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67:五月二十八日その①

「探したぞ、立川」

「あ……」


 翌日、俺は学校へ着くなりいの一番に立川を探した。

 昨日の用事というのは、公認会計士の資格を取る為の学校を探しに行っていた、という事実。

 既に将来のことを考えて動いてるとか、随分と建設的なことで結構だと思ったがそれは応援するとして、俺にはもう一つ気にかかることがある。


 先日からこいつを探していた理由。

 それをここで明らかにしておかなければならない。

 そして学校の玄関で早速見つけることが出来たというわけだ。


「会って早々で悪いが、聞きたいことがあるんだ」

「何? 私何かしたっけ?」


 すっとぼけてるとか、そういう素振りは感じない。

 単純に俺がまっすぐ立川を訪ねて行って、そしていきなり質問という事実に驚いている様に見える。


「お前、最近変わったことなかったか?」

「…………」


 俺の質問を受けて、立川はさっと目を逸らす。

 しかしこうなることを予想していた俺は、すかさず立川の顔を掴んで、こっちを向かせる。


「まぁ、お前なんだろうとは思ってたけどよ……何もねぇ、とはその様子じゃ言えねぇよな」

「……は、放してよ」

「お前の目、見せてくれたら放してやるよ。お前、何で隠したがるんだ?」

「…………」


 どうにも、尋常ではないことだけが伝わってくる。

 どうして質問した瞬間に目を見てしまわなかったのか、と思うが瞬間的に逸らされては俺の能力も役立たずだ。

 そして人が徐々に集まり始めているということが、ここでの更なる追及を阻んでいると言っていい。


「あ、いたいた。沙紀、見つけられたんだ?」


 更にここで邪魔が入ってしまうという間の悪さ。

 振り返ると露木と戸越が、心配そうな顔で俺たちを見ている。


「ちょっと、さすがに強引な手段は……」

「……そうだな、悪かった、立川」

「…………」

「どうだったんですか?」


 露木は俺のしようとしていたことを理解しているらしく、咎める風ではない。

 戸越としてはもう少し穏やかにできなかったのか、という思いがあるのだろう。

 

「おそらくは黒だろう。こいつの態度も物語ってる。立川、悪いけど昼にでもちょっと付き合ってくれよ。大事な話なんだ」

「……わかった」


 返事を聞き届け、俺たちはそれぞれ教室へと向かった。

 


「っておい、立川何処行ったんだよ」


 昼になり、俺と露木は戸越と立川の教室へと足を運ぶ。

 しかし、戸越の姿も立川の姿も見えない。


「チャイム鳴ってすぐに出て行ったよ」


 そう言ったのは戸越と一緒になって立川を以前いじめ……まぁ誤解だったわけだが、そのうちの一人である多岐だった。

 俺たちと約束があるから、と言ってすぐに教室を出たと言っているが、俺たちはすれ違ってもいない。

 こんなおかしな話があるだろうか。


「要くん、もしかして避けられてませんか?」

「……やっぱお前もそう思う?」


 薄々俺もそうじゃないかとは思ってたんだが……原因としてはやっぱり朝のアレか。

 ちょっと焦りすぎて行動が先走り過ぎてしまった感は否めない。

 避けられている場合……あいつがどういう行動に出るか、というのが俺には全く想像できない。

  

 しかも戸越も一緒になって手助けをしているんだとしたら……正直もう何処を探したら良いのか、という見当すらつかない状態だ。


「生徒会室……って可能性はなくもないか……でも他に行きそうなところ……お前どっか心当たりは?」

「いえ……あ、でももしかしたら」


 一瞬考えた露木が、俺の手を引いて歩きだす。

 その向かう先、それは……。


「お前、すげぇな」

「要くんがよくきていた場所、って考えた時にここが思い浮かんだんです」


 露木に手を引かれて行きついた先は、学校の屋上。

 そして俺たちは、二人の人影を発見する。


「おい、何してんだお前ら」

「……来ないで」


 俺たちが見つけた戸越と立川は、何と屋上の柵の向こう側にいた。

 いつもと様子が違うのは、あの勝気な戸越が立川の人質の様になって、柵に必死で捕まって震えていることだった。

 もしかして今朝のアレで、立川を追い詰め過ぎた?


 んなバカな……あの程度で?

 

「どうするんです?」

「どうって……説得するしかねぇだろ。今下手に刺激したら……仮にあれが芝居だったとしても、危険だってことに変わりはねぇからな」


 何か別の目的を持ってのことだったとしても、追い詰めて落としてしまったらシャレでは済まない。

 二人ともを無傷で、助け出す必要があると俺は考える。

 それにしても、これが本気だったとした場合……立川をあそこまで追い詰めてしまうほどに、今朝のことがショックだったのか。


 それとも……能力を自覚してしまったか。

 だとすると、その能力はかなり厄介なものだと考えられる。

 普段そこまで目立ったことをしなかった立川だけに、逆にショックがでかい、ということはあり得ないことではない。


「なぁ立川。今朝のことなら謝る。いや、謝らせてくれ。俺が確かに悪かった。どうしたら、そこから戻ってきてくれるんだ?」

「…………」

「お前に黙ってたことがあったことも、謝るよ。けど、俺も確信があったわけじゃないんだ。それだけはわかってくれ」


 戸越ってそういや高所恐怖症なんだっけ。

 あの震え方からして、相当なものであることが容易に想像できる。

 そしておそらく立川はそんな戸越の弱点を知っていた。


 戸越がどんな思いでここまでついてきたのかはわからないが、こんなことになっているのは想定の範囲内なのかそれとも範囲外なのか。


「お前、こんな行動力あるやつだったんだな。正直俺はお前のこと、見直した。だけどよ、せっかく友達になった戸越をそんな風にしちまうのは、どうかと思うぜ。そんなやかましいやつでも、お前のことすげぇ大事に思ってるみてぇだからよ」

「あんた……一言多いわよ……」

「言い返す元気があるなら、まだ大丈夫そうだな。お前のことも絶対助けてやるから、待ってろ。立川、人質交換といかねぇか? 万一でも戸越のこと落としちまったら、お前も夢見悪いだろ。俺が身代わりになるからよ、好きな様にしていいぜ」


 俺がそう言うと、戸越ははっとした顔をして立川は俺をじっと見ている。

 しかし敢えて目線は合わせない様にしている様だ。


「優木くんは、ダメ。私が煙に巻かれて終わるだけだもん。望ちゃんとなら交換してあげる」

「何だと……?」


 とんでもないことを言い出す立川。

 さすがに戸越も露木も青い顔をしていた。


「お前……その辺にしとけよ、マジで。普段大人しいから、と思ってたけどあんまオイタが過ぎるとさすがに俺も怒るぞ」

「要くん! ダメです、刺激したら……さっき自分でそう言ってたじゃないですか」

「だけど……」


 まさかアホの子に諭されるとは思わなかったが……さすがにこれに関しては俺が悪いとしか言えない。


「私、いいですよ沙紀ちゃん。美理亜ちゃんをこっちに戻してもらえますか?」

「あ、おいお前勝手に……」


 大丈夫です、と呟いて露木は一歩一歩、柵へ近づいていく。

 こいつ、怖いものとかないのか?

 しかし時間をかけすぎれば学校中で騒ぎになりかねない。


 何かあってもすぐ動ける様にと俺も身構えながら、露木の動向を見守ることにした。

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