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【第274話】バイト終了のお知らせ

「ねえ、麗香さん、これって捕まったりしないよね」


「何を言ってるんだ。捕まるわけ無いだろう」


 麗香さんの手伝いをするバイトをしているわけだが……


 作業台の上に横たわる少女。


 そして、その背中から手を入れて、皮膚を内側からこそぎ落としているグルグル眼鏡の白衣の女史。


 ノートPCから指示を出すたびに、少女の体が少しだけ動く。


 ……うん。


 どこからどう見ても、マッドサイエンティストが人体改造をしているようにしか見えなかった。


「いや、でも、ここに警察が踏み込んできたら、100%アウトでしょ」


 普通の人がこのバイトを始めたら、間違いなく、とんでもない闇バイトに応募してしまったと思うだろう。


「なんで悪いこともしていないのに警察が来るんだ、運び込むときだって、外からは見えないようになってただろ」


 あのタマゴだよね……絶対、中に何が入ってるのか気になるやつ。


 まあ、普通に段ボールとかに入ってたら、それはそれで犯罪臭さが一気に増すので、それよりはマシだけど……


「一時的に動かすとかはできないの? そうすれば車から部屋まで自分で歩くことは出来ると思うけど」


「それはAIを入れたときの話だろ、ノートPCから制御できるといっても、関節単位で指示を出して動かせる程度なんだから、まともに歩かせるだけでも苦労するぞ」


「あー……確かに」


 1号機も2号機も、陽花が作ったプログラムをAIから制御してるからこそ、普通に動けている。


 もし普通にコマンドで動かそうと思ったら二足歩行させるだけでも相当大変なはずだ。


「じゃあ、陽花の作ったプログラムを入れちゃうとか?」


「それで、こっちの指示通りに体を動かしてくれるようになったら、バイトの仕事はなくなるぞ……それとも、仕事は無いのに作業したことにするのか?」


 それはそれで、別の犯罪のような気がするけど……


 そんなことしたら、就職先もパーになってしまう。


「いいですよ、俺の仕事は無くなっても……この作業を何時間もかけてやるのって、しんどいと思いません?」


「いや、そもそも、粘土を削ってあたかも人間が躍動しているような原型を作り出すのが仕事だからな」


 麗香さんはあっさり言う。


「しんどいとも思わないし、それを否定されると、この仕事が成り立たなくなるだろ」


 そうだった……この地道な作業をやるのが本職なのか……困ったな。


「まあ、指示は麗香さんが出すとしても、関節の制御とかは陽花がやるとか?」


「そんなことできるのか?」


「陽花がターミナルに入れれば、あとはテキストで制御すればいいのでできると思いますけど……」


「でも、バイトが無くなるな」


「そうですけど、麗香さんの報酬まで減額されるとか無いですよね?」


「それは無いな。こっちは請負だから、完成しさえすれば報酬は同じだけもらえるぞ」


「じゃあ、陽花に頼んでみます」


『いえ、聞いていたので大丈夫です。そちらの部屋に行けばいいですか?』


 スマホから陽花の声が返ってきた。


 話が早いな……これで、この怪しいバイトから足を洗うことができる。


 いや、内容に違法性は全く無いんだけど。


 見た目が完全にアウトなんだよな……


* * *


「このノートパソコンに接続すれば良いのですか?」


「そうだけど、直接つなげられるの?」


「Bluetoothマウスとキーボードの振りをして入ります」


 ……振りって何?


 と思ったが、すぐさま作業に入る陽花。


 最初は、手でマウスを操作してBluetoothデバイスとして陽花を認識させる。


 すると――


 誰も触っていないのに、マウスポインターが勝手に動き出すようになった。


「キーボードも認識させますね」


 そう言って、Bluetoothキーボードを認識させると、画面上のターミナルに勝手に文字が打ち込まれるようになった。


「ちょっと、ホラーなんだけど……」


 誰も触っていないのに、マウスポインタが動いたり、文字が打ち込まれたりするのは、普通に怖い。


「そうですか? リモートサポートと同じですよ」


 そうは言うけど、入力速度が明らかに人間を超えてる。


「ノートパソコンから、新しい夕花の筐体に接続している秘密鍵を使えば、直接入れるのですが、最初はターミナルから操作して動くかを確認してみます」


 そう陽花が言うと、夕花の筐体の腕が動き出した。


「急に動かすな、びっくりするじゃないか」


 麗香さんがビックリして、声を上げる。


 しかし、夕花の動きは止まらず、うつ伏せの状態から両手をつくと、体をゆっくり持ち上げ、起き上がった。


 ――が、耐火シートをおしりの方にかけていただけだったので、上半身は裸だった。


「ちょっ、タンマ! 服着てないから!」


 慌てて目を逸らす。


「大丈夫ですよ、このくらいの胸の人は男性にもいますから」


「いやいや、ダメだろ、後で絶対夕花に怒られる」


「昨日、一回怒られたから良いのではないですか?」


 そういう問題じゃない。


 何度見てもダメなものはダメだ。


「そんなに気になるなら、背中が空いている耐火服を作れば良いじゃないですか」


「そうだな、それを希望したい」


「分かりました。布をいただければ作りますよ。私のメンテナンスのときにも使えますし」


 作ってくれるんだ……それはありがたい。


「とりあえず、シートをかけましたので、見て大丈夫ですよ」


 恐る恐る振り向くと、そこには、耐火シートを一枚羽織っただけの、女の子が居た。


 しかも、目が合うと、コテンと首をかしげた。


 ……なんだ、この可愛い生き物は。


「視覚情報をターミナルで取得するには限界がありますので、私の視覚の中でないと動かせませんね」


 なるほど、視覚共有は無理なのか。


「でも、可動部分を動かすコマンドは私の体の制御と同じようですので、動作自体に支障はありません」


 これが新しい夕花か……今より多少子供っぽさが抜けて、女性らしくなっている……それに背も少し伸びて、その分体つきが丸みを帯びて……


「これ、ひと夏で、こんなに変わっちゃって大丈夫?」


「そうか? 極力容姿は変えないようにしてるんだが……」


 麗香さんがそう言う。


「まあ、実際の子供でもひと夏で、このくらい成長することはあるだろ」


 うーん、無いとは言えないけど……大丈夫かな、これ、学校でモテすぎたりしない?


「涼也さんは、あまり可愛くなり過ぎると、一人で外に出すのが心配になるんですよね?」


「ま、まあ、そういうことかな?」


「それで、私が外出するときも付き添ってくれるんですね」


 いや、一人で行動させる許可が降りてないだけなんだけど……


 本人がそう思ってるなら、そういうことにしとくか。


「いや、しかし、ここまで滑らかに制御できるなら、思い通りのポーズを取ることができるな」


 まあ、確かに。


 ……って、これは、バイト終了のお知らせのようだな。


 せっかく時給良かったのに。


「今、Wi-Fiで直接ターミナルに入れるようにしましたので、これでノートパソコンを使わなくても制御可能です」


 そう陽花が言うと、コクコクうなずく夕花。


 なにこれ、やっぱり可愛いんだけど……


「それじゃ、今日の残りの作業を終わらせるか……右手を頭の後ろに当ててみてくれ」


 夕花の右手がスムーズに動く。


 麗香さんは作業モードに入ってしまって、もはや俺の存在など気にも留めてないみたいだ。


 またもや、そそくさと部屋を後にした――


 これは、春休みの間だけでも、日中働ける仕事を探さないとな。


 自分で陽花にお願いしたから自業自得なんだけど……


 たった一日で、AIに仕事を奪われてしまったのだった。

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