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幻覚の森  作者: 篠田ひさし


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7/7

カミキリ事件

 壊れた私は、土手の道に転がっていた。

 死んだんだ。

 私は、本当に、死んだんだ。

 その時、草が揺れた。

 誰かが来たらしい。

 私の死体を見つける、第一発見者。

 可哀想に、五日前に死んだ私は、もうすでに腐っていて、こんなに醜い姿であるというのに。

 かさかさかさ。

 足音はだんだん私の方に近づいてくる。

 そして、姿を現した。

 長い髪に、白いカーテンのようなワンピース。

 彼女は、私を見て優しく微笑んだ。

「よかった、顔は、まだ綺麗ね」

 そうか、綺麗なのか。

それはよかった。

朝香は私に、微笑みかけてくれた。

嬉しかった。

「辰樹に邪魔をされそうになった時は、正直焦ったわ。でも、辰樹はあなたに惚れてたから、あなたを救おうともう一度“森”に入ると分かってた。そして彼が消えた後、叔父の“たつき”の話をすれば、あなたが自分じゃなくて、辰樹を救うって、信じてた」

 彼女は手提げカバンから、オレンジ色の太陽に反射して輝く、何かを取り出した。

 錆びた斧である。

 彼女は私を見て、また微笑む。

「あなた、優しいから」

 私も微笑み返したいけれど、死んでしまったものだから、動くことが出来ない。

 けれど私には、彼女の綺麗な、真っ黒の瞳が見えた。

 その瞳の中には、怒りや憎しみとは違う、何か不思議なものが、宿っているように思えた。

 彼女は穏やかな微笑みを浮かべたまま、私を見下ろした。

「愛してるわ、夜未」

 錆びた斧が、大きく振りかざされる。

 ガタン。






















 彼女の白いワンピースに、黒く変色した私の血がこびりついた。










了

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