思惑 2
トゥアナが立ったまま、ロトと同じようにそれを眺めている。
ぽつりともらすように言った。
「執務室に籠りきりにしていて申し訳ございませんでした」
ウヌワが双子の耳をまとめて片手でひっつかみ、子供を抱えてガミガミ言うさまを二人で眺めていた。
「だめ!」
「少しはいいでしょ姉さん」
「だめ!食事は5時からです。片付けもやって!!」
ロトは苦笑した。
「ギアズ殿も大変ですね。奥方があれでは」
「でも、あの二人はとてもうまくいってるのよ」
トゥアナは長いまつげの目をちらっとこちらに向ける。
「ウヌワは決して私利私欲だとか、権力欲があってあのように振る舞っているのではありませんわ。彼女は心から正しいと思うことをしているだけなのです」
「それは、何となくわかります」
文箱はどこを探しても見つからない。
こちらが知りえないほど上手に隠された隠し部屋か、城下に持ち出されたと見るのが正しいだろう。
それを指示しているのはおそらくこの姫──。
トゥアナはは気付きもしないような顔で、ロトと共に執務室へつながる階段を昇りながら話し続けた。
「ウヌワが信じる自治法の上にも、わが国の大法典がありますでしょ。しかも、陛下の仰ったことは絶対でしょ。何でもころころ変わっちゃうのよ」
「不敬なことを仰る。だが事実です」
「あの子には理解できないのよ。絶対なのはしきたりなんですわ。くつがえせない神の規範なの」
ベルガを後継にするとしても、文箱と印章はどうしても必要だ。
この姫はわかっていてはぐらかしいるに違いない。
ベルガが到着し、すべてが収まるところに落ち着くまで。
だしぬけにロトはトゥアナの目を真正面から鋭く見つめて問いただした。
「あなたの利害は何ですか?」
本当にロトが言いたかったのはこうだった。
カペルをたぶらかしてどうしようと言うのですか?何を狙っているのです?
トゥアナはきっとした顔になった。
「利害など関係ありませんわ。これ以上血を流したくないだけです。全員が納得できる方法なんてありえないことはわかっています」
だがカペルは…とロトは言いたい。
死ってか知らずか長女はきっぱりと宣言した。
「だから私は独立派を押さえつけ、彼女の敵になるのです」
もう一度ロトは畳み掛けた。
「覚悟はご立派ですが、あなたのお望みはどうなることなのですか」
「わたしに関して望みなんてとうにありませんわ。ただ…そうね。自由?」
ロトは少し驚いた顔をした。
「自由には責任が伴います。女性には危険も伴う」
「わかっていますわ。だからわたくし、思うのよ。戦って死んだお父様は正しかったんじゃないかって。もう、だれにも縛られることはないんですもの」




