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 小春日和という言葉がよく似合う温かな日。緩やかな日差しと鳥のさえずりが心地よく、上機嫌で桜の花を眺めていた。


「あ、いたいた!勝手に行くなよ!ったく…最近だってそれでケンカしたってのにまだ分かんねぇのか?」

「悪い悪い。…これだけ大きな桜を、どこかで見たなぁと思って」

「あぁ、河川敷にあったやつ?あれなら俺達が子供のときに切られちゃったじゃん。勘違いじゃないの?」

「…そうだっけ?そこで寝た気がするんだけどな…」

「だーから勘違いだって!ほら、みんな待ってるよ!」


 弟が言ったとおり、辿り着いた先では家族全員が並んでいた。あとは俺と弟が入れば、カメラマンがシャッターを押すだけである。


「ふふ、お義兄さんの癖は直らないですね。私はそういう自由なとこ素敵だと思うんだけどなぁ」

「この子が似たらどーすんだよ?俺達が大変だぞ」

「ま!まぁまぁ、せっかくのお宮参りなんだからさ!優馬もほら!」


 誰とでも打ち解ける遥は、ここでも全員のまとめ役となっていた。優希と奥さんを仲裁しつつ、抱っこされていた赤ちゃんを優馬へ移動するよう促す。

 お宮参りでは生まれた赤ちゃんの健康を願い、父方の祖母が抱っこをするのが一般的らしい。だがこの子の父である優希の母はもういない。


 その代わりとして俺が駆り出されるのは予想していたが、そもそも赤ちゃんを抱っこする機会などない。逃げたい気持ちもあって抜け出したのだがやはり捕まってしまった。

 おとなしく俺の顔を見つめる赤ん坊を、俺もついつい見返してしまう。どこか見覚えがあるように思えるのは、優希と口元が似ているからだろうか。


「ほらほら、遥さんももっと寄って!お義兄さんの隣!うん、それじゃお願いしまーす」


 弟の奥さんはまさしく太陽のような人だった。明るく元気で、はつらつとした女性。ハッキリ言う性格ではあるものの、そこを嫌に感じないのは気遣いがあるからだろうか。


 弟から事前に聞いていたらしい俺と遥の関係も、受け入れる訳ではなく軽蔑しないといった感じだった。むしろそれが良かった。家族での行事や集まりには普通に顔を合わせるし、時々家にも来てくれる。変に気遣うこともなく、一般的な家族がやることをここでもやっている。避けるわけでもない。変に近い訳でもない。それがありがたかった。


「では皆さん、こちらを向いてください。あ、赤ちゃんの顔も見えるように。そうそう!お上手ですよー」


 いつだっただろうか。俺は思い立ったように夜勤の仕事を辞めた。それまでいつだって一人で食事をするしかなかった弟に、「これからは絶対夕食は一緒に食べよう。お前も守れよ!」といきなり宣言をしたのだ。

 面食らっていた優希も、もちろん俺も、触れ合う時間がなかったことで最初の頃は何を話していいのか分からなかった。


 だがそれも時間の問題で、だんだんと他愛のない話をするようになり、いつだったかポツリと優希が呟いた。「ずっと寂しかった」と。

 そのときにハッとした。優希に当たり前の幸せをあげたくて働いてきた。優希の名義でかなりの額の貯金もしてきた。だが、小学生の子供を、連日ひとりぼっちにさせてきたのだ。寂しくないはずがない。それにすら気付けなかった自分は大馬鹿者だと自分で自分に腹立たしかった。

 それからも夕食は二人で食べる約束をお互いに守り続け、時々遥や奥さんが混ざるようになった。


「ほら、撮るぞ。俺ばっか見てないでむこう向け」

「ふふ、(すぐる)はパパよりお義兄さんが大好きだもんね」


 その言葉で一同が笑った瞬間、シャッターが落とされた。

 一度は家族を失った。両親を失い、弟も恋人も失いかけたように思う。だけど俺にとって大事な家族がここにある。


 当たり前に思わない。ここに全員が揃っている奇跡に。生まれてきた奇跡に。

 ありがとう。大切に守っていこう。




 Tatarian aster

 紫苑の花言葉


「追憶」「君を忘れない」





 -終-







■あとがき



ここまでお読みいただきありがとうございます。

この十数年間、何度も何度も書き足し、それでも完成しなかったお話でした。

正直永遠に未完だと思っていたのに、書き上げることができて感無量です。

応援してくださった皆様に大変感謝しております。ありがとうございました。もう長編は書きません(笑)


それでは。またどこかで!



亜夜




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