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【第110話】旅行前夜 陽花と三千花と

「それでは、よろしくお願いします」


 向田さんからそう言われて、陽花を預かる。

 そう、明日から鬼怒川旅行、朝が早いので、前日からうちに泊まることになったのだ。


「今日からまた一緒ですね」


 陽花が微笑む。

 スマホでやり取りしていたとはいえ、しばらく会えていなかったので、この笑顔は新鮮だ。


「三千花さんにも、今日から泊まりましょうって、伝えてあります」


 えっ、そうなの? いつの間に連絡取ったんだ?……っていうか、俺んちに泊まるんだよな? なぜ、いつも俺の知らないところで決まっちゃうんだろう。


「それが、こんなものを戴きまして……」


 手には新しいスマホが握られている……もしかして?


「陽花専用のスマホ?」


 今まで、俺のスマホには陽花のアプリが入ってたからやりとり出来てたけど、確かに、みんなとのやり取りにはスマホがあったほうがいいな……個人情報ダダ漏れの陽花アプリを、他の人のスマホに入れるわけに行かないし……


「そうなんです。これで三千花さんとLIME交換できるんですよ」


 陽花には通信機能がついてるけど、流石にスマホ用のアプリはインストールできないので、普通に電話かけたりしてたわけか……

 それにしても、アンドロイドがスマホ持つって、不思議な感じだ。


「涼也さんも、LIME交換しましょう」


 いや、俺とはLIMEじゃなくても、連絡できるでしょ……と思ったが、陽花が嬉しそうにしてるので、QRコードを見せて登録してもらう。


「登録できました! これで、スタンプが使えるようになるんですよね」


 早速、陽花から『よろしくお願いします ペコリ』という謎の動物のスタンプが送られてくる。

 順応早いな……俺も『こちらこそよろしく』というダンディーなミーアキャットのスタンプを返す。


「届きました! ふふっ、一生大切にします」


 いや、一生残せるのか? 機種変とかしたら消えちゃうんじゃないの? まあ、喜んでるから水を差すようなことはしないけど……

 と思ったら、普通にスクショを取ってた。なるほど、そうやって残すんだ……勉強になりました。


「向田さんも連絡先交換しましょう」


 まだ、してなかったんかい!

 あっ、もしかして俺を最初に登録したかったとかかな。だとすると、ちょっと嬉しいな。


* * *


 家の最寄り駅で、三千花と待ち合わせだ。

 よく考えたら合鍵を渡しっぱなしだから、勝手に来てもらっても入れるんだけど、また荷物多いと思うから駅から一緒に行くことにした。


「お待たせー、陽花ちゃん久しぶりー」


 三千花が陽花と会えて嬉しそうにしてる。それにしても仲良いな、この2人。


「お久しぶりです、お変わりありませんか?」


「そうね、色々持ってきちゃったから、荷物が多くなっちゃったくらいかな、あっ、それはいつものことね」


「荷物は俺が持つよ、早く行こう」


「ありがとう、お願いするね……そういえば、夕食はどうするの?」


 そっか、帰りがてら、買い物していった方が良いのか。


「野菜は残ってるの使っちゃいたいんだけど、お肉がないかな?」


「それでしたら、商店街のお肉屋さんに行きましょう。こちらです」


 なんで、陽花が一番詳しいんだ? 商店街のお肉屋さんってどこだっけ?


「以前、大家さんに連れて行って頂きました」


 なるほど、前に留守番してもらってたときに早苗さんに連れて行ってもらったのか。


 ――そして、お肉屋さんに着くと、


「陽花ちゃんじゃない! なかなか来ないから、心配してたのよ。……彼がいとこの子? あら、可愛いお友達も一緒ね、おまけしちゃうわよ」


 肉屋のおばさんにすっかり懐かれてる。俺とは「いとこ」という設定になってるみたいだ。

 結局、お肉を買っただけなのに、コロッケを3個おまけしてくれた。これ採算とれてるのか?


* * *


 アパートに着くと、早苗さんと鉢合わせた。


「あらっ、陽花ちゃん! 久しぶりじゃない! 涼也くんのところに?」


 俺より、陽花のほうに先に話しかけるって……肉屋のおばちゃんといい、めちゃくちゃ仲良くなってるな。


「明日から旅行に行くんです。朝が早いので、涼也さんのところに泊まって一緒に行くことにさせてもらっても大丈夫ですか? それから、彼女は一緒に行く友達です」


「涼也さんと同じ大学の野咲 三千花です。一緒に泊まらせて頂いてよろしいでしょうか?」


「あら、可愛いお友達……三千花ちゃんね。いつでも大丈夫よ。良いわねー青春だわ」


 あっという間に、宿泊許可をとったな。さすが陽花。


「ありがとうございます。うるさくしないようにしますので……」


 早苗さんにお礼を言って、部屋に向かう。いつも勝手に泊めちゃってるけど、ちゃんと許可が取れて良かった。

 まあ、俺抜きで許可取れちゃうっていうのも、どうかと思うが……


 ――部屋に入ると、疲れて座り込んでしまうが、


「それでは夕食を用意しますね。今日はロールキャベツを作ります」


 陽花は休み知らずで、夕飯の用意をしようとする。

 少し休んだらって言おうと思ったけど、バッテリーもそんなに減ってないと思うし、休む必要がないんだよな……ここはお願いしよう。


「ありがとう、助かるよ」


「あっ、私も手伝うわよ、ちょっと待ってて」


「大丈夫ですよ、三千花さん。少し休んでください、今お茶を入れます」


 これ、陽花を引き取ったら、家事は全部やってもらえちゃうのか。早耶ちゃんは俺の「お嫁さんになる」って言ってたけど、果たして、お嫁さん必要なのかな……


「はい、どうぞ」


 陽花がお茶を持ってきてくれた。


「あー、ありがとう」


「ありがとう、陽花ちゃん、これ飲んだら手伝うわね」


 お茶をすすりながら、あれこれと考えていると、


「なにか、変なこと考えてるでしょ?」


 三千花にツッコまれる。どうやら三千花も似たようなことを考えてたみたいだ。


「いや、陽花を引き取ることになったら、家事をやる必要がなくなっちゃうなって」


「それは、私も思ったわ……でも、そういう時代の流れなんじゃないかしら、昔はかまどに火を付けるところからだったから、それこそ女性は一日中家事をしていたわ。でもそれが段々便利になって、共働きできるようになったりもしているのよ」


 さすが三千花、歴史と照らし合わせて考えてるな。まあ、AIのこれからを考えると、そういう流れにはなるのか。


「だから、そこは時代の流れに身を任せれば良いと思うんだけど……」


「そうだね、そうやって空いた時間は、何か別のことに使えば良いわけか」


「そうよ、だから、誰も選ばなくていいなんて、考えないでね」


「…………」


 そこまで、見透かされてるか。

 ただ、今は誰か1人と付き合うことになってしまうと、みんなとの関係が崩れてしまうんじゃないかなと思ってしまう。


「でも、そんなに急いで考えなくても良いかもしれないわね、じっくり考えて決めれば良いと思うわ」


「えっ!? 良いんだ」


「そうね、少なくとも2人はずっと待ってると思うから」


 ん? 2人って、早耶ちゃんと……三千花……なのか?


「お茶飲み終わったから、料理手伝ってくるわね」


 そういうと、三千花は台所に行ってしまった。


 三千花も、俺が誰かを選ぶまで待っていてくれる……のか。

 はっきり言われたわけじゃないけど、そんな気がした。


 明日からの旅行で、自分の気持ちが少し分かるんだろうか。

 落ち着いて、よく考えないと……


 そう思わせる、三千花の言葉だった。

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