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24、五神斬

 核ミサイルの軌道修正を行っていた相子は、軌道変更のプログラムソースを完成させた。外から独自にプログラムを持ち込めれば、ここまで苦労することもないのだが、残念ながら、ここには外からのプログラムを読み込むための装置がない。これは外部からのウイルスプログラムを流し込ませないための細工である。二十二世紀には、ウイルスプログラムも、それに対する抗体ウイルスプログラムも複雑になった。元のウイルスプログラムを、流し込ませたい媒体に直接入力する必要があるために、現代において、プログラムという概念自体が、古の産物となりつつある。だが、そここそが近代プログラムセキュリティの欠点である。内部に複雑なプログラムを埋め込んだ端的、大雑把なソースコードに切り替えられたために、その細部までを細かくチューニングすることは素人には難しくなってしまっている。だからこそ、旧式のプログラムの細部を変更させて、その中にウイルスコードを忍び込ませることで、現代のソースコードに対抗することができる。利便性の追求が、旧式に劣る隠密性を生み出したのである。

「これで、いける・・・・・・」

完成したプログラムを流し込む。一つ一つ、確実に元のソースコードを侵食していき、急速に核兵器の軌道を修正していく。何の問題も発生しなかった。軌道修正は全て正常に作動し、核ミサイルは軌道を修正して太平洋上への着弾ルートに変更された。これから核ミサイルは、上昇後の水平飛行の段階をすっとばして下降動作に突入する。地球をほぼ半周させるミサイルだ。水平飛行なしでは届くはずもない。

「ミッション、サードフェイズを終了、ファイナルフェイズに移行する」

厳密にいえば、サードフェイズはファイナルフェイズと言っていてもおかしくはない。だが、ミッション中に気が抜けないようにと、対抗者達カウンターズのミッションは、必ず脱出という名のファイナルフェイズが存在する。誰もそれに異議を唱えないし、それに合わせて行動している。

「死ななければそれでいいけどね」

相子は一度口元に小さく笑みを零すと、WUSU基地からの脱出を開始した。


 五神斬が五つ揃うこと、そして、その全員が、思惑は微妙に違うとはいえ、共闘関係に並ぶなどということを、一体だれが予測できただろうか。今、五神斬を持つ者達の視線はWUSUへと向けられていた。反WUSU勢力である対抗者達カウンターズが作り上げた、神の武器。それぞれがそれぞれの目的でバラバラに動いていたとはいえ、最終的に全員がWUSUに正面切って戦いを挑む形となっているのである。

「五神斬の役目が仮にも果たされるわけだ」

来琥は自虐的にそう呟いた後、刃薔薇を強く握りしめた。WUSU兵達は、来琥達が一歩ずつ歩みを進めるのに呼応するように、ゆっくりと後ずさりしていた。傍から見れば、五神斬全てが並列状態を保ったままに自分たちの方へと詰め寄ってくるのだ。恐怖、もしくは感情をかき乱されない者は、よっぽど強靭な精神を持っているか、ただの命知らずだろう。

 そして、それに属する者は無謀にもたった一人で突っ込んでくる。

 来琥は刃薔薇を銃形態に変形させ、その銃口から銃弾を発射し、無謀に突っ込んできたWUSU兵の頭部を撃ち抜く。

「怯むな!! 敵は五人だ!!」

アルナスがWUSU兵達にそう言って喝を入れる。その言葉によって覚悟を決めたWUSU兵達は、来琥達に向かって走り出す。来琥達はその光景を見て、それぞれが構えた。と同時に、一気に突っ込んできたWUSU兵達を吹き飛ばす。圧倒的な力を兼ね備えた五神斬は、敵を全く寄せ付けようとはしなかった。

「てめぇらよぉ・・・・・・革新を遂げた俺に、敵うと思ってんのかぁ!!?」

新紅がそう言いながら桃斧槍を振り抜き、その軌道上にいたWUSU兵達を一気に薙ぎ払う。新紅は地面を蹴ってWUSU兵の頭上を飛び越え、アルナス達の前へと現れる。そして、アルナスと桃斧槍同士の戦いを始める。

「今の俺達は、お前たちなどには屈しない! 絶対にだ!!」

その間に、対駕が刃先に雷を纏わせ、それをWUSU兵達へと放つ。その雷を諸に受けたWUSU兵達はその場に倒れこむ。実穂もまた、桜鎚を振い、そこにいるWUSU兵達に次々と端にある鎚を叩きつける。

「私は、奈美ちゃんが死んだこの現実を受け止めて、前に進んで見せる!」

主に実穂と対駕の攻撃によって、アルナス、メリア、ベイブへの道が開ける。来琥と亜里去は、そのできた隙間へと突っ込んでいく。アルナスと新紅が激しい攻防を繰り広げる中に、来琥と亜里去も加勢する形で入っていく。

「てめぇだけが敵じゃねぇんだよ!!」

そう言いながら新紅は、斧部分をメリアへと振り抜く。メリアは自身の持っていた桃斧槍でその攻撃を防いでみせるが、そのまま反撃することは適わなかった。新紅の猛攻に迂闊に手を出そうものなら、来琥達でさえ、とばっちりを受けない、という保証はできないのだ。


 亜里去はベイブとの戦闘に突入していた。亜里去にとって、桃斧槍とまともに戦闘するのは初めてのことであったが、新紅が行うような、力に任せての攻撃ではないために、こちらにしても、基本に忠実な動きを行って対処することができる。振られた桃斧槍に対抗して鈴嵐を振う。風の刃を纏った鈴嵐と桃斧槍の斧がぶつかる。

「お前たちは、ここで未来なくして死ぬ! そうすりゃ、全てが丸く収まるんだよ!! WUSUが世界を統治する、その世界のために、おめぇら日本人は邪魔なんだよ!!」

「うっさい!!」

亜里去は鈴嵐を振り抜きながらベイブの言葉を遮った。そして、そこから亜里去の反撃が始まる。連続で別方向から刃を叩きつけ、こちらに付け入る隙を与えさせない。それはつまり、戦いを支配することと同じことである。

「俺らを殺せば、積み上げてきた過去も消えれば、輝かしい未来も消えんだよ!!」

「それは違うっ!」

亜里去は鈴嵐による攻撃を中断しないままに反論する。

「もう私の過去は何度も積み上げては崩された!! けど、未来を掴むためには、今までの自分がなければできない!! 私が今まで歩いてきた道、それが過去!!」

ベイブが遂に反撃を行ってきた。大きく振られた桃斧槍をかわした時、亜里去の脳裏に、ベイブが槍を突き出した後、そのまま斧部分をこちらに振ってくるのが見えた。この現象が何故起こったのか、大体の見当はついていた。亜里去が持つ、未来予知の能力。その余波が、敵の攻撃を予測できる形となって現れたのである。

「らぁぁぁ!!」

槍が突き出される。亜里去はその突きをかわすと、そのまま振り抜かれた斧もしゃがみこんでかわす。そして、その時にベイブにできた隙を、亜里去は見逃さなかった。ベイブの周囲の空調を乱していき、その行動範囲を極端に狭くしていく。ベイブの周囲を吹き付ける風は、圧倒的切れ味を誇る真空刃。ベイブの体を少しずつ、だが確実に切り裂いていく。

 亜里去は、圧倒的な力の差を見せつけて、ベイブに勝利した。


 実とカナ、価帆の攻撃によって、帝の攻撃はほぼ完璧に沈黙していた。反射防壁を解放した価帆は、そのまま実の体に密着させる形で反射防壁を張る。

「俺達は真実を見つけ、知ることで強くなる!!」

実の両手だけ・・・・反射防壁の展開を行わず、実は走る。帝が刃薔薇を振ってきたが、それは反射防壁によって容易に弾く。そして、背後から帝の両腕をそれぞれ掴む。

「それが私たちの進化であり、真価!!」

価帆の言葉と共に、実の両手から炎が溢れ出し、帝の両腕を焼切る。そして、抵抗不可能になった帝の正面に、カナが立つ。カナは自分の胸の前で掌を向けあうと、その間から雷を発生させる。

 一か月前に、亜里去を守るために吸収した対駕の雷。カナの能力はエネルギー系の物質を吸収、膨張させて発射する能力。長い時間を掛けて膨張を続けていた雷は、ある程度の物質を貫く程度の能力は持ち合わせていた。

「行け! カナ!!」

そう言いながら実は帝を押し出し、自分はその雷の余波を受けない場所まで下がる。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

カナから放たれた雷は、帝の心臓を貫いて、更に空の彼方まで伸びていった。


 来琥とメリアが戦闘を開始した横で、新紅はアルナスに絶対的な能力差を見せつけていた。振られてきた桃斧槍は足裏で跳ね返し、その直後に桃斧槍の槍を突き出して再び行われる反撃を阻止していく。アルナスはその攻撃をいなすことに神経を割かれているために、反撃の糸口を掴めずにいたアルナスに今までの中で一番の力で叩きつけると、アルナスに桃斧槍の斧部分を向けたままに、槍をメリアへと向け、そのまま突進させた。メリアの方は、来琥との戦闘に気を取られて、突進してくる槍の存在に気付けずにいた。

 アルナスが動いた。

 アルナスは桃斧槍を振り捨てると、全速力で新紅とメリアの間に割り込んだ。新紅はこんなところで慈悲を働かせるような男ではなかった。元々残忍な性格であるということは、周知の事実であったために、その後の結果は、ある意味当然のものだと、少なくとも来琥は思っていた。

 アルナスの心臓に、新紅の桃斧槍の槍が突き刺さる。

 新紅は、実際のところはこれを狙っていた。本人は何のオブラートにも包むつもりはないだろうが、簡単にいえば、人の心を弄んでいるといってもおかしくはなかった。ただ、それが磯城革新紅という人間であり、そうした人間の心理を読み取って戦うのが磯城革新紅のやり方であることを知っていた。

「アルナス!!!」

「姉さん・・・・・・」

アルナスは、その一言だけ言うと、そのまま目を閉じ、仰向けに倒れた。新紅の顔には、表情という表情がなかった。さすがに高らかに笑い上げるのはこの場の雰囲気に合わないと感じたのだろう。そういう意味では(かなり上から目線で言わせてもらえば)、新紅も十分に成長しているだろう。

「さぁて、雑魚をぶっ飛ばさせてもらおうかぁ!!」

新紅が来琥の後方へと走り去っていくと、来琥は失意の中にあるメリアに向かって刃薔薇を振り抜く。メリアはその刃薔薇を桃斧槍の柄で受け止めると、回し蹴りをしてくる。来琥はその回し蹴りをのけ反ってかわし、その反動を利用して右足を一気に踏み込み、その後、左足を同様に踏み込むと同時に、右足を宙に浮かせ、一気に飛び出す。その勢いに乗せて、刃薔薇を振り抜く。メリアはその斬撃を桃斧槍でいなして攻撃を免れ、すぐに反撃を行ってくる。来琥は刃薔薇を持って斧を受け止める。

「私たちは、生まれた時にはもう両親もおらず、周囲からは冷たくされて育ってきた!! WUSUここに来ても同じ! 確証のない切り札として使われ続けた。私は、この世界が憎い!!」

メリアが刃薔薇を押し込んでくる。だが、来琥はそれに屈するつもりはなかった。押し込んでくる桃斧槍に対抗して、刃薔薇で逆に押し込んでいく。

「そうして世界を殺して、人を殺すことで、お前の兄弟は報われるのか!! 自分の未来を誰かに委ねれば、積み上げてきたものは全て壊れる!! そうなれば、お前が守ろうとしてきたものはどうなる!! お前を守ろうとした人はどうなる!!」

メリアがはっとして目を丸くする。だが、こちらを押そうとする力は緩まらない。

「自分が作り、歩いていく道・・・・・・それが未来だ!!!」

来琥はついにメリアの桃斧槍を弾き、攻撃に移った。連続で刃薔薇を叩きつけ、メリアの余裕をなくしていく。そして、一瞬のうちにできた隙をついて、メリアの右手を切り裂き、その手から桃斧槍を取り落とす。来琥は地面に音を立てて落ちた桃斧槍を足で滑らせてメリアから遠ざけると、メリアの背後に一瞬のうちに回り込んだ。

「だが、お前たちは、奈美の未来を奪った!!」

来琥は刃薔薇を開く。その中で銃口が煌めく。メリアが振り返ると共に、その喉元に銃口を突きつける。

「その代償、払ってもらうぞ、お前たちの命で!!!!」

来琥の刃薔薇の銃口が臨界し、メリアの喉元において爆発する。

 偶然なのかどうかは分からなかったが、それと同時に、来琥の後ろで展開されていた戦闘も終わりを告げた。


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