打ち開け話 1
大きな粉問屋の跡継ぎだったカペルの父親には弟がいた。
粉挽き屋の次男、カペルのおじは頭の切れる男だった。
新しい水車を考案し、新しい仕組みを考案して提案して回ったが誰も取り合わない。
大きな屋敷の窓からは海が一面に見渡せた。
カペルにとっては水車や川よりも浜辺の白い砂を打つ波との遊びの方がずっと面白かった。
黒い痕をつける穴から出る小蟹を追う。
はっきりと覚えている。
男が浜辺に膝をかかえて座っている。ひとりきりのおじだった。
「大丈夫?どうしたの?」
声をかけると暗いよどんだ顔をこちらに向けた。
手が伸びてきてカペルはおびえたが、おじは頭を撫でて去っていっただけだった。
顔色と裏腹に、大きな手は奇妙にあたたかかった。
おじは夜逃げ同然で村を出たのだとカペルは後で知った。
カペルの父の時代になって、事業は目に見えて傾きはじめていた。
甘やかされた坊ちゃん育ち、学校でも評判が悪くていい友人はいない。カペルは悟った。下支えしてたのは次男のおじだったのだ。
次男は突然、戻ってきた。
どこで何をしていたのか成功していて、土地も倉庫も次々買い上げ新水車が立ち並ぶ。
十三歳のカペルは死んだ父の棺が家から運び出されていくのをじっと見ていた。
「お前は来なくていい。ここで待ってなさい」
母はそう言って葬儀人について部屋を出て行った。
狭い部屋だ。屋敷を追われてから引越しに引越しを重ね、今はもう古い間貸しの一部屋に住んでいる。
父が寒い夜に道に転がって動かなくなっていても、母は顔色一つ変えない。
これからどうすればいいだろう。
カペルにはわかっていた。学校はやめ、働かねばならないだろう。だが仕方がない。
扉に、おじが立っていた。
カペルの真正面に来るとたずねる。
「おれをうらんでるか、悲しいか」
カペルは答えた。
「ぜんぜん」
母が殴られることももうないし、怒鳴り声にびくびくすることもない。
「お前、一緒においで」
おじは手を差し出した。
「養子に入ってから、おじの…次男の気持ちっていうのがわかった。おれはそこの長男と折り合い悪くてね。それでなくとも年上の弟ってのは微妙だろ」
居心地が悪く、カペルはおじの反対を押し切って兵役についた。
金と教育のおかげで下士官になれる。一平卒に比べれば、安全だ。
その安全が嫌だった。
「若くてバカだったから」
「太子さまが兄上と争われたときのことですのね?」
「本当に偶然なんだ。一番危険な場所に太子がいるなんて思わないだろ?」
「あのかた、向こう見ずなところがありますもの…」
トゥアナは真剣に聞いていたが、首をかしげてたずねた。
「今は、お母様は?」
「結婚するんだってさ」
「どなたと?」
「おじさんと、おれの母親。知らせが届いた」
まあ!とトゥアナは心底驚いたように口に手をあてた。




