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ちんこブラ開発

 ダニの行軍がベニヤ板をくぐり抜けた一週間後の深夜、蚤ヶ島の港に多くのゴムボートが突如、現われた。シラミの大隊長の指示で沢山の武器が積込まれた。いよいよシラミによる村への侵入が行なわれるのだ。

 

 優に千を越えるボートが多摩の浦の静かな海をゆっくりと滑ってゆく。無数のシラミたちが呼吸を合わせてオールを漕いでいる。微かに揺らめく村の明かりを目指し、何艘ものゴムボートが規則正しい隊列を組んで進んでゆく。


 闇夜に影ひとつ映さず、音ひとつ立てずにシラミたちは村の浜辺に上陸した。

 そのまま闇に紛れ、辺境とも呼ばれる北野の谷に、あっという間に主たる陣営を築いた。ここなら村人が訪れることはほぼない。時々馬車が通る程度である。

 シラミの作戦は勿論、いつもどおりさほど熟考されたものではなく、次々に村人の毛に寄生し繁殖をしながら感染していくことだった。


 村人たちは何も気づいていない。しかし最近、頭皮の痒み、脇毛の違和感、陰毛の不具合を訴えるものが増えてきたと、村の皮膚科や床屋では話題になっていた。


「どうしたんどろうね? みんな痒い痒いと言い出して」

 おじいさんは八幡様のお祭りの実行委員会の副会長に就任したこともあり、村人たちと接する機会が以前より増えていた。そのため村の情報をいち早く入手することができた。

「何か、おかしなことでも起きたら、お祭りも中止だよ」

 おばあさんが、柿太郎とネコの和代、そして相も変わらずおじいさんに愛想を押し付けんばかりに振りまいている小汚い雑種のタローちゃんにも聞こえるように答えた。

「頭の毛や脇毛が痒いということは、シラミじゃないかい?」

「きっと、そうだろうね」

 老夫婦の会話を黙って頷きながら柿太郎は食事を終えた。


 夕食が終わり居間には雑種のタローちゃんと和代、柿太郎が残っていた。

 タローちゃんが口を開いた。

「シラミに決まってるじゃないか。この村は清潔感がないからな、それでシラミが出たんじゃないか。ネコが運んできたのかもな」

 ネコの和代はいま弁天様の神事を覚えることに必死で、タローちゃんの言うことなど耳に入っていない。

「違うと思いますよ。いままでもこの村にはネコも雑種の子犬もいましたからね」

 柿太郎は最近、学校の道徳の時間に覚えたイヤミを交えて答えた。


 ほんの数日で村は大騒動になった。特に村の男性が大きな被害にあっていた。それもほぼ陰部の皮膚の痒みで熱を出す者、痒みに耐えられずずっと掻いているのはいいが、街頭や通りでズボン等を脱ぎ、掻きまくる者などが現われ、警察の出動も救急車の出動も日々、数え切れないほどになっていた。

 原因はシラミの大繁殖であることが、村の生活安全課の調査で明らかになった。

 これでは困る。おじいさんは八幡様のお祭りを中止にするかどうか、当の八幡様に相談してみることにした。


 八幡様は、きっとまだ弁天様への怒りで暴れているだろうと想像していたが、呼び出すと八幡様は陰部をしきりに掻きながら暗い表情で出てきた。

「こっちが相談したいくらいだよ、じいさん。痒くて痒くて仕方がないんだ」

(「罹ってるじゃん」)

 おじいさんはそう思いながらもせっかく来たので、お祭りのことやその他、色々と相談してみることにしたが、八幡様の頭からは、もはやお祭りのことも弁天様への怒りも消えており、ただただ「痒いんだよ、痒いんだよ」と繰り返すばかりだった。


 これではどうにもならない。相談などせずお祭りは中止にしようと、おじいさんが帰ろうとしたとき、八幡様が掻きながらふっとつぶやいた。

「なにか、ここを守るカバーみたいなものがあると良いんだがな・・・」

「やはり下着ではダメでしょうね。塗り薬も効かないようですし、どうしましょうか?」

 おじいさんは八幡様から距離を取るため後ずさりしながら答えた。

「本で読んだことがあるんだが、どこかの国の男はケースを着けてるらしいんだよ。しかしそれではこの村の風俗にも、この国の文化にも合わないから、俺は考えたんだけど、聞いてくれる?」

 八幡様が少し誇らしげにおじいさんに言った。おじいさんは仕方がなく答えた。

「ええ、伺います」

「あのね、ごく自然なものなんだ。理に適っている。普通、女性には胸があるからブラを着けているだろ。男性はその必要がない分けだ。その代わりに男性にはコレがある。これは常にぶらぶらと放っておかれている。シラミがどうこう以前に、何か落ち着けるものが必要だと俺は思ったんだ」

「はい」

 おじいさんは答え、八幡様は続ける。

「一応ね、試作品は作ったんだが、どうだろうか?」

 八幡様はいたって真面目である。おもむろに、それこそブラの片方だけを切り離して、紐を付けたようなものを持ち出した。

「こういうのはネーミングとデザインが大切な衛生用品だから、「ぶらぶらブラ」と呼ぼうと思う。これでかなりシラミの予防ができると、俺は確信している」

(「こんなもん、ちんこブラじゃないか」)。

 おじいさんは思った。

 しかし八幡様は自信に満ちていた。この急場をしのぐには、これもやむを得ない措置かも知れないと、おじいさんは同意した。


 さっそく八幡様発案の「ぶらぶらブラ」の本格的な開発と商品化が村を挙げて行なわれることになった。議会でも全会一致で事業化、予算化が承認された。

 まもなく「ぶらぶらブラ」は大量に配布され、陰部の痒みの問題はなんと収束したのであった。


 しかしこんなことで諦めるほどシラミの、そして蚤ヶ島の攻撃は弱いものではなかったのである。



(続く)


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