翌朝 3
「こっちですわ」
高所にあるラベル地区の朝は寒い。足の下では霜がざくざく音を立てて崩れた。トゥアナは薄い質素な羽織物を羽織っていた。カペルは一兵卒の服装でいる。裏庭の小さな木戸を開けながらトゥアナが説明する。
「侍女の服を借りましたの。政務室にひきこもってることになってますわ」
木戸が開いた。
「さ、参りましょ!」
あーなんか可愛い。
後ろからついていきながらカペルは夢心地で考えた。
侍女の服がどうのとかってより、このいたずらっぽい満面の笑顔が可愛い。
ウキウキしてる風が可愛い。
街の入り口まで来ると、トゥアナが一瞬ためらった。
「行こう」
不器用にカペルが肘をつきだすと、彼女はにっこりして優雅に自然に腕を入れてきた
あたたかさがより一層幸福感を膨らませて胸が熱くなる。
おれといて楽しいって顔をしてくれるのが可愛い!
街は既ににぎやかで、早朝にも寒さにも慣れていると見えた。
歩きながらトゥアナが言う。
「公爵家と言っても、家柄は確かに古いけど基本貧乏ですの。田舎なの。手が足りなくて妹たちにも家事をやらせてるから、双子なんて街が大好きよ。領民を一番よく知っているのはあの子たちなんじゃないかしら。あら!パン屋ですわ。あんなにぎっしり。人も沢山いるのね」
カペルが小銭で焼きたてのパンを買ってやると、上品に両手で持って端を噛んだ。
「双子が教えてくれる街についてのおしゃべりも楽しかったけどわたくし、こういうのがしたかったんですわ」
荒っぽい音がしてガラガラと荷馬車が横付けされる。
屈強な男たちが袋をいくつも運ぶと、白い煙が上がってカペルはトゥアナを風上によけた。
「粉屋の配達だね」
彼女よりも、侍女たち、兵士たちの視線がない場所で一緒にいられるのが嬉しい。この天然なのか策士なのかさっぱりわからない公女だけがずっと、一番彼に近い場所にいるような気がする。
「俺ね、聞いてると思うけど粉挽き屋の息子だって」
トゥアナはもぐもぐしていた口を押さえて飲み込んでから答えた。
「粉屋さんでしたの?」
「うん、まあね。正確には粉挽きをまとめる問屋だったんだけど」
「どんなことをなさるの?」
「その地域の粉をうちの倉庫に入れて各地に輸送する。もうけは7対3でうちが取る。ぼろい商売と思うかもしれないが、大きな倉庫を維持するのは金がかかるしたくさんの人も雇わなきゃならない…」
恥ずかしくなってカペルは途中で止めた。
「どうなさったの?」
「こんな話、面白くないんじゃないかと思って」
「いいえ、面白いわ!続けてくださる?」
くるくる変わる表情が、真面目になるときゅっと唇を結ぶ。
「おやじは長男で跡取り、おれも長男だったんだよ」
当たり前だが家長権があるから次男三男は兵役に付くかどこかの養子に入る。選択肢はそれほどない。女は嫁に来たがらないし、兵役でずっと戦ってきたのがサウォークで教会に帰依したのがロトだ。
じゃあ、なぜ?と言うかわりにキラキラした目でトゥアナはこちらを見つめている。




