表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】眼鏡ギャルの近間さん 〜陰キャの俺がギャルと友達になれたのは、眼鏡女子が好きだったお陰です〜  作者: しょぼん(´・ω・`)
第七章:怪我の功名?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/112

第七話:試合の行方

「プレイ!」


 審判役の先輩の声に、千堂君が投球ポーズに入り、俺もバットを構えた。


 一球目……フォーク。

 俺はまったく反応せず球を見送ると、予想通り低めのボールがくんっと落ち、ベースにバウンドしボールとなる。


 じーっと俺の反応を見る鋭い目の千堂君。

 正直軌道は見えてたし、落ちきる前に打てる気はした。けど、ボールになる球は無視したほうが絶対いい。

 最悪フォアボールでランナー一、二塁にできるんだから。


 まあ今ので手が出ない、と思って油断してくれたらいいなと期待してたんだけど、二球目もそんな甘さを感じない、外側からぐいっとストライクゾーンに曲がってくるカーブを投げて来た。

 ストライクか怪しかったから、少し引き付けた後バットに当て、一塁線側にファールにしてみる。


 ……うん。意外にいけるな。

 ゲームとバッティングセンターで慣らした感覚が意外にハマっている事にホッとしながら、俺はじっと千堂君の球を観察した。


 ……外角ギリギリ。


  カキン!


「ファール!」


 ……インコースギリギリのカーブ。


  カキン!


「ファール!」


 っと。今のはちょっと危なかった。

 足をそのまま出したんじゃ、窮屈すぎて引っ張れなさそうだ。

 あと、スローカーブだとタイミングが合わせにくいのもあるけど、弾き返しても飛ばなそうな気がする。


 早くてインコースに入ってくる球……スライダー、か?

 うん。それに狙いを絞ろう。


 そんな思考で俺は続く二球もうまく合わせてファールにした。


 ワンボールツーストライク。

 ファールも五回目になると、流石に周囲が妙にざわつき、千堂君や葛城君の表情にもあり得ないだろという驚きが見える。

 特に、クラスメイトの葛城君は、千堂君より目を丸くしてる。


「おいおい。あいつ何であんなにバットに当てられるんだよ!?」

「練習でもノーコンっぷりしか見せてなかったよな?」


 ベンチの方から聞こえる疑問の声。

 うん。それはその通りだと思う。


 俺達が練習らしい練習をしたのは体育の授業だけなんだけど、そこでの俺はというと、捕球は無難にこなしたけど、送球はてんで駄目という、控えに収まるべくして収まったプレイしか見せられてない。


 しかも、打撃練習はレギュラーで出る選手メインでやってたし、終わり間際に希望者を募った時も手を上げなかったから、誰も俺のバッティングを見ていない。

 結果、期せずしてこんな状況を生まれたんだ。


 正直、近間さんと友達になってなかったら、多分適当に流して終わりにしてたと思う。

 できない自分と認知されてる方が、人と関わらずに済むし。


 でも、彼女の頑張りを見た後に、応援までされている今、それをするのは何か嫌だ。

 感化されたのかはわからない。

 けど、適当に終わらせて近間さんにがっかりされるのが嫌だったから。

  

「ファール!」


 もう一球ファールにした所で、俺は一旦審判役の先生に手で合図をした後、バッターボックスを出て、ずれた眼鏡を直す。


 ……まずは塁に出る。

 それだけはマスト。


 改めて自分にそんなミッションを課していると。


「遠見君! 頑張ってー!」

「いけるぞ! 遠見!」


 と、突然俺への声援が大きくなった。


 ……きっと近間さんとグラ友にならなかったら、こんな声援もなかったんだろうな。

 たった一ヶ月なのに、今までの学生生活と違いすぎるこの高校生活。

 中学までの俺とは違う、少し充実感を感じるこの状況に、自然と笑みが浮かぶ。


 ちらりとまた肩越しに近間さんを見る。

 彼女も手を握りながら、眼鏡越しにこっちに真剣な瞳を向けてくれる。


 ……近間さん。ありがとう。

 心でお礼を言った俺は、再びバッターボックスに入った。


 そして、千堂君の投じた七球目──低い!

 力んだ彼のしまったという顔。投げられた球がこっちの足元に飛んで来たのを、俺は咄嗟にその場でジャンプして避ける。


「ばっか!」


 キャッチャーの叫びに後ろを見ると、グラブに収まらない球が彼の後ろに逸れる。

 慌てて走って球を追った彼がそれを掴んで投げる構えをしたけど、その時には葛城君は既に二塁に滑り込んでいた。


「おおおおっ!」

「きゃぁぁぁっ!」


 喜びと驚き、悲鳴の混じった生徒達の声。

 それを耳にしながら、俺は改めて現状を確認する。


 ワンアウトランナー二塁。

 これでゲッツーの線はほぼなし。


 葛城君の進塁を考えたら、今度は一塁線に打つのが正解だと思う。三塁側に打つと彼が進塁できないから。

 だけど、俺は敢えてこのまま、狙い球と打つ方向を変えない事にした。

 今までそのつもりで打つリズムを作っていたし、ここで下手に変えたら空振りする可能性もある。


 周囲の生徒達が千堂君や俺に声援を送る中、その熱とは真逆の落ち着いた気持ちのまま、俺は再びバッターボックスに入った。


 キャッチャーから返球された球をグラブで受け取った彼も、天を仰いで深呼吸している。

 野球部の生徒だからこそ、上手いのは当たり前。でも、プレッシャーは相手が絶対上だ。

 なんたって、相手は大して目立たない帰宅部の一生徒。

 そんな奴相手に、同点打なんてプライドが許さないだろうから。


 ……ふっと、何故か思う。

 次の球で最後じゃないかって。


「プレイ!」


 理由も何もあったもんじゃないけど、俺はそんな直感を信じ、バットを構えた。

 千堂君もコールに合わせて構えると、大きく振りかぶる。

 この腕と肘の角度──スライダー!


 見抜いた投球フォームから望んだ球が来ると知り、球が腕から離れた直後、動いた。

 インコースを狙う速い球。


 いけっ!


 俺はリズムに合わせ前足をバッターボックスの外側に出し、体を開いて全力でバットを振る。

 途中でくいっとスライダーらしい軌道を描く球。だけどその曲がり際を、今までで最も早く振られたバットが捉えた。

 バットに感じる重み。そして──。


  カキーン!


 快音と共に、俺は一気に一塁目掛け走り出した。

 打球の行方を見ると、鋭く低いライナー性の打球がショートの頭上を抜けた。


 決して足は早くない。

 けど、今は全力で走れ!


 ゲームでランナーが取る軌道をなぞるように、一塁手前で少し膨らんだ俺は、そのまま一塁を踏み二塁へ走る。


 走りながら打球を追うと、レフトとセンターの選手の間でバウンドし、グラウンドの奥へ転がっていく白球。

 これなら葛城君はホームに入るはず! なら、このまま行け!


「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」


 そのまま二塁を蹴り三塁を目指す。

 けど、早くも息が苦しくなってくる。でも、まだ! もっと早く!

 三塁に向かい必死に走っていると、


「遠見! 回れ回れ!」


 ベンチの選手達が大きく手を回し、ホームに走れと合図する。

 その後ろで応援してる生徒の中に、拳に力の入った近間さんもいる。


 もう球の行方なんて見てる余裕はない。けど、みんなを信じろ!


 息苦しさ。足のだるさ。

 それを無視して俺は、そのまま三塁を蹴った。

 息を止め、もがく力を力に変え、少しでも早く走ろうと足掻く。

 キャッチャーはベース上で、捕球のため構えている。


 どこまで返球されてるかわからない。

 けど、いけ!


 近づいたホームベース目掛け、俺は頭から勢いよくヘッドスライディングすべく、前のめりに飛び込み両腕を伸ばした──その瞬間。


「危ない!」


 悲鳴のような近間さんの声が聞こえたのとほぼ同時に、後頭部にズキーンと痛みが走り、バーンと目の前に星が瞬き、目の前が真っ白に──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ