34:四月二十三日その①
「あんたたち、ヤってたでしょ」
「は!? ややややるって何を!? お、俺たちそんなんヤってねぇし!!」
「…………」
「ごめんね優木くん……邪魔したら悪いよって、止めたんだけど」
っていうかこんな時間にJK二人で外出歩いてるとか正気かこいつら。
補導されても俺は知らんぞ。
「じゃあ何で望ちゃんが裸なの?」
「え? お、お前まだ服着てなかったのかよ! シャワーしたらちゃんと服着なさいって言っただろ!? か、風邪ひくからな!!」
「優木、あんた尋常じゃない量の汗かいてるけどどうしたの? やっぱり……」
「ち、ちっげぇし!! まだ何もしてねぇから!」
「まだ、ね。ふぅん?」
何だろう、ここは俺、口を開かない方がいいか?
喋れば喋るほどに墓穴を掘っている気がしてならない。
「優木くん、そんなこと言ってませんでしたよね。それどころか、何か言いかけてませんでしたか?」
「あ、おま!!」
こんの裏切者があああぁぁぁ!!
女子から向けられるジトっとした視線には慣れていたつもりだったが、さすがにこの局面でのこの視線……ちょっと来るものがある。
「そ、それより何でお前ら、こんな時間に……親に怒られるんじゃないか?」
「ん? ちゃんと断ってきたから。今日は友達の家に泊まってきまーす、ってね」
「俺とお前がいつから友達になったんだよ、やめてくれ」
「はぁ!? 友達以上でしょうが!! 文句は言わせないわよ。抜け駆けしようとした望ちゃんもギルティよね」
「ま、待て。マジで何もなかったから。露木は別に悪いことは……」
「いえ、もう少しでお互い大人の階段を……」
「お前もう黙れよ頼むから!!」
こいつ……味方かと思ったのにいきなり敵に寝返るとか。
このままじゃ俺の地位はどんどん危うく……あれ?
何だよ俺の地位って。
別にそんなもん元から地に落ちてるどころか、とっくに地の底レベルだわ。
「や、やっぱりそうだったんだ、ふぅん? べ、別にいいんだけど。私たちも後でおこぼれもらうし」
「勝手に決めんな! っていうかお前らまで泊めるほどうち広くねぇぞ、見ての通り」
「何とでもなるでしょ。それより、望ちゃんに何言うつもりだったのか聞かせなさいよ」
「は? し、知らねぇよ。記憶にねぇな」
「……そんなに目を泳がせながら言っても、説得力皆無ですよ」
こいつら……。
このままじゃ俺の貞操が危うい。
直ちに危険があるレベルだ。
そうだよ、うちってそんなに広くないんだからこいつらがここに泊まるって言うなら……。
「あ、ならお前らこの部屋使ってていいぞ。俺ちょっとネカフェにでも……」
「まぁまぁまぁ、座りなさいよ。今夜は寝かせないから。明日休みだし問題ないわよね」
「あるよ!! 超あるから問題!! た、立川まで、離せ!! 露木、助けろよ!!」
「私としては優木くんがいなくなってしまっては困りますので」
「家主不在で、好き勝手にはできないかな、私も」
「好き勝手にしていいって言ってんだろ!! 離せよもおおおおお!!」
そして翌日。
「へぇ、それで優木くんはもう大人に?」
「……いえ。一応それだけは回避しました」
休みの日は基本的にバイトを入れている俺は、バイト先であるコンビニで仕事に精を出していた。
決して昨夜複数の女を相手に違う意味で精を出していた、などという事実はない。
「天国じゃん、何でやっちゃわなかったの?」
「…………」
三個上のお姉さんである、池野さん。
女性ってみんなこういう話好きなのかなって思う。
だって超目がギラギラしてるし。
何でこんな話をしてるかというと、俺は戸越の宣言通り一睡もできないままでここへやってきた。
クマだらけの俺の顔を見て、池野さんに問い詰められて自白させられた、というのが一連の流れではあるのだが、普段ならこんなの口を割ったりしない俺が何故、というのはきっと寝不足だからなのだろうと思われる。
『ま、待てよ慌てんな。全部終わったらお前ら全員、まとめて相手してやんぜ』
その場しのぎでもあるこの一言が、結果として俺の貞操を守ったのは言うまでもないが、あいつらはおそらく本気にしている。
何であんなこと言っちゃったんだろ。
「きっとその子たち、優木くんを待ってると思うけどな」
「そうかもしれないですけど……いい加減にしちゃうのも、ねぇ?」
ああ言ってしまった以上、あいつらは俺を逃がすつもりなど微塵もないのだろう。
また引っ越す算段でもした方がいいかな。
「でも優木くん、よっぽどその子たちが大事なんだねぇ。男からしたらきっと、爆発しろくらいに思われる話だと思うよ」
「……でしょうね」
大事に……いや、まぁ否定はしないけど。
何だろう、多分俺があいつらの誘いに応じないのはきっと、目的がまだ達せられていないから。
今からそんな調子じゃ、この怒りが霧散して風化してってなってしまいそうだから。
見過ごせばきっと、連中は好き勝手なことを繰り返す。
ここらで終わりにしておかねば、という思いがあるからなんだと思う。
「じゃ、お疲れさまでした」
バイトの終わり時間、昼過ぎになって廃棄の弁当をくれると言うので、遠慮なく二食分程度失敬して店を出る。
元々そんなに食べる方ではないし、これで事足りるはずだ。
……あいつらが来なければな。
まぁ来るとは言ってなかったし、とは言ってもあいつら鍵持ってるから来ようと思えばいつでも来られるんだよな。
だけどさすがに昨夜寝てないのは堪えるのか、欠伸が出る。
周りがスロウ過ぎるから、とかそういう理由でなく。
「やっ、お疲れ」
家までの道のりを歩いていると、横からいきなり声をかけられて一瞬飛び上がりそうになったが、池野さんであることはすぐにわかった。
俺と同じ様にもらった廃棄を袋に入れて、持ってきた様だ。
「ああ、どうもお疲れ様です。池野さん、こっちでしたっけ?」
「ううん、逆」
「へぇ、何かこっちに用事でも?」
俺がそう言うと、池野さんはニタァと笑って……って表現が悪いかもしれないが、口が裂けんばかりに横に開いて笑ったこの表情を表現するならこれだろうと思う。
「うん、優木くんの家まで一緒に行こうと思って」
「……はい?」
「お姉さんが、沢山の彼女たちの前で恥をかかない様に手ほどきしてあげようと思って」
「ちょっと待ってください、池野さん彼氏持ちじゃありませんでした?」
「うん、一昨日別れたから」
「…………」
見た目悪いわけじゃないし、特に振られそうに見えないから、おそらくは池野さんが振ったんだろう。
そう思って目を見ると、案の定池野さんが振った様だ。
DV的なものを受けたとかそういうのではなく、単に元カレが物足りない、という理由で。
そして余計なものまで見てしまった、と思ったがもう遅い。
この人、とんでもないサディストだ。
「お、俺……痛いのとかちょっと嫌なんですけど」
「あれ? 私Sだなんて言ったっけ?」
「…………」
どうしよう、つい口をついて出てしまったが、物凄く不思議そうな顔してる。
ここはあれだよな、うん、あれしかない。
「ちょ、ちょっと急いでるので!!」
叫ぶなり俺はダッシュして路地から路地へと渡り歩く。
三十六計逃げるに如かずと言う昔の偉い人の言葉もあるんだ、俺は悪くない。
昼間のやや日差しが強い通りから日光を避ける様に、俺は走り続けた。




