第二話 購買
この物語は、八重森沢高等学校に通う高校生、楠 和弥が金欠になり、給料日までギリギリの生活を送る物語である。前回は、俺の心の友、橘 優太が炭酸水を奢ってくれた。
『|3,2,1、0《さん、に、いち、ぜろ 》!』
――キーンコーンカーンコーン。昼休みのチャイムが鳴った瞬間、俺は購買売り場を目掛けて駆け出した。
この八重森沢高等学校の購買は、ここ一帯の地域に知れ渡るほど美味いと有名である。だから、毎日の昼、購買売り場では人がごった返しになるためここの生徒の皆んなはこの時間を“Big Bang”と呼んでいる。
走っている間、他の生徒も加わった。それはまるでどこかの競馬のレースの様だった。
購買につくと、すでにん並んでいる人がいた。俺はすぐさま列に加わろうとした。しかし、あと少しのところで転んでしまった。転んでなければ、前の方だったのに、これにより俺は後ろの方になってしまった。前を見ると優太が並んでいた。
「おぉ、優太お前並んでたのか。てか、珍しいなお前が後ろに並んでいるなんて。」
すると、優太はビクッと驚いた表情をしていた。
「びっくりしたぁ、和弥か。そうだよ、小生は少し出遅れてしまったからな。結構悔しいな。」
優太はいつもチャイムが鳴ると疾風が如く教室から購買売り場を目掛けて走り去っているのに、今日はやけに人が多い。何かイベントでもあるのだろうか。すると、売り場のおっちゃんが、大声で「本日数量限定で杏仁豆腐を半額で売りまーす!」と言った。『いつも、150円で売ってるものを、75円で販売するだと!?』と俺は心のなかで歓声を上げた。その一方で、『いや待てよ、給料日まであと1週間半500円で生活しないといけないのに、500円を手放すのか!?。でも、安いし……。』俺は心のなかで葛藤した。そして俺は、決めた、〝買う!〟と。手に入るかどうかは別として、とにかく今日は買うと心のなかで決めた。
列が少しずつ短くなり、俺は徐々に売り場のおっちゃんに近づいていく。
「あと、4人。杏仁豆腐はあるかなぁ…?」
俺は横からひょいっと顔を出して、売り場に置かれているかごに目をやる。
「あった!」
かごの中には赤と黒と白の中華風のパッケージをしたパックがあと3つ置かれてあった。
「あとは、3人。杏仁豆腐はあと2つ。てか、優太は杏仁豆腐買うのか?」
「あ、当たり前だろ!小生はそのために今日並んでたからな。」
幸いなことに、優太の前に並んでた人は杏仁豆腐を買わなかった。『よっしゃぁ!俺は杏仁豆腐買えるぞ!』俺は安堵の息をついた。あとは、順番を待つだけ。優太の番が来た。
〝杏仁豆腐2つでお願いします〟
「えっ。」
俺は驚愕した。そして、おっちゃんは再度聞き返すことなく、杏仁豆腐2つをレジ袋の中に入れ、優太に手渡した。
「優太。」
「どうした?」
優太は勝ち誇った顔を見せてきた。そして俺は、「優太を末代まで呪ってやる。」と決めた。
そして俺の番が回ってきた。購買のおっちゃんが「何にするかい?」と訪ねてきた。俺は、現実を受け止めきれなかったせいか、購買のおっちゃんに聞いてみた。
「杏仁豆腐って……。」
「杏仁豆腐はねぇ…さっきのお兄さんで売り切れちゃったね。」
その、野太い声が俺の鼓膜に響いた。俺が並んだ意味は一体何だったんだろう……。この、5分間なんのために俺はここにいたんだろ。そう思った。そして俺は、「わかりました。ありがとうございます。」とおっちゃんに伝えると、「ごめんね」と言ってくれた。俺はその言葉に優しさを覚えた。
教室につくと、杏仁豆腐を食べている優太の姿が見えた。俺は、したを向きながら自分の席につくと、優太が俺の席までやってきた。そして、「ほら、やるよ。」と見慣れたレジ袋を目にする。
俺は、「なにこれ。」と尋ねる。
「和弥のご所望の品だよ。杏仁豆腐!」
「えっ、それお前が食うんじゃないのか?」
「いやだって、昨日言ってたじゃん。」
ふと、昨日の優太との会話が頭の中をよぎる。たしかに、俺は優太に奢って欲しいと言っていた。
「本当にいいんですか?」
と俺は急にかしこまって、聞いてみた。
「和弥がいらないなら小生がもらいますよ?」
そして俺は、「いる!」と教室中に響く声で優太に言った。そして、レジ袋を渡された。俺は、すぐに立ち直り、杏仁豆腐を頬張った。
「なんて、素敵な世界なんでしょう。そして、お金ください。給料日よ、早く来い!」
と俺は呟きながら、昼休みの時間をちょっぴり優雅に過ごしたのであった。
しかし、俺のギリギリな生活はまだまだつづく。