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25、過去と未来

 メリア、アルナス、ベイブの三人が戦死した。それは、WUSUが絶望のうちにわずかでも勝ちを見ることを諦めるという選択肢を決めるためには十分な判断材料だった。また、核ミサイルの発射後の軌道が中途に変更されたことによって太平洋上に着弾したことによって、完全に攻撃手段を絶たれた、ということも理由の一つだろう。そして、WUSU所属の国々を何よりも落胆させる理由となったのは、五神斬が一挙に集結したということだろう。それぞれがばらばらに動き、互いに敵対している状態ならば、各個撃破を行って対WUSU勢力を削っていくこともできたかもしれない、というのはほとんどの人が分かっていたことである。

 また、アメリカのクラウト大統領が死亡したことによって加速した南米のWUSU制圧の画策もまた公にされ、今回の掃討作戦にはアメリカは全く関係していないことを自白した。今回の事件を機に、WUSUの体勢が見直され始めていたのは明白だった。世間からは、南米諸国をWUSUの所属から離すことも考えられた。さらに、核兵器の使用が確認されたために、その風潮は更に大きなものとなったのである。


 浜比良祭での騒動も収束したが、学校側の二週間ほどの臨時休校を決め込んだ。さすがに生徒に校内で死亡した人や散らかった教室の処理をさせるわけにもいかずに、教師陣だけで行っているようだが、その教師の方が人の死体を長らく見ていなかったために、精神的な意味で体調を崩す者が続出した。


 その急遽できた休みの中、来琥達は一箇所に集まっていた。その中で目先だけとはいえ、敵意の視線を向けたのは亜里去だった。復讐の対象である対駕を睨みつけていた。来琥を含めた五人の間に妙な空気が流れていたが、最初に動き出したのは対駕だった。握っていた殺陣椿を自分の前に放り捨てたのだ。

「まぁ、目的はこのためだが・・・・・・」

「彼女を守るためのものだったからな。もう必要ない」

来琥が驚いたのは、まさか対駕が最初に五神斬、殺陣椿を捨てるとは思わなかったためだ。それを見た亜里去もまた、きつく握っていた鈴嵐を殺陣椿に重ねる形で投げ捨てた。来琥は亜里去が頑なに鈴嵐を手放すことを拒否するかと思っていたために、意外だった。

「私の復讐は殺陣椿なんだから、持ってないやつ斬ったらただの犯罪者じゃない」

亜里去はそう言いながらそっぽをむいたが、来琥はそれを微笑みで受け流すだけの耐性をすでに身につけていた。続くように実穂も桜鎚を手放す。来琥は新紅の方に視線を向けた。新紅は来琥の視線に気づかないふりをしていたが、途切れることない視線を不快に感じたのか、持っていた桃斧槍を投げ捨てる。他の五神斬にぶつかって、ガシャリという金属音を立てる。

「ったく、捨てりゃいんだろ、捨てりゃ」

来琥は、何の抵抗もせずに桃斧槍を捨てた新紅の姿を見て安堵した後、刃薔薇を五神斬の山へと投げ込んだ。

「準備はできた?」


 タイミングよく価帆は現れた。価帆は五人がそれぞれ持っていた五神斬を手放している光景は、価帆にとってある意味救われたものであり、ある意味で無念の残るものだった。五神斬は両親が残した最凶で最高の形見。形見を壊すことは、両親を否定するも同じだ。それは分かっている。だが、これは認め、尊敬の上での否定だと自分に言い聞かせて、解約作業を開始した。

 五神斬の分解コードの入力による解約は、五神斬が修復不可能なまでに分散する以外にリスクやデメリットはない。契約の糸を切るのではなく、解くのだ。五神斬側からゆっくりと解かれる糸によって、五神斬と契約者との間の因果は完全に消える。それは限界まで伸ばしたゴム素材をゆっくりと戻していくように。一触即発の空気が、少しずつ落ち着きを取り戻していくように。

 地面の上、価帆の手元で、コードを認識した五神斬が一つ一つ壊されていく。殺陣椿、桃斧槍、桜鎚、鈴嵐、そして、刃薔薇。


 五神斬が壊れた後に残されたのは、どれが何処のどういう役割を果たす部品なのか全く分からなくなった金属片の山だった。来琥は安心と共に虚しさを感じていた。五神斬が分解したからといって、契約者であった自分たちの五神斬に関する記憶が消えるわけではない。だが、これで全てを失ったような気がしたのは、来琥だけではなかっただろう。

「もう会うことはないだろうが、元気でな」

それだけ言って、対駕はその場を立ち去った。新紅もまた、無言のうちにガレキの山を背にした。

「来琥君、今度、未久と未奈に会ってあげてね」

休みに入った直後、実穂からは、未久と未奈は対抗者達カウンターズの一員として活動している、ということは聞いていた。来琥はその口元に笑みを作り、無言で頷いた。十年近く顔を合わせてないのだ。来琥は、自分自身がどんな反応をするのか楽しみであり、不安でもあった。

「さ、来琥、行くわよ」

「・・・・・・ああ」

何かの感情を押し殺して、亜里去は歩き出す。来琥もそれに釣られるように歩き出す。振り返った来琥の視界に入ったのは、物理的な意味でばらばらになった五神斬の前で手を合わせている価帆の姿だった。来琥は、敢えて声をかけずに立ち去ることにした。


 研究所の中には、実とカナがいた。価帆が戻ってくるまで、自分たちがっこの警備に努めることになっていた。さすがに、WUSUも対抗者達カウンターズも押し寄せてくるようなことはなかったが、本当に警備だけだったために、むしろ暇を持て余していた。

「どうした、カナ」

実は、カナが何か言いたそうに下を向いたままだったのを気にして、声をかけた。カナはしばらく下を向いたままだったが、実が正面に視線を戻したころにようやく口を開いた。

「実・・・・・・」

カナは、ようやくその一言を口に出した後、実に視線を向け、微笑みながら言った。

「世界って、狭いね」

実がその微笑みを正面から受け止める。その微笑みには、慈しみや悦びといった感情は見られなかった。ただ、どこか呆けきったような、虚しさを湛えたものだった。

 口下手である実だったが、その中で一番に掛けるべき言葉は、すぐに出てきた。

「・・・・・・そうだな」


 対抗者達カウンターズの中では、未久、未奈、アリスが、メキシコ支部から帰還した相子を出迎えていた。

「お帰りなさい、姐さん!」

未久のそんな言葉も、相子は柔らかく受け止めた。未奈やアリスもまた、尊敬のまなざしを相子へと向けていた。

「大手柄ですよ、相子姉さん!」

 核ミサイルの軌道変更のミッションの前に、殺陣椿の下についてたのは、帝が命令された殺陣椿の経過観察によってだったのだが、殺陣椿も手放し、帝も死んだ今になっては何の意味も持たないミッションであった。

「木嶋相子、核攻撃阻止、及び殺陣椿経過観察のミッションを、無事に終えました」

相子はそう言いながら、にっこりとその顔に笑みを作った。


 来琥と共に歩いていた亜里去は、大きく背伸びを一つした。帰り道は亜里去と来琥の二人だけだった。まわりに人影は見当たらない。亜里去はよっぽど何か言おうと思ったが、言葉が見つからなかった。来琥と過ごした時間、そのほとんどはWUSUのことや五神斬のことばかりだった。ちょっとした幕間劇こそあったが、それもまた、本当に数えるほどしかなかった。自分は、本当はもっと普通の話がしたかったのかもしれない。あの時鈴嵐を手にし、復讐のためにひたすら戦ってきた。そのせいで学校にもまともに行けなかった。今思えば、自分は自分で人生を滅茶苦茶にしてしまっていた。ここから、自分はやり直すことができるのだろうか。何も知らず、ただ平和の中にいた自分を取り戻し、あるはずだった自分の姿へ。

「亜里去」

その声が鼓膜に入ってきたとき、亜里去はビクリと体を震わせる。来琥の声を聞いただけで、自分の意識が現実に引き戻され、それに驚いてしまった自分が恥ずかしくなって、顔が赤くなってしまう。亜里去は来琥の顔をなるべく見ないように外の風景へと視線を送った。

「俺、思ったんだ。五神斬を持って、力を手に入れて、自分はまけることはないと思い上がっていた。けど、それは間違いだと気づいた。結局、大切な幼馴染一人守れないほどに、自分は無力なんだって、今回のことで気づいた。人は独りじゃ、何もできないって分かった。かけがえのない仲間。自分に足りなかったものが、この戦いの中で分かった。俺は何も知らなかった。大人になったと思っていたけど、本当は無知な子供と同じだった。俺はこれからも、一人じゃ何もできない」

亜里去は来琥の方を見ていたわけではなかったため、その表情は知るよしもなかったが、その口調と言葉だけは、真剣なものであると、よく分かった。

「だから亜里去。これからも、俺と一緒にいてくれないか」

その言葉に、思わず亜里去はその足を止めた。それを見た来琥もまた、歩みを止めた。

 来琥は何気なく放った言葉だっただろうが、その言葉は、亜里去でなくても、勘違いするには強すぎる効力を持ち合わせたものだった。

「もっと、かっこいい言葉選んだら? どこの教師の台詞よ」

「・・・・・・ごめん」

亜里去が咄嗟に放った批判の言葉は先ほどの来琥の最後の言葉の印象が強すぎたために慌てて出したものであった。だから亜里去は、その来琥の言葉に対しての答えを返すことにした。

 亜里去は来琥の方に振り返り、その胸に飛び込んだ。来琥が驚きながら亜里去の体を抱き留める。亜里去で自分で動いておきながら、高ぶる感情を抑えることはできなかった。

「あんた前に、私を絶対に傷つけないって言ったじゃない。ちゃんと、その責任取りなさいよね・・・・・・!」

来琥は、両腕で亜里去の体を優しく抱きしめた。

 来琥のぬくもりが、直に感じられた。亜里去は目を瞑ったまま、その両目から涙を溢れさせていた。

 亜里去の言葉に対して来琥が返した言葉は、とても単純なものであった。

 だが、そのシンプルな言葉は、亜里去が一番求めていたものだった。

「――ああ、もちろんだ」


本作は空想科学祭2011参加作品となっております。

他の作家の皆様の作品にも、是非目を通してみてください。

また、本作はBLUE部門登録となっておりますが、辛口評価、感想は大歓迎でございます。気兼ねなく暴言をたたきつけてください^^;


皆様、ここまで長く拙い文章におつきあいいただき、ありがとうございました。


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