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【第104話】本所デート その5 お宅訪問

「ここが、涼也くんの通ってた小学校なのね」


 横網町公園は小学校のとき防災訓練の避難場所になってたっていう話をしたら、「小学校って近くにあるの?」っていう話になって、来ることになった。


「といっても、入れるわけじゃないから、外から見るだけだよ」


「うん、大丈夫よ、ちょっと雰囲気が見たかっただけだから」


 ちょっと見たかっただけという割には「ここに早耶ちゃんと通ってたのよねー」とか言って、色々物色している。


「鉄棒がたくさんあるのね」


「そうだね、普通に手の届く鉄棒と、砂場の上は手の届かない高さの鉄棒があるんだ。よく、”グライダー”っていうのをやって、先生に怒られてたな」


 鉄棒から勢いをつけて飛んで、どれだけ遠くに着地できるか競うんだけど、けが人が出るたびに禁止になって、しばらくすると、またやるっていうイタチごっこになってたっけ。


「涼也くんも飛んでたの?」


「うん、身長が低かったから、そういうのじゃないと、勝負にならなかったし」


 三千花が「いったい何の勝負なのかしら?」と不思議がっているが、小学生男子には負けられない勝負があったのだ。今思うと、理由は分からないけど……


「それを早耶ちゃんも見てたのね?」


「いや、人に見せるためにやってた訳じゃないから……たまたま見てたってことはあるかもしれないけど」


 さっきはいいって言ってたのに、やたらツッコミを入れてくるな。「私も一緒に通いたかったわ」とかボソボソ言ってるのが聞こえる。


「登下校は一緒だったの?」


「下校はバラバラだったけど、行きは集団登校だったから、一緒の班だったかな」


 低学年のときは、毎日手をつないで登校してたとは流石に言えない。


「家は近かったの?」


「小学生のときに、のんびり歩いて15分だったかな、今歩いたらそんなにかかんないと思うけど……」


「行ってみましょう」


「えっ、あっ、うん」


 行ったところで、住んでた家は無いんだよな。まあ、懐かしいから行ってみるか。


* * *


「あっ、この公園で良く木登りしたな」


「あんなに高い木に登ってたの? 落ちたら大変よ」


「そうだね、てっぺん近くまで登ってたから、今見ると、けっこう高いな……いつも登ってたから、落ちるなんて考えたことなかったけど」


 この歳になると、そういう目線で見ちゃうよね……夕花が登ってたら、ハラハラして、絶対降りてこいって言うな。


 ――そんな感じで歩いていると、あっという間に家があった場所に着く。


「ここに家があったんだけど、今は取り壊しちゃって、違うビルが建ってるね」


「そうなんだ、ここで育ったのね」


「となりが空き地だったから、庭みたいに遊んでたんだけど、今は駐車場になってるのか」


 あの頃の風景がもう無いのは、少し寂しいな……でも三千花と一緒だと、そんな気持ちも過去のものに思える。


「本当に、住宅街なのね、なにかエピソードはないの?」


 いきなりの無茶振りだな。


「えーっと、友達が飼ってるオウムの餌がひまわりの種だったから、空き地にいっぱい蒔いてひまわり畑にしようと思ったんだけど……」


「えっ、どうなったの?」


「翌日、色んな鳥が飛んできて、みんな食べられちゃった」


「そっ、それは残念だったわね……」


 三千花が笑いをこらえて、苦しそうにしている。こんなしょうもないエピソードしかないんだよね。


「まあ、でも、何本かは残って、ちゃんと咲いてたっけ……その種を回収して、友達の家に返した」


「けっこう、やんちゃだったのね……以外だわ」


 いや、小学生男子のやることなんて、そんなもんでしょ。

 今のは人に話しても大丈夫なエピソードだったけど……


 ――そんな話をしてると、キキーっと、自転車のブレーキの音がして、


「あれっ? 涼くん? どうしたのこんなところで?」


 早耶ちゃんとばったり出会った。それもそのはず、早耶ちゃんの家は目と鼻の先だ。


「えっーっと、昔住んでたところがどうなってるか気になって……」


「そうなの? 引っ越すとき壊しちゃったでしょ? ずいぶん前からこのビルになっちゃってるけど……」


 まあ、俺が気になったというより、三千花が行ってみようっていうから来たんだけど。

 しかし、バイトのときに着てた、結構短めのスカートで自転車に乗ってるから、目のやり場に困るな。


「うちは、そのままよ、良かったら上がっていけば?……あっ、彼女さんも一緒にどうぞ……パソコンも見てもらいたいし」


 デート中に幼馴染の女の子の家に上がる男が居るのだろうか? しかも彼女も一緒にって、そんなことある? いや、まだ正式に付き合ってるわけじゃないから良いのか? って、そんなわけないよね?


「良いんじゃない、困ってるみたいだし、折角だからお邪魔させていただきましょうよ」


 えっ? 良いの?

 俺が、頭の中でぐるぐる考えてるうちに、三千花がそう言ってくれた。うん、そう言われたら行くしかないか。


「じゃあ、ちょっとだけパソコンを見せてもらっても良いかな」


「うん、お母さんも喜ぶわ、ちょっと待ってて、自転車置いてくる」


 いや、お母さん居るの?……って、日曜日だし、居るに決まってるか……めちゃくちゃ顔合わせづらいけど。


 ――階段を登って、ドアを開けると、懐かしい風景があった……よく遊びに来たなここ。


「お母さーん、涼くんが来たよ」


「あら、涼ちゃん!? どうしたの、急に……まあ、こんなに大きくなっちゃって、本当に久しぶりね……あらっ、そちらは、涼ちゃんの彼女さんかしら? あらー早耶ったら振られちゃったのね」


 いや、振られちゃったって……今?

 相変わらす、早耶ちゃんのお母さんだな。10年以上会ってなかった気が全くしない。


「ちょっと、お母さん、何言ってるの? あっち行って!」


 早耶ちゃんも相変わらず内弁慶だね、全く変わってない。


「おじゃまします。涼也くんの大学の同級生の野咲三千花です。あっ、彼女とかではないです」


 彼女じゃないとかハッキリ言われるとがっかりするけど、事実、まだ付き合ってくれとも言ってないんだからしょうがないか。


「あら、三千花ちゃんっていうの? 可愛いわねー、早耶とも仲良くしてあげてね……ほら、早耶、彼女じゃないそうよ、あなたもまだ頑張れば何とかなるわよ」


「だからお母さん! ホントにもう、黙っててよ!」


 すごい、早耶ちゃんも強くなったな。「ごめんねー、三千花ちゃん、あんなお母さんで」とか「ううん、良いお母さんじゃない。ごめんなさい、急におじゃましちゃったからよね」とか話してるけど、もしかいして、お母さんを通じて、連帯感が生まれてる?


* * *


「えーっと、こっちの使ってないアカウントからパスワード変更掛けたから、ここに新しいパスワード入力してくれれば直るよ」


「ありがとう! これでログイン出来るようになるのね、えーっとパスワードはxxxx0515……」


 パスワードを声に出して読むんじゃない……そして、俺の誕生日を入れるんじゃない……なんで覚えてるんだ。


「ログインできなくなっちゃって、どうしようかって思ってたの。パスワード変えたのがいけなかったのね」


「パスワード変更するときは、大文字と小文字区別するから、Caps Lockとかも注意して……」


「うん、今度変更するときは、涼くんに相談するね、本当にありがとう!」


 いや? そこ毎回相談いらないでしょ。もしかして、また連絡来るの?


「三千花ちゃんもありがとう、一緒に来てくれて。私地元にしか友達いないから、良かったら連絡先交換しない?」


「嬉しいわ、交換しましょう。こちらこそ、お茶とシュークリームまでご馳走になっちゃって、ありがとう」


 そして、この2人も、なぜか連絡先交換してる……これで三千花の連絡先にまた女の子が1人増えるわけか……あながち言ってた体質は本当っぽいな。


 こうして俺は――デートのはずが、なぜか幼馴染の家に上がりこみ、三千花と早耶ちゃんが仲良くなる場面を見守ることになったのだった。

すみません、三千花の苗字修正してます。

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