対面 3
幕屋に入って最初に目についたのは、若者といかつい顔の老人の二人組だった。
二人とも豪華な鎧をまとい、胸にはたくさんの勲章を付けている。
目を引いたのは老人の隣に控えている若者の方で、一人だけ雰囲気が違う。
ごつごつとした雰囲気の山岳地帯の民とは違って、いかにも貴公子といった風情の鼻筋の通った美青年だった。
「こちらがベルガ・モントルー公爵です」
カペルが前に進みでて、老人に向かおうとすると、若者が立ち上がり、手を差し出した。
「私がベルガだ。あなたが太子の代理、エラベット司令官か?」
「公爵、こちらが…」
カペルは手を差し出した若者の手を取らなかった。
宙を浮いた手の行き場なく、若者は仕方なく手を振ってもとに戻した。
カペルは穴があくほど相手の顔を凝視していたが、くるっと振り返った。
「いや、話が違うだろ。まさかこいつじゃないよね?」
サウォークはあんまりびっくりしたので、制することが出来なかった。
モントルーの一党もざわついて、老人と背後の兵士が険しい顔で囁きを交わした。不穏な空気が漂う。
「いやいやいや、ないないない」
「カペル!?」
(ベルガはおじいさまの弟なの、でも父より若いのよ)
「若すぎだろ!ほとんど俺と年変わんないじゃん。じいちゃんの弟ってことは、ひいおじいちゃんの息子なんだぞ。おじいちゃんならともかく、曾、だぞ。ひい!!」
「おいカペル!ぶ…」
「貴様、いくら太子の代理とは言え、無礼だぞ!」
ベルガの背後に控えていた配下たちが血相を変えて前に飛び出して来た。サウォークは何だかどっかでみたようなシチュエーションだなあと思う。
あれは公女の侍女たちじゃなかったっけ?
(はぁ~)
天を仰いで目を覆う。ロトと換わっていればよかったと、心から後悔した。
(あー、あいつ今ごろ、あのきれいなおねえちゃんのいる城でのんびりやってるんだろうなあ)
アギーレは何かあればと、油断なく周囲に目を配っている。
ベルガはいらいらしたように、体を動かした。
「わたしが若すぎると言いたいのか?」
「若すぎるっつうか、びっくりしてるの。何、あんた何?トゥアナに似てるって?ああ、確かに似てるよ」
カペルはまじまじとベルガの顔を覗き、青年は当惑の体でカペルの顔を見返した。
「おれ、こんなイケメン見たことねーわ」
ずっと固い表情だったベルガの頬がわずかに緩んだ。
「ちょっと、ちょっと」
逃避していたサウォークが、さすがに我に帰って二人の間に割って入った。
「あの~ちょっとだけ待っててもらえますか、うちのが取り乱しちゃってるみたいなんで。五分、五分だけもらえますか。建て直しますんで」
サウォークは茫然として人事不省になっているカペルを引っ張っていく。
老人は憤懣やるかたない顔つきでいたが、ベルガ本人が割と落ち着いた様子なので、座ったままいらいらと足を動かした。
お互い、幕の端っこに固まった。アギーレはまだ警戒を緩めていない。
「何なんだよあれは。反則じゃねえか。勝てる気しねえわ」
「一体、何の勝負してんだよ!目を覚ませ!おいカペル、戻ってこい!」
サウォークはカペルの首を掴んで揺すぶった。
カペルはまるで聞いていない。
「あいつ絶対、絶対、トゥアナ狙いだし。間違いない。直感でわかる」
「落ち着け、考えすぎだって」
「髪の毛も両方栗色で似てるし、目の色もそっくり同じ。あんな美男美女、仲良くお隣同士並べて見てみろよ、夫婦だろ、夫婦!」
「カペル、しっかりしろ!元気を出せ」
サウォークはやけっぱちで少ない脳みそ(byロト)をフル回転させた。
ロトがいないのならば、自分が何とかやるしかない。
「大丈夫、いいか?おまえ…おまえも…いけてるぞ!」付け加えた。「…わりと」
「わりとかよ!」
「おまえは…えーと、あんな背は高くないけど、中肉中背で!ちょうどいい。イケメンじゃないけど」
アギーレが体の向きはそのままに、ちょっと顔を傾けてしかめっ面を見せる。
「肩幅あって、頼もしい!そう、おまえは!雰囲気!雰囲気イケメン!トータルで勝負!」
「上げてんだか下げてんだかどっちかにしろよ!」
アギーレがまた後ろを向いて怒鳴った。
「全部聞こえてるよ!声でけぇんだよ!バカ!」
鈴の音のような若い女の笑い声が聞こえて、皆がそっちを向いた。
幕屋の入口にアウナが姿をみせ、こらえきれずに、体を折って笑っている。
敵意が消え、場はわずかに和んでいた。




