【第102話】本所デート その3 思わぬ再会とパスタランチ
「ご注文をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
何を頼むか決まったところで、タイミングよく早耶ちゃんが注文を取りに来てくれた。
「三千花は決まってる?」
「あっ、私は、カルボナーラのランチセットで、飲み物は紅茶をホットでお願いします」
うん、夏にホットの紅茶を頼むところが三千花っぽいな、えーっと俺は……
「涼くんは、ボロネーゼとオレンジジュースかしら?」
……いや、それを頼もうと思ったけど、なぜ分かるんだ……
「えっーっと、なすとトマトのパスタとグレープフルーツジュースで」
どっちにしようか迷ってたもう一方のメニューに変更して注文する。
いや、デートで入ったレストランで幼馴染の女の子にメニュー当てられるとか、そんなとこ見せられないでしょ。
「カルボナーラと、なすとトマトのパスタ、お飲み物は紅茶のホットとグレープフルーツジュースですね。サラダはお付けしますか?」
「「はい、お願いします」」
「お飲み物は、食後になさいますか?」
「「はい、食後で」」
三千花と2回もハモってしまった。デートだって分かってたみたいだし、これなら大丈夫だよな。昔のこととか話されたら気まず過ぎるし……
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
早耶ちゃんが、ニッコリと微笑む。こんな美人にこの笑顔されたら常連さんになっちゃうよな……いかんいかん、営業スマイルにやられるところだった。
三千花は、じーっと俺の顔を見つめている。
表情は変えてないつもりだけど、考えてること分かるのかな、もしかして……
「仲良かったのって、小学生の頃なのよね?」
「うん、正確には、低学年くらいまでかな。姉貴に連れられて女の子チームに入れさせられること多くて、早耶ちゃんは幼稚園から一緒だったから、よくしゃべってた気がする」
「その後は連絡取ってなかったの?」
「流石に高学年になったら、女の子と遊んでると冷やかされるから、それ以降はクラスも違ったし、ほとんどしゃべらなくなってたけど」
「それにしては、距離感が近いわよね」
それは、確かに俺も思った。
普通、10年近く会ってなかったら、もっとよそよそしいと思うんだよね。
「許嫁……なのかしら?」
「いやいや、幼稚園のとき『りょうちゃんのおよめさんになる』って言われた気がするけど、約束した訳じゃないし、小学校のときも特に何もなくて、そのまま疎遠になっちゃったから、さすがにそれは無いでしょ」
「でも、女の子って、結構そういうの覚えてるのよね、親にも言われたりもするし」
「えっ、三千花もそういうことあるの?」
「私は、『いとこの拓ちゃんと連絡とってないの?』とか言われるくらいね、でも大人になってからって、親戚の結婚式か法事のときくらいしか会わないから、普段は思い出さないかしら」
まあ、普通そうだよな、俺も早耶ちゃんのこと全然忘れてたし、姉貴に言われてなかったら「ごめんなさい、思い出せないです」って言ってたと思う。
「そう考えると、髪型も変わって化粧もしてるのに、すぐ分かってくれたってポイント高いかもしれないわね」
しまった。何とか答えられてセーフと思ったけど、もしかして答えられないほうが正解だったのか。
「そんなに会ってなかったのに、覚えててくれたんだから、純粋に嬉しかったんだと思うわ。その気持ちを大切にしてあげてね」
そう言われると、ちゃんと名前を覚えてたのは良かったのか。やさしいな三千花は……
――そんな話をしていたら、料理ができたみたいだ。
「お待たせしました。こちらカルボナーラとサラダです……こちらはなすとトマトのパスタとサラダになります。お飲み物は食後にお持ちしますので、お食事がお済みになりましたらお呼びください。ごゆっくりどうぞ」
と、またニッコリと笑顔で戻っていく早耶ちゃん。すごい、しっかりしてるな。
「さっそく、いただこうか」
「そうね、美味しそうだわ」
一口食べると、深みのある濃厚な味わいが口に広がる。このブロックベーコンがアクセントなのかな。さすがイタリアンレストラン。ファミレスとは違うな。
「このカルボナーラ美味しいわ、豆乳がベースなのね。今度まねしてみようかしら」
うん、そっちも食べてみたかったから、是非作って欲しいな……って、ご相伴にあずかれるとは限らないか。
「陽花ちゃんにも教えてあげたいから、今度陽花ちゃんが来るとき、一緒に作るわ」
「ほんと! ぜひお願いします」
思いがけず、料理を作ってもらえることになった。やっぱり美味しいものは人を幸せにするな。
……あっという間に食べ終わると、ちょうどよく、早耶ちゃんがやってきて、飲み物を持ってきてくれる。すごい良いタイミングだな。
「ランチタイムですけど、平日じゃないので、ゆっくりしていただいて大丈夫ですよ」
細かい気遣いもしてくれて、良いお店だな。思いがけない再会だったけど、結果的に良かったかも。
* * *
「お会計ですね、ご一緒でよろしいでしょうか?」
「あっ、一緒でお願いします……ここは俺もちで……」
「いいの? ごちそうさま」
臨時のバイト代も入ったから、このくらいは余裕だ。
「はい、こちらお釣りになります。お確かめください」
お釣りを財布にしまってると、何やら、お店の名刺に、数字を書いたものを渡された。
「これ、私の電話番号です。今度、パソコンを買いたくて、電話でいいのでどれが良いか教えてもらえると嬉しいです。あっ、涼くんの番号はお姉さんから聞いてるから、その番号から掛けるからよろしくお願いします」
やっぱり、姉貴から情報がいってたんだな。まあ、この前会ったって言ってたし、姉貴がしゃべらないわけないか。
「彼女さんも、ごめんなさい、パソコン全然分からなくて、涼くんくらいしか頼る人がいなくて、本当にちょっと教えてもらうだけにしますので、お願いします」
「あっ、いえ、全然大丈夫ですよ。気にせず教えてもらってください」
いつの間にか、教えることになってるな……まあ、得意分野だから良いけど。
「じゃあ、連絡してもらえれば、アドバイスするから……それじゃ、ご馳走さまでした。美味しかったです」
「私のも美味しかったです。ご馳走さまでした」
「そう言って頂けると、頑張って作った甲斐がありました。あっ、作り方はちゃんと指導受けてますから、お店の味ですよ。ありがとうございました。是非またお二人でいらしてください」
まさか早耶ちゃんが作ってくれてたとは……お店で出せる腕前って、プロ並みってことか。すごいな。
少し身構えちゃったけど、何のことはない、昔と変わらず良い子だった。
――まだ半日しか経ってないのに、色々ありすぎる。けど、デートはこれからが本番だ。午後も楽しもう。