戻ってきた日常……と思いきや?
「今日の日替わり、生姜焼きランチお待ちどうさまですー」
たっぷりキャベツの千切りとマヨネーズも添えられたお皿をテーブルへと並べる。そしてすぐさま厨房の方へとパタパタと駆けていく。
「エマちゃ~ん!こっち注文おねがーい!」
「はーい!少々お待ちくださいませー」
新規のお客さんにグラスを運びながら手をあげたお客さんに返し、またパタパタと駆ける。
「つっかれたぁ……」
ランチタイムのラストオーダーを終えたエマはテーブルに突っ伏した。
ふきんを手にしたままへばったエマに、まだ数名残る常連さんたちは笑いながら「おつかれー」と声をかけてくれる。
「いやぁー、すっげー混んでたな」
日替わりランチ、キャベツ大盛にマヨ多めをかき込みつつクルトが笑う。
お店は連日大繁盛。
もともとそこそこ人気のあったパパの店だが、新メニューとマヨ効果でお客さんが大幅に増えた。
エマが旅に出る前もだいぶ増えていたが……その後も噂が噂を呼び、遠くから訪れる人までいる。
「それで?なんでクルトは毎日居るの?」
「だっぺおいひいから」
「飲み込んでからしゃべりなさい」
……なんかこのやりとり、前にもあった。
旅は無事終わったが、常連の勇者さまはなぜか毎日来てたりする。
口の中の白米とお肉をもぐもぐ、ごっくんしたクルトは新たなお肉をフォークに突き刺しつつ、「別にいいじゃん」とエマを見た。
「どーせこれから同じとこ行くんだし。飯食いつつ迎えに来たと思えば」
そうして今日も時間ピッタリに迎えに来た城の馬車に揺られ、王城へ。
旅も終わり、お役御免かと思いきや…………なんだかんだで毎日のように城へ集合しているエマたちだった。
最初は旅の報告など、そしていまは……。
「うー……キッツっ」
「エマ様!」
「す、すみません」
思わず弱音を吐けば、すぐさま教育係の厳しい声と視線が飛んだ。
慌てて背筋を伸ばし、笑顔を取り繕う。
現在エマたちはマナーや礼儀作法のお勉強中だ。
勇者パーティの帰還を祝い、今度大規模な式典とパーティーがある。
そのために最低限の知識を身につけなければならない。
優雅に見える挨拶ひとつとっても、体の軸を動かしてはいけなかったりと……なにげに筋力を使うのを身をもって実感している。
貴族令嬢たちはただのか弱いご令嬢でないのだと痛感したエマだった。
「だいぶお疲れですわね」
「うん、ある意味で旅とおなじぐらい疲れてる……」
筋肉痛と……なによりも精神的な疲れにエマはじゃっかんぐったりしていた。
教育係を務めてくれている伯爵夫人は美しいがとっても厳しい。
それこそ相手が庶民出のエマであろうと一切の手加減はなし。
怜悧な声と視線を向けられるとピシィ!と自然に背が伸びる。
そのうち「イエス、マム!」とか敬礼してしまいそうだ。
「夫人はお厳しい方ですから」
お茶菓子の皿を寄せてくれたエリザベスが苦笑いしながら「私もくじけそうになりました」と続ける。
貴族社会の中でも「彼女にかかれば、どんなじゃじゃ馬でも立派なレディになる」と有名な方らしい。王女の教育も任されるとなれば相当のものだろう。
「ですが実際、とってもためになりましてよ」
うん、と力なく答えてマカロンに手を伸ばす。
「貴族社会は舐められたらおしまいです」
これは美しき夫人のお言葉だ。
夫人の教育は厳しいが、だが同時にそれは身を守る鎧でもあるのだと彼女を見ているとよくわかる。
貴族なんて関係ないと思っていたエマたちだったが……最近はそうもいっていられない。
いいとこのお嬢さんであるミレーヌはともかく、エマやクルトにまで早くも婚約話がちらほらと持ち上がっているのだ。
お披露目パーティーがまだにも関わらず、だ。
しかもエマに至っては店にまで押しかけてこようとする迷惑な貴族たちも居る。
お忍びで食事をしにくるなら別にいい。
お客さんとして歓迎できる相手ならともかく、そうでない厄介な連中に隙を見せないためにもパーティーで舐められるわけにはいかない。
「特訓の成果、目にモノ見せてやるわ!」
「その意気ですわ!」
「いっしょに頑張りましょう」
ゴゴゴッと炎を背負い、燃えるエマだった。




