表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戻らない日常  作者: リンダ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/54

戻らない日常

『戻らない日常』


最終話「戻らない日常」


 人は時々思う。


 もし、あの日がなかったら。


 もし、あの夜、一貴の仕事が早く終わっていたら。


 もし、幸枝が別の道を通っていたら。


 もし。


 もし。


 もし。


 何度考えても答えは出ない。


 どれだけ願っても、時間は戻らない。


 だから、この物語のタイトルは最後まで――


『戻らない日常』


だった。




 年月が流れる。


 ゆきちゃんは小学生になった。


 庭の花に興味を持つようになった。


「おばあちゃん、この花なんていうん?」


 今日子が笑う。


「キバナコスモスよ」


「ふーん」


 小さな手で花びらに触れる。


「きれい」


 その言葉を聞いて、今日子は少しだけ空を見上げた。


 幸枝も同じことを言っていた。




 パティスリー・ミズノ。


 店内には今も


幸枝モンブラン

幸枝どら焼き


が並んでいる。


 そして。


 新しい商品も増えていた。


 レシピノートから生まれたお菓子たち。


 店長は新人スタッフに話す。


「これはね」


「うちの店で働いていた子のレシピなんよ」


「夢の途中だった子の」


 新人は真剣に聞く。


 幸枝を知らない世代が増えていく。


 でも。


 名前は残る。


 味も残る。




 ゆきちゃんは作文を書く。


 学校の課題。


『将来の夢』


 鉛筆を握りながら考える。


 そして書いた。



わたしは

ケーキやさんになりたいです


おばさんのゆめだったからです


おばさんのケーキを

たくさんの人に食べてもらいたいです



 今日子は読みながら泣いた。


 星羅も泣いた。


 充も目を逸らした。


 そして。


 ゆきちゃんだけが不思議そうな顔をした。


「なんで泣くん?」


 みんな笑った。




 一貴と恵の家。


 休日。


 一貴はケーキを買って帰る。


 パティスリー・ミズノの新作。


「おっ」


「これうまそう」


 箱を開ける。


 そして。


 相変わらずの勢いで食べ始める。


 一口。


 二口。


 三口。



天国


 その瞬間。


 天国で幸枝が立ち上がる。


「こらーーーーー!!」


 周りの天使たちがびっくりする。


「一貴ーーー!!」


「せっかく丹精込めて作ったケーキを!」


「三口で食べるんじゃなーーい!!」


 腕をぶんぶん振り回す。


「味わって食べんかい!」


「栗の香り!」


「クリームの余韻!」


「スポンジの食感!」


「全部飛ばしとるやないか!」


 ものすごい勢いで怒る。



 一方その頃。


 下界。


 一貴は突然くしゃみをした。


「はっくしょん!」


 恵が笑う。


「どうしたんですか」


「いや」


 一貴は首を傾げる。


「なんか今」


「幸枝に怒られた気がした」


 恵は吹き出した。


「それ絶対怒られてます」


「やっぱり?」


「間違いなく」



天国


 幸枝はまだ怒っている。


「ほんまにもう!」


「何年経っても変わらん!」


 でも。


 その顔は笑っていた。


 下界を見る。


 お父さん。


 お母さん。


 お兄ちゃん。


 星羅さん。


 ゆきちゃん。


 一貴。


 恵さん。


 パティスリー・ミズノのみんな。


 支援の会の人たち。


 それぞれが生きている。


 泣いたり。


 笑ったり。


 迷ったり。


 頑張ったり。


 幸枝のいない日常を。


 それでも。


 ちゃんと生きている。



「うん」


 幸枝は静かに頷く。


「みんな頑張ったね」


 風が吹く。


 天国の花畑が揺れる。


 幸枝はいつもの笑顔になる。


「私も見守っとるけん」


「これからも」



エンディング


 尾道の坂道。


 千光寺公園。


 尾道水道。


 キバナコスモス。


 パティスリー・ミズノ。


 幸枝モンブラン。


 幸枝どら焼き。


 笑うゆきちゃん。


 寄り添う家族。


 続いていく日々。



 戻らない日常。


 戻らない時間。


 戻らない命。


 けれど。


 夢は受け継がれる。


 声は残る。


 愛は残る。


 そして人は、


 前を向いて生きていく。



『戻らない日常』 完



ありがとう、幸枝。


ありがとう、すべての日常。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ