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鈴木さんと佐藤くん  作者: 鈴城楓@通行人A
3/3

3. 鈴木さんと佐藤くん

 私が佐藤青透に消しゴムを貸したあの日から早一週間。

 それ以降、大して関わりを持たないかと思われた私達だったのだが。


「ごめん、鈴木さん!今度はシャーペンがなくなっちゃった!!また貸してくれない?」


 …ヤツの方がしっかりしていない為、どれだけ拒否しても関わりを持たなくてはならない日々を過ごしています。



▽ロード中です。電源を切らずそのままお待ちください▽

⇒ロードが完了しました。





 鈴木(わたし)佐藤(ヤツ)は同じ「さ行」であるため、出席番号順に指定された席では必然的に席が近くなる。というか私の目の前だ。


 それは私達の通う学校が出席番号の早い人が左隣、その次の人が右隣、更に次が一番早い人の後ろという風になっているからなのだが。


 隣じゃなくて心底良かった。佐藤と鈴木の間に杉山さんがいて本当に助かった。もし彼女が居なかったらと考えると恐ろしい。

 きっと授業中だというのに変なちょっかいをかけられたりして、私まで成績が下がるだろう。


「あ、鈴木さん下敷き使って書いてるんだー。真面目だね」

「どーも。それより佐藤くん、よく忘れ物するみたいだけど大丈夫?1年生だからって気抜いてたら後で後悔するよ」


 そう嫌味混じりに言ってみれば、彼はニコッと口許を上げ「大丈夫、大丈夫」と根拠のないことを宣った。



「俺、提出物出し忘れた事ないから」

「え?シャーペンとか消しゴムをほぼ毎日私に借りてるのに?」

「ご、ごめん。でもそれは俺のせいじゃないし!ちゃんと持って来てる筈なのに無くなってるんだよ!!」


 何だその言い訳、今日締め切りの宿題を忘れてそれを怒る先生に意見する小学生か。

 一瞬そんな事を思った私だったが、彼の顔を見て思い出した。そう佐藤青透はいわゆるイケメンというやつだ。

 「ただしイケメンに限る」という言葉通り壁ドンをしても何の罪に囚われない、むしろ世の夢見る女の子達に喜ばれる存在だ。


 身近にイケメンがいて、そのイケメンに恋しちゃって、思わずといった感じで突発的にイケメンの私物を奪うなんていう窃盗事件も佐藤青透くらいの顔立ちであれば有り得ない話でもない。


 イケメンはイケメンならではの悩みがあるのだ。

 平凡な顔立ちをしている私なんかには想像もつかないような悩みが。


 そう考えたら彼にシャーペンを貸すくらい良いだろうという気になってきた。いや、むしろ大変光栄なことなのかもしれない。【イケメンが使ったシャーペン】売ったら高く売れると思う。


 といった感じで、自分が使用した物(ただしこの場合は私の物)を売られるという危険も潜んでいるイケメンなのだが、思い出してほしい。

 イケメンはそんな悩みなんかより得することが多いという事を。





 私がまだランドセルを背負って学校に通っていた頃の話だ。


 3つ年下の幼馴染みがある日突然泣きついてきた。

 泣くことなど滅多にない子だったため驚愕しながら事情を聞いてみれば、理由は単純明快かつ深刻なものだった。


___クラスの女の子達がね、ナツくんばっかりに遊ぼうって言うの。ボクもナツくん達と遊びたかったから入れてって行ったら男の子はナツくんしか駄目って...…。何でナツくんしか駄目なの?


 ねえ、何で?瑞季お姉ちゃん教えてよと言わんばかりに瞳を潤ませ私を見つめるショタボーイ。


 こんな小さな子に世の中の理不尽さなんてものを語っても仕方ないのだろうが、私の幼馴染みは近所の子達と比べものにならないほど頭が良かった。それに、もし今何を言っているのか分からなくても時が経てばきっと理解してくれる。

 そう思い、私は幼馴染みに何故そのような事が起きたのか教えてあげた。


___女の子はね、みんなカッコイイ子が好きなの。ほらナツくんだって運動神経が良くてカッコイイでしょ?だからソラも勉強をもっと頑張って、女の子に優しくしたらモテる筈だよ!


 そう力説すれば幼馴染みはポカンとしていたが、瑞季お姉ちゃんが「カッコイイ子」の方が好きならボク頑張ってナツくんみたいになる!!となんとも可愛らしい事を言って声高らかに宣言した。


......それからだ。幼馴染みの血の滲むような努力の日々が始まったのは。




 まず幼馴染みは、私に言われた通りただでさえ他の子達より飛び抜けていた学問に力を入れた。

 家庭教師や塾などには一切通わず、一人で部屋にこもり机とむきあう日々。たまに、どうしても分からない問題などがあれば彼の母親や中学で数学教師を勤めている父を持つ私が教えた。


 元々の才能が良かったのだろう、伸びるのはとても早かった。

 テストが返却され、私に見せるのは100の数字が並んだものばかり。私はそれを見る度、自分のことのように幼馴染みと一緒に喜んだ。


 すると幼馴染みも満面の笑みでもっと頑張るからね!!とそこで満足したりせず更に上を目指した。


 次に彼が打ち込んだのは水泳だった。

 これはナツくんのような運動の出来る子になる、という目標を達成するためだ。


 スイミングスクールに週2回ほど通い、身体を鍛えた。

 更にさらに幼馴染みは自分にストイックな性格なようで、近所の野球クラブに入り見事運動少年の仲間入りを果たした。


 他に女の子にモテるには、紳士のような気遣いや心。そして整った顔が必要となる。

 だがこれに関しては何も心配は要らなかった。


 幼馴染みはもともと誰に対しても優しく接することが出来たし、綺麗な顔をしていた。


 逆に何故モテないのか不思議で仕方ない。

 だが何もしないというのは彼の意に反するようだったので、とりあえず野球をするのに相応しいサッパリとした髪型にしておいた。



 このように努力を惜しまなかった幼馴染みは、目標としていたナツくんと同じくらい、ひょっとしたらそれ以上モテ始めた。


 容姿端麗・頭脳明晰・運動神経抜群・品行方正とモテる要素たっぷりと化した彼を世間(女の子達)が放っておく筈もなかった。

 そのモテ度合いといったら、中学に入学した彼の噂が高校に入学がした現在の私の耳に届くほどだ。


 イケメンキラーな友人から聞いた話では我が母校である中学は、私の幼馴染みである高野空人(たかのそらと)とその友人でありソラをモテ男にしたきっかけとなった五十嵐夏(いがらしなつ)くんの二人のファンクラブまであるらしい。


 そんなアルドルでもないのにファンクラブなんてものがあるほど人気者になった幼馴染みを祝福すると同時に遠い存在になってしまい寂しいなんて思うことが時々ある。


 だがそんな感情は一瞬しか感じなかった。

 何故ならモテ始めてからもソラは私の家に変わらず遊びに来てくれるのだ。それもほぼ毎日、佐藤青透が私にシャーペンなんかを借りるぐらいの頻度で。


 そんなに来て何か用でもあるのかと聞くが、ソラは「瑞季お姉ちゃんと話したいだけだよ」と言ってその日、学校であった事を楽しそうに教えてくれる。

ラブレターを貰っただとか、忘れ物をした時隣の席の子が教科書を貸してくれただとか。


 ああ、そういえば年賀状を出したいから住所を教えて欲しいと学校中の女の子達から迫られたなんて話もあったけ。

 でも確かその件は「僕、女の子には瑞季お姉ちゃんにしか貰ったりしないから。ましてや僕から送るなんて有り得ないよ」とよく分からない言葉で締めくくられた。






 とまぁ、長々と話してしまったが要約してしまえば――――イケメンは得!!この一言に限る。


 現にソラは自分磨きを始めた頃からモテ始め、何も言わなくたって手をさしのべてくれる女の子が沢山いた。


 その女の子の数に比例するように私への視線が痛くなっていた気もしないではないが、今となっては良い思い出。なんせ私とソラは3つ歳が違うのだ。

 小学校を卒業し高校生になった今、大学を除き同じ校舎で過ごすなんて事にはならない。


 万が一、ソラが私と同じ大学に入ろうが、周りはもう立派な大人。そんな見苦しい嫉妬は起きない。そう信じたい。


 自分との格差を感じさせるイケメンなんてもうこりごりだ。人間、顔じゃないのにイケメンや美人が自分の近くにいる時のあの場違い感。

 下手をすれば美形恐怖症になる。


 その原因なんて、美形なんて、


「……消えてしまえ」

「ん?どうかしたー?」

「いえ、何でもないです。

 強いて言えば何故佐藤くんが私の隣でお昼ご飯を食べているのかが気になります」


 午前の授業を終えた私達は現在、この学校の学生達が使う食堂にいる。


 食堂の席は限られているので、ただ隣にいるだけなら無関心を貫いた。

 だが彼は幼馴染みのことや美形恐怖症の危険について考えている私にやたらとちょっかいを出してくる。


 一体何なんだ、私に好意でもあるというのですかー?とは自意識過剰な人間ではないので流石に思わないけれど、周囲の視線が痛い。

 その理由は絶対、彼が私の隣に座っているからだと思う。


「あ、あそこの席空いてますよ」

「本当だね。でも俺動かないよ?

 俺は鈴木さんがまだ友達いなくて寂しいだろうと思って、此処に座ってるし」


 このままだといらぬ反感を買いそうだったので、空いている席を見つけて教えてやるも彼は動かない。

 しかもその行動は善意からなると言う。


「別に……頼んでません」

「うん、俺が勝手にやってる。だから鈴木さんがどうこう言おうと俺がしたくてやってるんだから良いじゃん。

 ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」


 何だか上手く言いくるめられた気がしないでもないが、彼の言う通りせっかくのご飯が冷めてしまっては作ってくれた人や犠牲になった命に失礼だ。

 そう思い、私は今日のメニューである「和食セット」とプリンを食していった。





――――――友達、作らなきゃなあ。

ありがとうございました!!

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