54:五月十九日~理事会室へ~
「今日は、理事会の本拠地に案内しようか」
「本拠地?」
戸越との壮絶なお家デートの翌日……何があったかは語らないがあちこち痛む体をひきずり、俺とその他の愉快な仲間たちは先輩の後ろについて歩く。
以前、大体の当たりをつけていた俺としては今更という気持ちもなくはないが、理事会として活動するのであれば、俺以外の人間も場所を知っておくのは悪くないだろう。
「ここだ」
まず誰もこないであろう、校舎の中の階段下……ほとんど倉庫みたいになっている場所で、備品と思われる段ボールや体育で使っていたであろうマットが畳まれて置いてあるのが見える。
「……こんなとこ、あったんだ」
戸越が感嘆の声を漏らすのも無理はない。
数々の備品を軽くどかして、その中に現れた一見部屋の明かりのスイッチの様なもの。
「あれ……こう、じゃなくて……」
「先輩、こうじゃないですか?」
普通に触るだけでは辺りの明かりがつくだけ、というのは俺も調べて知っていた。
何故俺がここを嗅ぎ当てることが出来たのか、と言う話になるが、これは旧理事会のメンバーが俺の尾行に気付かないでここを開けたことがあった、というものだ。
「おお」
「あんた、何で知ってるのよ」
「前にな、見たんだよ。間抜けな旧メンバーが開けてるのをな」
こういう人気のない場所は、不良のたまり場になる懸念があると考えたんだろう。
普通にスイッチを触るだけで開いてしまっては意味がない。
「で……何で先輩はそんなに沢山の乾電池を?」
「中から閉める場合のスイッチがな、乾電池式なんだ」
「…………」
何だその手抜き。
いや、万一偶然にでも入ってしまった輩がいたとして……それを知らずに閉じ込められる様なことがあった場合に、そいつを戒める結果には出来るのか?
意味があるとは思えないが。
スイッチをいじり、少しすると床が動きだす。
隙間なく塗られていると思われた塗料が綺麗に裂けて、地下へ降りる階段がその姿を見せた。
「一分ほどで勝手に閉じるからな、入ってしまおう」
俺もまだ中には入ったことなかったが、薄暗いかと思えば割と照明自体はそこそこにともっている為か視界が悪かったりということはない様だ。
「あんた腰大丈夫なの?」
「……お前がそれ言うのか」
「あら、ごめんなさいね。私はこの通りピンピンしてるから」
「…………」
「仲の良いことだな。まぁそう言う話もこの後する予定ではあるが」
するのかよ。
未経験者組だっているんだぞ?
まぁ富岡はまだ学校だろうから、こっちこないと思うけど。
それにしても池野さんはいつでも現れるな。
シフトぶっちしたりしてんじゃないだろうな。
「ここだな。っと……この鍵だったな」
そう言いながら先輩はまたも胸の谷間をごそごそとやって、何やら取り出す。
どうでもいいけど、何でそこから出すの?
今後もそういうキャラで行くつもりなんだろうか。
ていうかこの人……将来ばあちゃんとかになったとき、すごいことになりそうだよな。
おっぱいヌンチャクとか出来る様になりそう。
「何だ、要。言いたいことがあるなら言っていいんだぞ」
「え? あ、いえ」
「あんたさっきから先輩の胸ばっか見てるけど、何でこんなとこで盛ってんの? 密室だぜやった! とか思ってるの?」
「お前は今の俺の状態を見てわからんのか。んな気分になるわけねぇだろ。それより早く開けて入りません?」
そこまで広くない通路、そして空気がこもった空間ということもあり、何となく息苦しさを感じるのは俺だけではない様だ。
「そうですね、少しじめっとした感じもしますし」
「そうだな、開いたぞ。中は一応換気扇やらついてるらしいから、ある程度息苦しさからも解放されるだろう」
先輩がドアを開けて、中に入ると割としっかり作られていることがわかる。
広さで言えば大体、一般的な一軒家の居間よりも少し広いくらいか。
長方形の机に椅子が十二個。
ポットや冷蔵庫、テレビにトイレとここで暮らそうと思えば何とかなるレベルに整えられている。
「あのおっさん、こんなとこにまで金使ってたのか」
「まぁ、そこまで使用頻度が高かったわけではない様だがな。とりあえず適当に座ってくれ」
そう言われて俺たちは思い思いの席に……と思ったのに、何だこの配置。
「……先輩、理事長なんでしょ? そこ座ったらどうですか」
「何だ、嫌なのか」
「そうじゃないですけど、何でみんな俺の周り陣取ろうとするんです? どう考えても無茶でしょ」
「そこはお前、察してやれ。わざわざ言わないとわからないなら……」
「あ、やっぱいいです。さ、話を始めましょう」
何処からか舌打ちが聞こえた気がするが、この際聞こえないことにする。
女の子が舌打ちなんてはしたない真似、するわけないもんな。
俺きっと昨日のこともあって疲れてるんだ。
幻聴だった、そういうことにしとこう。
「では気を取り直して……立川さん、予算はどうだ?」
「大体こんな感じでやっていけば、プールしている分をそこまで消費しなくてもいけそうなんですけど……やっぱりある程度の寄付は必要になるんじゃないかなって」
「ふむ」
立川が作ってきたらしい計画書を受け取り、先輩が眺めてふんふん言っている。
それにしても立川がこんなこと出来るなんて意外過ぎて、見る目が変わってしまいそうだ。
数字大好きっ子だったのか。
まさか俺たちの戦闘力を数値化したりしないだろうな。
「まぁその辺に関してはまだ四月でもあるし、追々考えて行けばいいだろう。立川さん、引き続き頼むぞ」
「わかりました」
やけにあっさりしてんな。
まぁまだ出来ることは限られてるから、とかそういうのもあるんだろうけど。
「じゃ、次だ。今週は富岡さんと池野さんだったか」
「そうだねぇ。最初にお姉さん最後でいいって言ったし、日曜かなぁ」
やっぱその話になるのか。
そしてその目、舌なめずり……どっちもやめてもらいたい。
わざわざ俺に見せてくるとか、恐怖しかないんですが。
「楽しみだなぁ……ねぇ、優木くん」
「は、はぁ……」
いいえ、楽しみではないです。
僕ちゃん素人なので是非ノーマルな感じでお願いしたいです。
そう言えたらどれだけ楽になるだろう。
「どうしたの、優木くん。言いたいことがあったら言っていいんだよ?」
「え、そうですか? じゃあ……」
「やっぱダメ~。当日までのお楽しみ。富岡ちゃんとのデートはどうなるんだろうね」
「いや、本人今いませんし。あとで適当に連絡入れますけど」
面倒だ、本当に。
三週に渡って土日休ませてくれって店長に言った時のあの顔。
青春してるねぇ、とか言われたけど深く追求されなかったのはおそらく池野さんが何やら言ったに違いないが……青春してる、というワードからもう、俺の人間関係がある程度バレてそうな気がする。
「ま、次からはここに集合することにしようか。生徒会室でも良かったんだが、一応池野さんや富岡さんは部外者でもあるのでな。何かあった時に言及されるとこちらもつらい」
それは確かに。
さすがにこんなわかりにくいところまでくるやつはそうそういないだろうし、逆にこっちからしたら好都合だろう。
とは言っても特に話し合いらしい話し合いをしないまま、理事会の会合は終わる。
またちょっと憂鬱な週末を迎えることになり、正直俺としてはそろそろ休ませてほしい、と言ったところなんだが。




