手紙 2
三女の給仕と手伝いで腹ごしらえをすませ、カペルは手早く身なりを整えた。
こんなとき男は楽だ。
トゥアナはまだ手紙に封をしたり包んだり忙しくしていた。
セレステと呼ばれた三女は、鼻筋が通って黒目がとびきり大きく、細目の顎のラインも膨らんだ唇も申し分ない。
外見の艶かしさとは裏腹に、気さくで明るい気配なので緊張しない。
「では、行ってくる。それで」
長女は枝を胸に挿している。
駄目そうだから今日はあきらめよう、と思っていたが足が止まった。
この鈍いのか食わせ者なのか分からない彼女に、まずは少しでも意識してもらわなきゃ。
「あの~…」
「何ですの?」
「そのぅ…」
肩をすくめてセレステが言った。
「席をはずそうか?」
「いや、いい」
腹を決めた。
誰が見ていようとかまうものか。こういうのは勢いだ。
(キスしたい)
玉砕したらしたでも、さすがに意識はするだろう。
いきなりキスさせて欲しいと言われれば、まあ、九十九パーセント答えはこうだ。
「それはちょっと…」
もし、一パーセントの賭けで唇を出してくれたら、その時はあの頬にする。額でもいい。
(名付けて、唇にキスすると思ったらほっぺにちゅーでかえって意識させる作戦!)
色っぽい美人は面白そうに、カペルとトゥアナの顔を交互に見ている。
「頼みがある。一回だけ、えーと、その…き…き」。
今しかない。
さっきは雰囲気が良かった。
まだ甘い空気を彼女も自分も引きずっている気がする。
この娘とはどこか何かがつながっている、心が触れ合う時があると思う。
あれが幻覚なのか確かめたい。
「どうか、キスを許して頂きたい。いち…一度だけ」
緊張が凄かった。
汗が背中を流れて落ちている音が聞こえそうだ。
当の本人はきょとんとしてわずかに首をかしげたが、屈託なくにっこり笑う。
その笑顔の意味がわからない。
「ええ、どうぞ」
長女は手袋を取って手を差し出した。
「!?」
膝から崩れ落ちる脱力感に見舞われたのをかろうじて支えた。
(そう来たか~)
仕方ない。
見よう見真似の作法に則って押しいただき、カペルは手の甲に唇を押し当てた。
たぶん、作法より少しだけ長かった。
滑らかで細い感触を名残惜しく手離すと、カペルは顔を上げた。
「!?」
彼女の頬が、耳から首まで真っ赤に染まっている。
あきれたような顔で、セレステが腕を組んで上から下まで姉を見ている。
くしゃくしゃの髪としわだらけの服、それに真っ赤になっている長女を凝視するうちに、若い指揮官の満面に笑みが浮かんだ。
立ち上がるとぎゅっと肩を掴み、唇に思い切り唇を押し当てた。
元気良く飛び出していく。
トゥアナは額を押さえて椅子によりかかった。
「大丈夫?」
「眠いの」
「あんたたち、ほんとにどっちもどっちだわ。だってソミュールは…」
トゥアナははっとした様子でセレステを見た。
妹は美しい顔を少し歪めて、皮肉な調子で言い残した。
「あたし、姉さんのそういう清純ぶった所、大嫌いよ」




