精神が少しづつ回復するはずだから、数時間寝れば、目を覚ますはずだよ~。

 さぁ~静かに部屋を出るよ~今は兎に角寝かしてあげないと本当に駄目だからね~」


 淡い光が消えたと同時にそっと全く音を立てずに立ち上がり部屋を後にする。

 残りに仲間達がリビングに戻って来る。

 全員リビングの床に各々の所定の位置に取敢えず腰を降ろし、食事を再開するが、食事に手を付ける気持ちにはなれないでいる。


「う~ん皆、ちょっとシアキが魔力切れで少し気絶しただけじゃない、沈み過ぎだよ~」  


「そうは言ってもですね~今日の戦闘でシアキさんに気絶させてしまう程、負担を掛けてたと思うと・・・。

 はぁ~私にもっと力があればこんな事には成らなかったのに、どうして私はこうもシアキさんに迷惑を掛けちゃうんでしょう」


「シアキお兄さんはお強い方ですが人族ですので、他種族である私達が率先して戦闘に参加すれば負担は軽減出来たかもしれませんね。

 はぁ~私は弱くて戦闘にすら参加出来ませんでした・・・悔しいですもっと力があれば・・」


「ははは、あの男は狡猾過ぎる奴だえが、お主等は何だえ?無能の集団だえか?。

 まぁ~そんなに力を欲するなら、わっちの力でお主達を強くしてやれるだえよ」


 もし何の相談もなしに、そんな事をして二人が強くなったと知ればシアキは激怒するだろう。

 そしてそれを止めなかった自分に対しシアキは口を聞いてくれなくなり、新しい体験もワクワクも経験させないと言われ、これで自分の冒険は終わりだと告げられるかもしれない。


「駄目よ!リムちゃん。

 はぁ~ラフェルちゃん!、エラルちゃん!、二人は、そのままで自分のペースで強くなれば良いんだよ~。

 シアキが今の言葉を聞いたらきっと激怒するよ~。


 もぉ~皆凹みすぎ~、ご飯食べる気が出ないなら、皆も手伝って~。

 ララちゃんが今帰ってきたみたいだし外に行こ~気晴らしにお風呂造り皆も手伝ってよ~。


 そして、シアキが目を覚ましたら凄いお風呂完成させて吃驚させてちゃおうよ~」


 神族は他者や他種族に興味を持たない種族なので、こんなに他者に対し気を使う事はしない。

 だがルルは違う、シアキの仲間が沈んだ状態で居る事が嫌だと言う気持ちになるのだ。


 まさか「ラ」の神族にここまで言わせるとはと、新に仲間になった死霊族のビデアは感心する。

 そして全員このまま此処で気分が沈んだ状態で居ても仕方ないと思いそのルルの提案に乗る。


 全員で室外に出る。


 玄関前に長さ六十メートル高さ三十メートル程の俵型で少しゴツゴツした巨岩(・・)が浮いた状態で置かれていた。

--- 55話目のみの後書き----------------------------------------

55話目最後まで読んでくださりありがとうございます。

どうでしたか?楽しんで頂けたならうれしいですが。


---余談---

 シアキは図面が無いと工作が苦手ですね・・・。

 簡素な物しか出来ません。


では、次56話目で、お会いしましょう。

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