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【第103話】本所デートその4 特異体質

「えっ、休館……?」


 しまった。完全に確認不足だった。

 陽花にでも聞いてれば一発で分かったのに、日曜開いてるって知ってたのが裏目に出た。


「来年まで大規模改修中なのね、じゃあ、再開したらまた一緒に来ましょう」


 三千花は怒るでもなく、来年以降一緒に来る約束をしてくれる。もしかして女神……なのか?


「ここだけ来るなら、朝からずっと見てられるわね。閉館は何時かしら?」


 どうやら、改修終わったら、朝から閉館まで見て回るつもりらしい……いや、もちろん一緒に回るけど……


「えーっと、どうしようか? この辺だと、横網町公園か、安田庭園とかがあるけど」


「安田庭園に行ってみましょう。安田財閥と関係あるのかしらね」


 なんか、最初から三千花と相談してどこを巡るか決めておけば良かったな。地元だからと思って、知ってるところを案内しようとしたのがいけなかった。


「安田庭園なら、すぐそこだから、行ってみようか」


* * *


「綺麗なところね、あっ、池に亀がいるわ」


「うん、よく、友達と亀を捕まえにきたっけ」


「えっ、捕まえるの?」


「人に寄ってくるから、向こうから捕まりにくるっていう感じかな……まあ、捕まえても、またすぐ逃がすんだけど」


「そうなのね、小学生の頃?」


「うん、入場無料だし、学校の帰りとかに来たこともあったかな」


「江戸時代からある庭園にいつでも入れるって素敵ね」


 そういう感想なんだ。それにしても江戸時代好きだな。


「えーっと、三千花は江戸時代が一番好きなの?」


「そうね、おばあちゃんの家に行って、一緒に時代劇を見ることが多かったから、江戸時代の話を最初に好きになったわね」


 そうなんだ。確かにばあちゃんち行くと、テレビで時代劇やってたな。ちゃんと見とけば良かった……


 ――池の周りを2人で歩く。池のほとりまで降りて、飛び石を手を取って渡ったりする。なんだか、ちゃんとしたデートみたいだ……社会科見学ルートから外れて、良かったかも……


「あっ、休憩所があるのね、入ってみる?」


 和室の休憩所がある。自由に入れるみたいだ。2人で靴を脱いで、畳の部屋に入る。


「庭園が見えるのね、落ち着くわ」


 いや、誰でも入れる場所だけど、和室に2人っきりで居るとか、結構どきどきするのは俺だけかな?


「今日は私の行きたいところにつきあってくれてありがとう。でもせっかくのデートなのに地味なところばっかりでごめんなさい」


「いや、俺も良く調べてなくてごめん。でも、子供の頃遊んだところに、一緒に来れて嬉しかったから」


「そう言ってもらえると良かったわ。私、大学に入ってからはこういう格好するけど、高校のときは、本当に地味で、こんな風に史跡を回ったり、ずっと図書館で本を読んだりしてたのよ」


「そうなんだ……いや、三千花だったら、付き合ってる人いてもおかしくないのに、どうしてだろうって思ってたけど」


「本当は、大学入ってからもしばらくは地味な格好してたのよ。でも、友達にもったいないって言われて、ちょっとおしゃれしてみたの。ピアスもそのとき開けたわ」


「えっ、そうだったんだ」


「そしたら、今まで私のこと気にも留めてなかった男の子たちが、急に声を掛けてくるようになって……」


「……それで、どうなったの?」


 続きを聞きたいような、やっぱり聞きたくないような気もしたが、思わず聞いてしまった。


「そんな手のひら返したみたいにして、急にあれこれ言われても、結局外見しか見てないってことじゃない。全部丁重にお断りしたわ」


 それは、三千花らしいな。うん、聞いて良かった。


「それからは、ピアスは外して、洋服も、前ほど地味じゃないけど、普通の格好にしてみたわ」


 その後で出会ったって訳か、まあ確かに、普通にバイト頑張ってる子っていう印象だったな。


「そしたら、男の子たちは、別に私じゃなくても良かったみたいで、他の子に手当たり次第に声を掛けてたわ。結局、だれでも良いから、付き合ってくれる子を捜してただけなのよね」


 もしかして、今の俺の状況って、色んな女の子に声かけてるみたいに見えてないかな。デート中に幼馴染から連絡先もらったりしてたし……


「あっ、涼也くんのこと言ってるんじゃないのよ。あれは多分私のせいだから」


 ん? 三千花のせいって、なんで?


「元々、私の周りって、9割女の子なのよ。前に、妹が3人居るって話したわよね。私が女の子を引き寄せる体質なんじゃないかって思ってるの」


 そんな、うらやま……じゃなかった。そんな特殊な体質、聞いたこと無いけど。


「私と出会ってから、涼也くんの知り合いって、女の子ばっかり増えてない?」


 ……そう言われると、心当たりがありまくりだけど、それが三千花のせいってこと?


「科学的には、全く根拠がないんだけど、でも統計的に考えても、すごく確率を引き当ててるわよね」


 確かに、そこまで偏ってるとなると、すごい有意差がでるな。


「陽花ちゃんと夕花ちゃんが人間の姿で現れたのだって、私のせいだって思うことがあるんだから」


 そこまでくると、奇跡的な確率だな。まあでも、そんなこと気にしてたのか。


「そんなこと、気にしなくて大丈夫だよ。むしろ陽花と夕花が人間の姿になれたのがそういうことなんだったら、むしろ、その体質に感謝するよ」


「えっ、そうなの? それで良いの?」


「うん、全然構わないよ。それに9割なんだから、絶対ってわけじゃないんでしょ」


「それは、そうだけど、将来、結婚しても女の子しか生まれないかもしれないのよ」


「俺は、全員女の子でも無事に生まれて、元気に育ってくれれば、それだけで嬉しいよ」


「えーっと、それって、涼也くんと私の子供ってこと?」


 ……しまった。三千花は自分の子供のこといってたのに、いつのまにか熱くなって、俺の子供って感じで話しちゃってたか。まだ付き合ってもいないのに、いきなり2人の子供の話するって、バカなのか俺は。


「…………」


「…………」


 いやしかし、大見得きっちゃった手前、否定するのも傷つくよな。


「そういう未来があるなら、それも全然良いし、むしろ嬉しいよ」


「……そうなの……えっと、ありがと」


 赤くなって、うつむいてしまう三千花。


 こうして、俺は、朝食事件以来の、2回目のプロポーズ発言を三千花にしてしまったのだった。

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