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33:四月二十二日その③

「電話、鳴ってますね」

「ああ……一応、出ないと」


 そう言って俺は、あくまでやんわりと露木の体を押しのけて立ち上がろうとするが、露木は割と力強くそれを阻む。

 こいつ、マジで獲りにきてやがる……。

 

「私は、電話しながらでもいいですよ」

「俺は良くねぇから、とりあえずどけ……」


 何で初っ端からそんなマニアックなことせにゃならんのか。

 初体験の思い出がマニアックなのはちょっと、俺としては遠慮したいし、露木だって後で思い出して死にたくなるかもしれない。

 だから俺は、決してヘタレて逃げているわけではないのだと言っておく。


 そう、これはお互いの為だ。


「いいから、どけって……」

「ダメです、逃がしません。私は今日、キメるって決めてきたんです」

「やめろ、現役女子高生の口からそんな言葉聞きたくねぇ」

「女の子に幻想持ちすぎですよ、優木くん。私がどんな子か、もう知ってるでしょう?」

「…………」


 こんなやりとりをしながらも、まだ携帯は着信し続けている。

 相手が誰なのかもわからないが、なかなか辛抱強い相手だと思う。


「一回終わる頃にはきっと、鳴りやんでますよね」

「バカ野郎、マジで離せ……」


 露木の力ってこんな強かったっけ? そう言いたくなるくらいに、俺への戒めは固い。

 あんな風に堂々と宣言してくるだけあって、露木も本気なのだろう。

 だからと言ってここで流されては今後、こいつにマウントを取られ続ける未来しか見えない。


「わ、わかった。そんなにしたいんだったら俺も男だ、応えないわけにはいかない、そうだな?」

「やっとわかってくれましたか」


 何だよその嬉しそうな顔。

 やめてくれよ、本当に……俺も割と理性が限界ギリギリで、流されない様にするのが精いっぱいだってのに。


「じゃあ、早速……」

「ま、まぁ慌てんなって。夜は長いんだ、電話に出るくらいいいだろ? じゃないと、相手も誰も電話にでんわ、とか寒いこと考えることになるかもしれんし」

「…………」

「…………」


 うん、わかってたよ。

 寒いことを言ったのも考えたのも俺だってことは。

 

「じゃあ私、シャワー浴びてきますから。お風呂、借りますのでその間に済ませてくださいね」


 俺の寒い発言がなかったかの様に、露木は俺からすっと離れる。

 ほっとして油断した瞬間、露木は俺の唇に吸い付き押し倒してきた。


「んんん~~~!!」

「……ぷは。じゃ、行ってきます」


 もうダメ、壊れちゃったらどうしよう、俺……。

 しかし落ち込んでいる間も電話は鳴り続けてうるさいので、面倒だと思いながらも立ち上がって携帯が置いてある場所まで歩く。

 想像はついていたが、画面には渕上先輩の文字が。


 こんだけしつこいとなれば、先輩か戸越くらいだろうとは思っていた。


「……何ですか」

『やっと出たか。お楽しみ中だったか?』

「違いますけど。用件それだけなら、切りますよ」

『ああ、待て待て。一週間と言っていたが、お前の方はいいのか?』

「ああ、あのことなら……別に構わないですよ。そっちこそいいんですか? つっても延長とか認めるつもりないですけど」

『そうか、彼女らは順調に育っているぞ。うかうかしてると、お前も危ないかもしれん。あと、戸越さんから提案が一つあってだな』

「は? この局面で提案って……」


 物凄く嫌な予感がする。

 何しろ提案者が戸越なんて、いい予感がするわけがない。

 

「却下、って言っといてください。聞きたくないんで」

『まぁそう言うなよ。彼女らだって真剣なんだから』


 その真剣がおかしな方向に進む様な連中だから、聞きたくないんだって。

 どうせロクでもないことに決まってる。


『お前が一発でも被弾する様だったら、全員でお前を犯す権利をもらう、だそうだ』

「…………」


 ほらな。

 ロクでもないっていうか、もうそれ犯罪じゃん。

 まぁ露木もついさっき、その犯罪に手を染めようとしてたわけだが。


「他のにしません? 俺、これからもしかしたら露木に手籠めにされるかもしれないんで」

『知ってるぞ。男になってこい。そして、今度私たちをリードしてくれよ』

「嫌ですよ!! ったくバカじゃないんですか、マジで!!」


 乱暴に電話を切って、直後に感じた気配に振り向くとそこには、バスタオル一枚体に巻いただけの露木が立っていた。


「終わりました?」

「お、おう」


 俺の人生がな、終わる気がするよこれから。

 ていうか、俺もシャワー浴びたい。

 そしてあっためた弁当食っとくんだった、と何故かそんなことを思った。


「お、俺もシャワーとか……」

「ダメです。浴びてる間に変な細工するつもりですよね」

「するかよ、そんなん……」

「じゃあ、一回したら浴びて良いですから」


 うあああああもーぉぉぉぉ!!

 誰でもいい!! 

 誰でもいいから、俺を助けろよちくしょうが!!


 俺はこういうの、もっとゆっくりがっつり好きな人とやりたい派なんだよ!!

 って……あれ?

 邪魔する者はいない、ってことはゆっくりできるじゃん。

 

 明日は休み……がっつりできるくね?

 好きな人……好きな人。

 この現状の何が不満なんだ、俺は。


 そう、足りないものがあるとすればそれは……。


「露木、俺、お前のこと……」


 そうだ、これだよ。

 俺はまだ、何も言ってやってない。

 バスタオル一枚にサングラスという意味不明なカッコしてるけど……それでも俺は。


 こいつに伝えなければならないことが……。

 もう一度、勇気を振り絞ってこいつに伝えるんだ。

 意を決して、俺は露木を見る。


 そう、俺たちはこれから、ゼロ距離どころか寧ろマイナスの距離に……。

 なんてくだらないことを考えた瞬間だった。

 けたたましく鳴りまくる玄関のチャイム。


 ビクッとして俺も露木も動きを止める。

 いや、まだ何もしてないんだけどな。

 誰だこんな時間に……そう思って時計を見ると、夜十時近く。


 居留守でも決め込もうか、そう考えた時、玄関の鍵がガチャガチャと開く様な音がする。

 露木が思わず布団を体に巻き付けるのが見えて、俺はすかさず立ち上がる。

 

「鍵なんて……お前持ってたか?」

「合鍵なら、作りましたけど」

「…………」


 っつーことは全員持っててもおかしくないってことか、いつの間に……俺のプライバシーは何処行ったんだよ。

 いや、今はそんな場合じゃない。

 どう考えてもこの状況はまずい。


 鍵が開いて、中へ入ってきたのは……。


「やっぱりいるじゃない。すぐに出なさいよ」

「……何だよお前」


 戸越と、申し訳なさそうに後ろにいる立川だった。

 さて、この状況をどう説明しようか。

 っていうかこいつらもサングラスしてんのかよ、夜なのに。

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