角突き合い 2
太子は周囲を見渡す。
「何?みんな暗い顔?」
ロトは立ち上がって太子の方に向かう。
サウォークが帰って来ない。ロトは太子に負けずとイライラしながら待っていたが仕方がない。
太子はしゃべり続けていた。
顔は真っ赤で目は垂れ下がっている。相当に酔っているのは間違いない。
「トゥアナには都からはずれたところに離宮を作ってあげる!どんなのが好きかな?」
ベルガの美しい顔はそれまで白かったのに、むぅうっとみるみる赤くなった。
怒りを抑えているようだ。
「太子さま、そろそろ…」
ロトに支えられ、太子は立ち上がった。
よろよろ歩きで退出しながら大声でベルガの方に叫ぶ。
「トゥアナと一緒に狩りに行って~それから~!あんなことやこんなことを~!!」
「太子さま!しっかりなさって下さい」
ベルガの様子がおかしいことに、周囲も気付いていた。
市長が横からおそるおそる声をかける。
「あの、大丈夫ですか?」
「問題ない!」
白髪頭のワベアが話しかけるなと言わんばかりにおしのけた。
市長はむっとする。しかしベルガの顔を見て、驚いた顔をした。
人の顔色が緑になるというのをはじめて見た、と思う。
緑色になったそのあとは青くなったり赤くなったりと顔色が変わる。気配が険悪になって行く。
「カペルはトゥアナがいいんだねー。トゥアナが好きなんだって!もう一夜だって過ごしちゃったんでしょ?」
「カペルは名誉にかけて何もしてないとわたしに誓った!!!」
「またまた~、そんなの信じてるわけじゃないよね?」
だん!!!!!
すごい音がした。
太子が立ち止まって振り返る。
ベルガは立ち上がっていて、椅子は後ろにひっくり返っている。
杯は机に叩きつけられてちょっとひしゃげていた。
「彼は嘘を言うような人間ではない!それに、ゲスな話を軽口を叩いて侮辱するような人間でもない!!」
曲がってしまった杯を床に思いっきり投げつけた。鉄製なので割れはしない。
じゅうたんにへこみがついただけだ。
太子に投げつけなかっただけましだった、とロトは考える。
ベルガは盃を捨てたので空いた手で太子を思いっきり指さした。
「だがもしだ。彼がトゥアナを都に伴うことが、二人を王宮で苦しませるためだと言うなら、わたしはトゥアナを絶対に渡さない!!」
皆、口をあんぐり開けていた。
末席のアギーレでさえ、口を開けたまま肉を手に持って静止している。
太子が指をゆっくりあげるのをロトは見た。
今度は太子がベルガを指で指した。
「それだよ。それ」
「何!?」
「それをやったの。エグルは」
太子は力が入らないながらも、陰にこもった燃えるような目をしている。捨て台詞を吐いた。
「気をつけなよ、モントルー。それが君らの命取りになるよ」
退出した後もベルガは椅子をひっくり返して机に手をついたまま、そのまま動かなかった。




