9.僕はもう限界だから
サクヤはいま、結界に取り押さえられている。
最初入ってきた時はなんかめっちゃぷよぷよだけど頑丈だなー程度にしか思ってなかったけど、今なら言える。
「これ害悪だわ。」
サクヤは思わず叫ぶ。
この空間を塞ぐ結界は人間の力では出れないことを入ってきた時に確かめた。その時は出れないなーくらいにしか思ってなかった。
でも、この結界は形を変えられたのだ。
それも自由自在に。
今の状況を説明するとサクヤの体は結界に捕まえられて固定されていた。
結界はなんか弾力弱めのグミみたいな感触がするし、半透明で表面はツルツルてかてかしている。
そして触手のような形をしている。いや、触手そのものだ。
「これマジダレトクだよ。」
もうサクヤは文句を垂れ流すことしか出来ない。
「あれー?地球の人は触手が好きって聞いたことある気が住んだけどな君はそうじゃないのか?」
「知識偏りすぎだろ!女の子がされてるならすごいエロくていいかもしれないけど、男がされても汚いだけだろー!」
「そうだったのか。これでまた一つ僕は地球の人のことがよくわかったよ。」
にっこり言った異世界神はさらに楽しそうな顔をしながら言葉を続ける。
「でも女神の福音の検証は体が固定されてれば効果もわかりやすいし大丈夫だよねー。」
そう言いながらこの女神は手を振りかざす。
するとサクヤの体全身に痛みがはしる。
だが何かがおかしい。
女神の手のひらから何かが放出されたとかいうことは起こっていない。
そしてサクヤは気づいた。
あの女神からは何も魔法が発動されてないことに
そしてなんとか首だけを動かし下を覗いてみると、触手が自分の体を蝕んでいた。
「ヤベー、この触手有能すぎだろ!というかどうしてこんなに触手って便利なんだー。」
思わず叫んでいた。
マジで自分が女の子じゃなくてよかったと思った瞬間でもあった。
その光景を見ながら笑いを堪えられずに肩を震わせている女神は、視線だけを自分にぶつけてくるサクヤと目が合うと笑いのどツボにはまっていった。
「プーッ。アハッアハハハハ、君ほんとに、クスッ、面白いね。ゲホッ、こんなに笑った、アハッ、のは久しぶりだよ。ゲホゲホッ」
サクヤはそんな異世界の女神にずっと講義の目線だけは向け続けた。
そしてしばらく経つと突然サクヤの感じる痛みが今までとは段違いのものとなってくる。
そこでやっと笑いが収まったのか、でも何か苦しそうな女神に聞いてみる。
「あー。それ明日も腹筋痛くなるやつだね。ところでなんで突然痛みが増したんですか?」
「最悪僕には回復魔法があるから笑えるだけ笑っとこうと思ってね。それと痛みが増したのはHPが80%を切ったからじゃないかな?」
そうか。
今の自分はステータスの大幅な補正が消えたため、防御のアビリティー値が大暴落を起こして紙防御状態になってしまったのか。
「うーん。見た感じ女神の福音による補正地は約三倍くらいっぽいね。さすが僕からのスキルだ。ちなみに言っておくけどこの世界で手に入る最高倍率は1.5倍くらいだからね。君は頭おかしいくらいにこの世界では強いからね。」
そしてある程度サクヤにダメージを与えたところで触手の攻撃を止める。
それまではただただ気持ち悪い触手にしばらくなで回され続ける。なんか最後の方は触手の動きがプロくなってきてるのは気のせいだと信じたい。
そしてもうダメージは与えてないんじゃないか。
回復量は触手が無くても神様ならわかるのではないかと抗議したい気持ちでサクヤはいっぱいだった。そしてつい言葉に出てしまった。
「神様これやられてみません?じぶんそうしたらすごく興奮すると思うんです。」
「もう少しダメージを与えておこうかな。それが君のためにも僕のためにもいい気がするからね」
そうして残りのHPが30パーセントまで減らされたとさ。
さっき見た時は50パーセントまでだったのに。
念じればステイタスは見れるのでそこのところは便利だ。だが、逆に言えば念じないと使えないのでそこのところは不便だ。
よって戦闘中に使う機会はまずないだろう。
これは戦闘ではなかった。名誉を守るための戦いだから見れたのだ。
触手に蹂躙された男に誰も価値は見いだせないだろうが(バラと腐ってる人たちを除き)、なんとか触手に蹂躙された意義だけでもと思いサクヤは自分の意識をしっかり持ち尋ねる。
「それでどれ位で回復してるかわかりましたか?」
「うーんまだ正しい実験結果が出てないかなー。もう一回結界で責めさせてもらうね♡」
もちろん女神のいうことは嘘である。というか触手で攻めている段階から分かっていた。ダメージを積み重ねていく触手に対しての回復量で相殺される部分から計測結果は既に明らかだった。
だがこれでは面白くないと思うのがこの女神の気まぐれたる所以であり、彼女の連れてくる人たちはこれ以上をやると毎度今まで見たことないような反応をしてくれるのだ。
そしてサクヤにとっては地獄、女神にとってはテレビに映るお笑い芸人を見ているような心持ちで2度目の触手と戯れるサクヤを見ていた。
───そして数分後──
サクヤは未だ触手にあちらこちらを探検されそうになるのをなんとかしのいでいた。
そしてまた、これまでの勇者たちと同じように新たな偉業を成し遂げた。それは……
「僕はもう限界だから。うぅー、お願いだから離してくれー、グスン。」
あられもない姿になった女神がサクヤの横で一緒に触手と戯れている光景がそこには広がっていた。
今までさんざん偉そうな態度をとっていたこの女神は今やその見る影もない。逆に触手で縛られてるとはいえ、サクヤの方が元気なくらいだ。
紫紺の髪を束ねていた白い紐がほどけ、髪はボサボサになってしまい、身体は触手にされるがままの状態。先を見通す力でもあるのではと思うほど奥の方まで澄んでいた瞳は、いつまでも続いていく絶望のみを映すものとなっている。口は半開きとなって生気が失われたかのようだ。
だが来ている服や彼女のパーツが残念なことになってはいるけれど、やはり彼女は女神にふさわしく美しいプロポーションが見え隠れしているためそっちに目がうつってしまうのは仕方のないことかもしれない。大きさよりも形が重視されたかのような双胸にくびれた腰、部分部分から見え隠れする肉付きの良さなどのすべての要素が男を誘っているとしか思えないほどだ。
どうしてこうなったかというと端的に言えばサクヤが敗者復活を使用した、いや使用出来てしまったからである。
サクヤは触手に嬲られている間ずっと考えていた。どうすればこれから抜け出せるのかと。
長い間捕まっていて触手の動きの熟練度が増していくうちに、需要なんて無いに等しいはずなのに自分の貞操さえこのままだとまずいのではとさえ思うほどになった。
対抗策を考えてみるが自分の今までの常識の範囲では何も思い浮かばなかった。
だから今、この場で地球にやさしい考えを捨てる決意をした。
そして大げさだが、この世界の美しく残酷な死と隣合わせの生活を営むための思考に切り替えていこうという決意をした。
そのための第一歩が力だった。
サクヤの元の世界とこの世界での隔たりはこれから増大していくことだろう。だが今の時点ではまだ盗賊に襲われたとか魔物と戦ったとかそんな大きな命に関わるようなターニングポイントを迎えたわけじゃない。
そうとはいえ圧倒的力の前にはただの力では無力であることは今この瞬間に体験して身に染みて逆に染みすぎて気持ちよくなりそうなほどわかっている。
ならば今までの常識とおさらばしてこの世界のルールに習って生きていこうと。
そしてサクヤは思い出す。
敗者復活というスキルを。
見たことのある魔法なら使えるようになるという破格のスキルを。
起死回生とも言える発言している魔法を。
偉そうにしている女神のスキを。
その魔法を使おうとした時に彼の頭の中には、さも元からあったかのようなその魔法に対する多量な知識がいつの間にか存在していた。
そして魔法を行使して今に至る。
この魔法『カンビオ·フィリア』を一つ目の魔法として習得した。
この魔法の意味は『変化する愛』。
聖属性で結界魔法に分類される。
この魔法が通常のものと異なるのは結界の形状を好きに操ることが出来るのだ。
さっきから自分がやられている触手の形も一例だ
これは形状だけでなく結界自体の強度に関する性質まで変えれてしまうのが恐ろしい。
このまほうだけでとりもちみたいな役割をさせることも出来る。
こんな魔法は人間に普通は使えない。
使えてはいけないのだ。
それゆえに本当は神にしか使えないはずの魔法。
ただそのスキルに制約はなかった。
神の魔法でさえ獲得してしまうほどの異端なスキルだった。
だが、サクヤは知らない。
これがどれほどの意味を持つのか。
神たちにとっても脅威になりうるということをこの時は触手でなぶり回されている女神しか知らなかった。
お互い触手からやっとの思いで脱した頃にはもうそれはそれはひどい有様だった。
サクヤにとっては役得みたいなものだったが。
「ちなみにHP自動回復の回復は30秒で1パーセント回復だね」
このスキルについて言った最後の女神の言葉は、もともとの目的がもう意味をなさなくなっていたことを端的に表していた。
そしてサクヤは最後に魔法聖なる雨を試すことにする。さっきまでの騒動はなかったかのような振る舞いをしようとする2人だが疲れた顔はいつまで経っても疲れたまま。否、さらに疲労が溜まっているのかもしれない。
詠唱はいらないらしいのでまず試しに
「ホーリーレイン」
手を胸の前方あたりの位置で伸ばし静かに魔法名を唱える。
が、
発動しない。
「あれ、なにかの過程でもミスってたかな。」
「少年よ、ステータスを確認してみるといいよ」
慌ててみてみると
MP 3
明らかにMPが足りない。
「魔法はMPを消費して行うからすぐカラになりやすいんだ。さっきの魔法は形状変化だけでもそれだけのMPを喰うからしばらくは使えないね。
MPは込めれば込めるほど威力は大きくなるけどその分打てる回数が減るからそこは魔法使いの腕の見せどころとなるよ。」
魔法についての説明をしてくれたはいいが肝心の魔力についてはどうしようもない。
なので聖なる雨のカスタマイズ機能を使わせていただき残ったMP3で打てるような雨を創り出すようイメージする。
「ホーリーレイン」
同じように手を突き出し唱える。
明らかな魔力不足を悟っていたサクヤは無数の雨を意識することは無かった。
そして一筋の、一滴の雨だけをイメージし創り出した。
彼の頭の中ではその水滴は流れ星のように宇宙を流れていく。
そして現実に起こった魔法は水滴を光粒と変え、一瞬きらっとひかったあと光の尾をこちらにチラ見せしたあと着弾地点からはすごい爆発音を響かせる。
これがMP3の威力!!!
内心で驚きを隠せないサクヤ。
正直女神でさえこの威力には驚きだ。
「僕はやばいやつを連れてきてしまったかもしれないのかな。」
「なんの話です?」
女神はサクヤの言葉をするーして続ける
「少年はそろそろこの世界から帰った方がいいよ。僕に教えられるものはもうないみたいだ。
最後の魔法のコントロールは誰もやったことがないから何も僕は言えない。あとは君の力で君の運命を切り開いてくれ。」
「今さらですが最後に異世界神……いえ女神様の名前を聞いてもいいですか?」
壊れゆく世界の中で最後に一言聞こえた。
「僕の名はルキア」
次にサクヤが気づくと入ったはずの扉の前に戻っていた。
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