チャンス到来
サマンサは焦っていた。枝子の要求に答えられない。いますぐにあひるランド軍の兵力分析など出来る分けがない。実際、軍隊はまだ再編、整備されていないのだ。データなんかあるはずがない。軍隊はほぼ崩壊したままであり、すぐに援軍を出せる状況ではない。しかしここで退く分けにはいかないと、はったんが待つ住処へと急いだ。
「困ったことになった。すぐにあひるランド軍や志願兵の兵力データが欲しいと枝子が言ってる。なんとか出来ないものかな、はったん」
サマンサははったんにこの窮地を告げた。
「防衛大臣はまだ軍隊の整備はできていないと言ってたからな。どうしようか。旧政権軍の情報なら残ってるだろうけど、そんなのは役に立たないよ。とりあえずぼくが急いで防衛大臣に話しに行ってくる」
そう言うとはったんは下水道の穴ぐらを飛び出していった。
あひるランドにあるピジョーのアパートではったんと防衛大臣は頭を抱えていた。
「大統領はそう出たか・・・」
アヒル防衛大臣が呟いた。
「データや情報なんかは適当に伝えればいいんじゃないかな。正直に答えてこっちの手の内をわざわざ見せることはないよ」
はったんはピジョーが置いていった「しお」の箱をいじくり回しながら答えた。
「しかし、そうすれば恐らくすぐに援軍要請をされるだろう」
「そのときはそのときだよ。なんとかなる。進むしかないんだ、僕たちは。それで実際、軍隊はどうなってるの?」とはったんが聞いた。
しばらくの沈黙のあと防衛大臣が口を開いた。
「実は予想以上に早く軍隊が整ってきていることは確かなんだ。志願兵の集まりも眼を見張るほどだ。かなりの兵力、軍事力に達している。だから思い切っていま軍隊を蚤ヶ島に送り込んで、突如反旗を翻せば蚤ヶ島軍を潰せると思う。早急に援軍を送ると枝子大統領に伝えてくれないか、はったん」
「えっ!」とはったんが答える。「情報だけでなくいきなり軍隊を送り込むのか?」
「そうだ、一気呵成に蚤ヶ島を叩きつぶそう。先手必勝だ」
防衛大臣は続ける。
「枝子は情報を得てから対策を考えようとしているに違いない。まだあいつらの軍隊は整っていないはずだ。いまが最大のチャンスかもしれない。こちらも向こうの軍事力に匹敵するほどの兵力にはなっているはずだ。詳細なデータと一緒に援軍を送ると伝えてくれ。そうすれば国境が開くだろう。国境の門が開いたらすぐに軍隊を送り込む。待っててくれ!」
「分かった。出来るんだな」
はったんが言うと防衛大臣は力強く頷いた。はったんはピジョーのアパートを飛び出し、蚤ヶ島へと向かった。
はったんの後ろ姿を眺める大臣の体から二匹のダニが飛び出していった。
(つづく)




