騒動の中で 3
宴席の入り口でお辞儀をして現れたのはウヌワだった。
「失礼致します」
皆がアウナの前であっけに取られて口を開けている所にしずしず現れる。
いつもの袖を捲り上げたおかみさんのような格好とは違い、きちんと貴族風のドレスを着飾っている。
銀色の髪が美しく、落ち着いているので優雅に見えた。
後ろには赤ん坊を抱いたセレステがまるで随身のように立っている。
ロトは唇を拳で押さえて用心深く様子を伺っていたが、今はセレステの容貌の美しさより、着飾り白髪頭を結い上げたウヌワの方が堂々として人目を引いている。
ウヌワは男の格好をしたアウナのそばに歩み寄り、思いっきり右頬をひっぱたいた。
「あなたのような年のこどもが目上の人に生意気な口をくことは許されていません」
アウナが眉を逆立て、口を開いて何か言おうとする前に、ウヌワは激しい勢いで今度は左頬をひっぱたいた。
「双子ならいざ知らず、いい年齢を超えた娘が男のような格好をすることは許されていません」
無言でアウナは唇をぬぐう。唇が切れて血が流れていた。
ウヌワの叱責は終わらない。
「まだまだあります。勝手に保護者の手元を離れて城を出た。兵隊の間を平気な顔でうろつきまわった。叱られて当然でしょう。アウナ。自分の部屋に戻りなさい!あなたは嫁入り前の大事な体なんですから」
後ろを向かずにウヌワは要求した。
「鞭を」
セレステが渡す。顔色は真っ青で能面のように動かない。
なぜそこまでウヌワに従うのかロトは訝しむ。
宴席に集う地域の男たちをちらっと伺うが、皆セレステと同じ能面のような顔をしている。さも当然とばかりにうなずいている者もいた。
太子は鼻白んだ顔をしている。
アウナは真っ青になっていたが、ぎゅっと口を結んで動かない。
ウヌワが鞭を振り上げた。
腕が動かない。
「このっ…このっ…えっ?」
ウヌワは気付かなかったが、カペルが途中で席を立ち上がって歩み寄り、後ろから手を掴んでいた。
「やりすぎ」
「離しなさい!これは我々のしきたり…」
カペルは黙って鞭を取り上げるとウヌワを離し、目の前で膝を使い鞭を真っ二つにへし折った。
「やりすぎだっつってんだろ!それに兵士の姿してベルガの側についていたいって、いいって言ったのはおれだ。女の子が男の恰好しちゃいけないって事なんてないから!」
ベルガがゆっくり立ち上がって入口の方を指さす。
「もういい。連れて行きなさい」
「わたくしの部屋にお願いします」
完全に固まっていたトゥアナがかろうじて小さな声で言った。




