カミキリ事件
壊れた私は、土手の道に転がっていた。
死んだんだ。
私は、本当に、死んだんだ。
その時、草が揺れた。
誰かが来たらしい。
私の死体を見つける、第一発見者。
可哀想に、五日前に死んだ私は、もうすでに腐っていて、こんなに醜い姿であるというのに。
かさかさかさ。
足音はだんだん私の方に近づいてくる。
そして、姿を現した。
長い髪に、白いカーテンのようなワンピース。
彼女は、私を見て優しく微笑んだ。
「よかった、顔は、まだ綺麗ね」
そうか、綺麗なのか。
それはよかった。
朝香は私に、微笑みかけてくれた。
嬉しかった。
「辰樹に邪魔をされそうになった時は、正直焦ったわ。でも、辰樹はあなたに惚れてたから、あなたを救おうともう一度“森”に入ると分かってた。そして彼が消えた後、叔父の“たつき”の話をすれば、あなたが自分じゃなくて、辰樹を救うって、信じてた」
彼女は手提げカバンから、オレンジ色の太陽に反射して輝く、何かを取り出した。
錆びた斧である。
彼女は私を見て、また微笑む。
「あなた、優しいから」
私も微笑み返したいけれど、死んでしまったものだから、動くことが出来ない。
けれど私には、彼女の綺麗な、真っ黒の瞳が見えた。
その瞳の中には、怒りや憎しみとは違う、何か不思議なものが、宿っているように思えた。
彼女は穏やかな微笑みを浮かべたまま、私を見下ろした。
「愛してるわ、夜未」
錆びた斧が、大きく振りかざされる。
ガタン。
彼女の白いワンピースに、黒く変色した私の血がこびりついた。
了




