あの冤罪事件の裏側
透明な円柱の中に浮かぶ水晶が激しく瞬いた。
会議室に集っていた誰もが顔をあげ、内側から発光するように赤く輝く水晶に目を見開く。
禍々しく光る水晶は魔族領への侵入者を感知する魔道具だ。そのエネルギーによって色が異なる。赤は巨大なエネルギーの表れだ。
「赤だと……?」
「ちょっと待って、いま位置を調べるわ」
早口でバルバトスが詠唱を唱えると机の上に立体の地図が出現した。魔族領の入り口付近、ある一点が光る。爪の手入れが行き届いた指ですっとそこをさせば、空中に映像が浮かんだ。
映像に映るのは5人の男女。
剣を持った男が2人、杖を持った魔法使いの男女が2人、そしてもう1人は……よくわからない。
剣も杖も持っておらず、なぜかフライパンを握りしめていた。
雑用係かなにかだろうか?
「この子たちってぇ……」
「人間だな」
じっと映像を眺めるソアラの言葉を引き継ぐようにラウルが口にした。
喉がグルルルルと音を鳴らす。
映像が立派な剣を持つ青年の手を映した。
襲い掛かる魔物を見事な剣さばきで一刀両断した青年の手の甲には花の紋が刻まれている。
「……クラルスの紋」
押し殺した声で魔王であるグリオンが呟いた。
真紅の瞳は縫い付けられたようにその紋から離れない。
ここ最近、魔族領では食料の盗難や不穏な事件が相次いでいた。
そしてそこかしこで噂される人間の目撃情報。
魔王であるグリオンやアストたち四天王がこの会議室に集まっていたのもまさにその話をするためだ。そんなときに魔道具が感知した巨大なエネルギーを持つ人間の存在。
神が世界を救うべく人間に神託を授けたことは魔族領でも噂になっていた。
そしてその証を持つ人間が武器を手に魔族領に居る。
「何故…………」
小さな拳を握るグリオンの声と表情には苦悩が滲んでいた。
かつて人と魔族は血で血を洗う争いを繰り広げていた。だがここ数百年は争いも交流もほとんどない。
それなににどうして人間が攻めてくるのか?
魔族を滅ぼすことがエアリス神の意思だとでもいうのか?
「我が出る」
一瞬だけきつく瞳を閉じたゲオルクは葛藤を振り払うように立ち上がる。
神や人の意思がどうあろうと、魔王である我は民を守る責務がある!
「まずはあの人間どもと話をする。全てはそれからだ」
転移魔法の詠唱をはじめれば、強く腕を引かれた。
足元に広がりかけていた赤い魔法陣が中途半端に霧散する。
「お待ちください!」
「それでしたらアタシたちが」
「皆を危険にさらすわけにはいかぬ」
「そりゃあ見くびりすぎってもんだぜ、ゲオルクさまよぉ。俺らが人間ごときに遅れをとるかよ!」
「ただでさえ最近のゲオルクさまは働きすぎです。ここはどうぞ僕たちにお任せを」
いや我が……、僕が、アタシが、俺が。
ラチのあかない言い争いにもはや強硬突破と再びゲオルクは詠唱を唱えようとした。早口で。
焦るアストたちの前でソアラが背後からゲオルクへと抱き着いた。
「えいっ」
どこか気の抜ける声とともに両手でゲオルクの口を塞ぐ。
物理的に口を塞がれたゲオルクの詠唱は途絶え、またも転移魔法陣は不発と終わった。
「ナイス!ソアラ!」
「えへへっ。ごめんなさ~い、ゲオルクさまぁ」
親指を立てるラウルに照れ笑いを返しつつ眉をさげて謝るソアラ。
だけどその手は少しも緩まず、胸元ではちびっこ魔王さまがもがもが言いながら手足を振り回していた。
「えっとぉ……どうしよう~~?」
四天王たちは顔を見合わせ合う。
もがもが暴れる敬愛する主君は、連日の激務で顔色も悪く目の下のクマもくっきり。
責任感が強く、真面目な主は説得したところでたぶん聞いてくれない。部下を守るために1人で危険に立ち向かおうとするだろう。
だが自分たちはこの可愛い魔王さまを危険な目に合わせたくない。
魔王さま自身が動かずとも、こんなときのために四天王はいるのだ。
視線で意思疎通した4人はコクリとひとつ頷いた。
そしてどこからともなくバルバトスがロープと布を取り出した。
ハンカチーフを広げたアストはそれを両手で握る。
無言でじりじり近づく2人にゲオルクがジタバタと暴れる。
「ごめんなさ~い、ゲオルクさまぁ。痛くないから、ちょっとだけガマンしてねぇ?」
「悪ぃな、ゲオルクさま」
ソアラとラウルが2人がかりで小さな体を押さえた。
ジタバタ、もがもが。ジタバタ、もがもが。
「△◎☆□△☆~~!!」
数十分後、手足を縛られ、布でぐるぐる巻かれ、おまけに猿ぐつわをされた魔王さまはお茶を運んできたキール、トート兄弟により発見された。
明後日、18(木)にも更新予定です!(本編完結後のお店の様子。ソルトのお手伝い編)




