塩と夕食 3
「鍛冶屋はこっち。裏手だよ!」
「ねえおじさん、聞いてるの!?」
サウォークは心底行きたくなかった。
せっかくのあたたかい食事を取って体もあたたまり、美人に自家製のワインを頂いていい気持ちで眠くなっていたので、あの重たい箱をかつぐのは気が乗らなかった。
「ちょっと、いつまで食べてるつもりなの!」
「なあ、どうせあっちも盗品なんだからバレてもいんじゃね?」
「他人事だと思ってテキトーなこと言わないで!動け!」
「明日になったら朝イチで兵士を護衛にやらせるからさあ~(ロトに何て言えばいいんかなあ…ちくしょう、頭が回んねえ)」
双子が取り付いて、後ろ髪を引っ張ったりこぶしで殴ったりする。
オノエは、服の分厚い所ではあったが腕に歯まで立てた。
「いて、いててっ!お前らこうなるともう小悪魔みたいだな」
「何よそれ?知らないよ!」
「知らなくていい。もう水がかかっちゃってる」
「わけわかんないこと言わないで!早く!」
仕方なくかついで裏手に回る。
そこは小さな鍛冶場だった。
「ほーこんなとこに」
家々に囲まれて全く見えない。
「万が一鍛冶になったら周りの家は燃えちゃうけど、秘密に出来るしすぐ頼めるから便利なのよ」
「この剣はその子が打ったの。すごくない?」
サウォークは驚いた。ずいぶんいい剣を持っているなとは思っていたが、城の良品なのかと思っていた。街の鍛冶屋が鍛えたにしては考えられないような一品だ。
「おじいちゃん!デリアいる?鍛冶場借りるよ!」
「悪ガキどもが、来たね」
でかっ!
自分のことを棚に上げてサウォークは驚いた。
鍛冶場にはずいぶんよぼよぼのおじいがふいごをふいており、女性が一人ハンマーを握っている。
あまりに大きいので最初は女性だと気づかなかったほどだ。
腕などその太さたるや、丸太ほどはあった。
「デリア、いた!」
「これ見て、これ!」
双子たちが周囲にとりついても、サウォークほど右往左往するわけでもなく、うるさそうに体をふると簡単に二人は振り落とされた。
(胸が厚くなってるのもこれは乳がでかいだけってわけじゃなさそうだ)
鍛冶屋の女は箱にかがみこんで調べている。
後ろからのぞきつつ、ニマウが言った。
「これを開けたいの」
女性は箱のふちをなで、鍵穴に触れる。
そっと撫でる指の動きは思わぬ繊細さがあった。
立ち上がる。
「これね、ちょっと時間がかかるよ」
「えーすぐできないの?」
「ちょちょっとその火かき棒を鍵穴に…」
「そんなことしたら鍵穴が溶けちゃっていっそう開かなくなるよ!ばか」
「ええ~」
ウヌワどころか、ロト並に容赦がない。
サウォークはこの二人のお転婆具合がどういう風に醸成されたかわかる気がした。
「ウヌワにバレないのは無理か…」
双子は心底がっかりした顔をした。
この足も速ければ腕の立つ双子にも、よほどあの次女は恐れられているらしい。
「ほんじゃこいつはここに置いといて、あの倉庫と倉庫の管理者にゃ兵士を探しにやらせるよ。ちっとは目くらましにはなるだろ」
双子はサウォークの周囲に取り付いた。
「軍には言わないって!言わないって約束して!」
「あの鉄棒みたいな甘党おじさんにも」
「ねえ!言わないで!ねえ!」
双子はまたサウォークの周囲をぐるぐる回り、巨体に取り付いた。
「わかったわかった。言わねえから。開けるときゃ俺に内緒でやるなよ。規律を正して警備も強化してやらぁ」
婦人に挨拶をして出る時に、サウォークは双子に聞えないように何気ない風を装って聞いた。
「あのう~。おくさま、ちょっとお聞きしたいんですけどね」
「はい、なんですか?」
サウォークの気の良い顔と、あけっぴろげな様子に、婦人も警戒はとけ、もう今はずいぶん心を許していた。
「塩を扱ってるのはどの業者ですか」
「塩の仲買人は小ギアズですわ。この周辺一体を仕切ってます」
「?ギアズ?小?城の侍従じゃなくて?」
「お兄さまが侍従をやってるの。だからえらいわ。威張ってますよ」
サウォークは動揺を隠してひげをなでた。
(ギアズの…弟か!!)




