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おばあさんの思案

 八幡様が思いつきで開発した「ぶらぶらブラ」のお陰で一旦、村でのシラミ騒動は収まった。

 しかし、おばあさんの不審と不安は消えていなかった。シラミの大繁殖ばかりではない。なによりおばあさんに根強い不安を抱かせたものは、娘の枝子えだこの安否であった。まだ幼い柿太郎の手前、態度には出さなかったが、枝子が悪い奴らに騙されて、しばかれてはいないか。あの五十万円で本当に問題は解決したのか。音沙汰がまったくない状況のもと、おばあさんはときに自ら無理に安心し、またときに大きな不安の波に呑み込まれていた。


 そのうえここのところの状況の急転が、ある種の不吉さを伴って、おばあさんの不安を増幅させてもいた。おばあさんは得体の知れない焦りをも感じていた。それがまた枝子を救いたいという思いをさらに鋭く尖らせ、おばあさん自身を光らせているようだった。


 おばあさんはどこかに枝子を連れ戻す糸口があるはずだと、様々に思案を巡らした。

 突如姿を隠したドバトのサマンサ、蚤ヶ島に出現した悪の塔、ネコの和代と柿太郎の恋の行方、弁天様信仰に入れ込み祝詞のりとを叫びだした和代、シラミの大発生、お祭りの行方。どれをとっても異常なのだが、これらが繋がらない。はたしてこれらの出来事が枝子の失踪と関連しているのかさえ分からないのだ。


 おばあさんはひとり、思いを巡らしながら多摩の浦の浜辺を歩いていた。心ここにあらずという様子で水平線を眺めたり、砂浜に目を落としたりしながら歩を進めていた。

「痛っ!」

 考え事をしながらの散歩ほど、やはり危険なものはない。おばあさんは、浜辺に転がるうすにつまずいた。

「誰だ! どこのバカ野郎だ。おれの家を蹴飛ばしたのは!」

 臼の中からす巻のごとく包帯をグルグル巻きにしたかにが頭を出して叫んだ。

「あっ、桃沢の婆さんじゃないか。柿太郎は元気か」

 蟹は松葉杖をつきながら臼から出てきた。

「ああ、太郎は元気だよ、お陰様でね」とおばあさんが言うと蟹は全身を真っ赤に紅潮させて言った。

「お陰様じゃないよ。柿太郎と一緒いたネコに放り投げられて、えらい目に会ったんだ!」

 蟹は、おばあさんに自分が大怪我を負うに到った顛末を、話しを盛りながらまくし立てた。

 蚤ヶ島に放り投げられたことから始まり、悪の塔に命中し大怪我を負ったこと。そこでドバトのサマンサに遭遇したのみならず、幼なじみのピジョーとも再会したこと、などなどである。

「だから、悪の塔を破壊して村人を守ったのはおれなんだ。和代じゃない。あいつのやったことは殺人未遂だ!」

 おばあさんは、殺人未遂といわれてもこいつは蟹であるし、本当の「多摩の浦の戦い」の功労者は自分だと訴えられても困ると思いながらも、蟹の言うことに一つひとつ頷きながら聞いた。

 腹に溜まっていた虫をひと思いに吐き出して落着いたのか、疲れたのか蟹は臼に腰掛けて話し始めた。

「島でサマンサに聞いたんだけど、あそこには色々と問題があるようでさ、島がベニヤ板で仕切られていて、その向こう側で事件が起きているみたいなんだ。この浜辺にもたまにチラシやパンフレットみたいなものが流れ着くんだが、ほらこんなのが最近よく流れてくるんだよ。多分それと関係があると思う」

 蟹は蚤ヶ島から漂着した濡れたパンフレットをおばあさんに差し出した。

 おばあさんは海水に濡れて開き難いパンフレットを、ページを破らないよう慎重にめくりながら、蚤ヶ島でのお金の給付や食料の無料配布の案内を一通り見、最後のページをめくった。

「えだこ!」

 そこには「エダもっこ財団」と記されており、会長の写真が載っていた。それがまさに娘の枝子であった。

 おばあさんは、枝子が蚤ヶ島で慈善事業に尽力しているのだと、貧しい者たちを救済しているのだと知った。そう思い込んだ。それは母が娘を思はざるを得ない魔法であり、次第に魔力に変わっていくものであった。

 


(続く)


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