角突き合い 1
「今までは、太子さまに適当に話を合わせるのも、そこまで抵抗がなかったわ」
トゥアナはカペルの胸にもたれていた。
「あのかたのあの調子は昔からなれてます」
カペルは彼女の肩を抱いて頭をゆっくり撫でていた。
ぎゅっとしがみついた腕を少しだけ緩くして、トゥアナはつぶやく。
「小さい頃はよく遊びに来て、楽しいことを言って笑わせてくれたわ。手をつないで廊下を歩くと、すれちがうみんな頭を下げるし、あの方は胸を張ってかっこよくて、面白くて…」
(ん?んん~?)
カペルは眉を寄せる。
(太子のこと??)
「今日はいやでした」
「話を…太子に合わせるのが?」
「とてもいや」
トゥアナは鼻をすすって繰り返した。
「あなたに幻滅されるのがいやでしたの」
ベルガはもうかなり何度も杯を傾けていた。
ギアズが嫌がって寄り付かないので、侍従たちもベルガや並んだモントルーの配下たちを遠巻きにして話しかけずにいる。
ほったらかされて、好き放題に提供されるがままに酒をどんどん飲み干していた。
「ほどほどにしろよ、ワベア」
「このくらい!ばかにするな、わしとてまだまだいけるわ!」
白髪頭の側近は飲めば飲むほど真っ赤になっていたが、ベルガの顔色は変わっていない。
顔は白くなっていてぱっちりとした目のふちだけが赤い。
まつげが長くて鼻筋が通っている。唇は濡れたようになっていた。
入口に人だかりができている。みんな女たちだった。
中をのぞきくすくす笑いをしている。誰もがお酒をつぎに行きたがった。
自分でカペルをそそのかしたくせに、なんだか面白くない顔をしている太子は庭の方をちらちら眺めている。
まだ二人は戻らない。
「でもまあ、ソミュール地区はカペルがおさめるにはちょうどいいっしょ。伯爵になったら忙しいし、荒れてる領地をなんとかしてもらって…」
「………」
「ほら、そっちの戦いもあるでしょ大変なんだよね」
「………」
「助け合ってね、うまくやれるやれる。きみたち、まぶだちだから!」
何を言われてもベルガはだまって酒を飲み続けているだけだった。
太子はイライラしてつい声が大きくなる。
「トゥアナはあの爆弾娘のアウナちゃんが心配だろうから、都で一緒に暮らすことになる。ロージンはいつもぼくの所に入り浸ってるし、これですべて丸く収まるね!大円団間違いなしでしょ?」
杯を置いて太子は主張した。
「トゥアナはね、都が似合ってるの。骨の髄まで都の人間なの」
「違う」
「あの子が輝くのは王宮のサロンでなの!」
「そんなことはない」
「わがままも率直さも笑顔もおこりんぼも軽妙な会話も、みーんな、宮廷でこそ花開くの」
ベルガが短く否定するほかはシーンとして、あえて太子の相手をする者がいない状況をロトは少し離れた所からはらはらしながら見守っている。
立ち上がるタイミングをはかりかねていた。




