第1章:家庭教師は大変です その3
「わあ……っ!! フィオナさん、劇団の女優さんみたいですっ!!」
「……美人ってズルいわね。ぱっと見だと単純な服なのに、こんなにも似合うんだもの……」
「さすがセレンディア。フィオナの価値、わかってる」
こうも褒められるとむず痒いものがあります。
魔族は確かに、世間一般での美形揃いと言われています。
ただ私は枝のように細い体型で、世の中の男性が好むような豊満な体型でもありません。
ですが――アリアちゃんが私のために、とデザインしてくれた普段着は、おうちのみんなには好評のようでした。
「……ちなみにそれ、いくらしたんですか? あたしもそういうの、着たいと思うんだけど」
「無料でしたよ? ジュリアンさんが『広告塔になる!』と大はしゃぎでしたし、デザイナーのアリアちゃんとは……模擬戦一回が報酬でした」
……ミアちゃんの、私がなにを言っているのかを理解できていない表情、これは私もそうでした。
デザイナーであるアリアちゃんに、普段着をデザインしてくれたのですから、デザイン料をお支払いしようと思いました。
服にあまり興味のない私ですら、それは直感的に自分になら合う、と思えてしまうようなものです。
なので言い値だとしてもよかったのですが――報酬は、なぜか私との模擬戦でした。
そしていざ模擬戦の場に立ったときに私が感じたのは――恐怖でした。
模擬戦ですから私も木剣ですし、アリアちゃんも――なんと、彼女が選んだ武器は戦斧。
木製なので、斧という武器の利点である質量と切断力はありません。ですがこれが本物ならば、当たれば死ぬ。
そして私が全力で『雷霆』を使わなければ、いつかは当たってしまう。
なんでもアリアちゃんは平民なのですが、バスティオン領で行儀見習いという立場にあるそうです。
普通なら行儀見習いは貴族の令嬢が、格上の家で学ぶ立場なのですが。
……ああ、それすらも見越しているからこその最強候補なのでしょう。
結果としては私が勝ちました。ただし、幼い子どもに対する勝ち方ではありません。
私は常に『雷霆』での超高速移動をしながら、なおかつ死角からの攻撃です。
ところが――私が予想していない軌道で、私の進路を潰すように斧が既に振るわれている。それが何度も続いたのです。
「ええ……フィオナさんそれ、話を盛ってないですよね?」
「まあ。すべて事実ですよ? これでまだ成人前なのですから、この国の未来は安泰ですね」
服飾デザイナーさんが、金等級の私すら恐怖するほどの実力者。
あの時感じた末恐ろしさが証明された模擬戦でした。
「あとついでに。これも一応見せておきましょうか」
アリアちゃんが私に似合うと選んでくれたのは、横に軽く切れ込みの入ったスカートでした。
私が『雷霆』で駆け回っても支障がない、普段着のまま魔物と戦えるようなほどに動きやすいものです。
私はスカートを持ち上げました。断じて変態ではないです。
「え、なにこれ……下着?」
「はい。下着です。私もこんなの初めて見ました」
ドロワーズと呼ばれる、女性のみんなが着用しているものではありません。
アリアちゃんが言うには、全く新しい形式の下着――パンティだそうです。
ついでに胸を固定する下着、ブラというのも渡されました。こちらは中に針金が入っていて、胸の下をしっかりと支えてくれています。
それぞれの素材はなんとマナシルク。防御の魔法などを付与できるという高級素材です。
まだ魔法は付与されていないのですが、アリアちゃんからは『浄化』の魔法の付与を提案されました。
なんでも汗やらなんやらの汚れも綺麗にしてくれるとのことらしいので、長期の冒険をする私に向いているそうです。
しかし『浄化』はかなり高位の魔法で、しかも魔法の付与は専門的な知識が必要です。
……こればかりはシルヴァハさんのような、最高位の魔法使いに頼るしかないでしょう。
「でもでもっ、すっごくなんというか……えっと、これ、言っちゃっていいんでしょうか?」
リリサちゃんがなぜか言い淀みました。何かを気にしているのでしょうか?
レティシアちゃんはまじまじと私のパンティを見ています。なんとなくですが、どう洗えばいいのかを分析しているような感じです。
「えっと、ミアちゃんはもうフィオナさんとその、そういうことしたんですよね?」
「……そのせいでリリサ、あなた寝不足だったって言ってたじゃない」
まあ。あの夜の出来事ですか。むしろ時間が経ったいまの方が、あの夜のミアちゃんがどのような可愛らしい姿を見せたのかを思い出せます。
「――ちょっ!? フィオナさん、それ、言わないでっ!! あたし、あの夜まで本当に『そう』だと思ってなかったんだからっ!!」
ミアちゃんは基本的には尖った感じの性格です。
ですが、甘えるときは素直に甘えてくれますし、そうでないときは先端が丸い棘で突っつくような感じです。
「……で、レティシアちゃんはまだ、じゃないですか」
「フィオナとはそう。でもご主人、男娼買ってるの知ってた。そういうこと、別に普通。フィオナがリリサもミアとする、そういうもの」
……思わぬところでナイアさんの情事の事情を知ってしまいました。
「……あーもう、じゃあ言っちゃいますっ! フィオナさん、そのパンティとやら、色っぽすぎますっ!!」
まあ。
「――まあ、じゃあありませんっ!! その『まあ』が問題なんですっ!! なんですかそれ誘っているんですか!? 今すぐリリサの部屋にぶち込みますかっ!?」
でもリリサちゃんは基本的に受け身です。たまにはリリサちゃんの方から、とは思ってはいましたが。
「黙ってくださいこの無自覚女たらし! ただでさえ同性だからガードが緩んじゃうのに!!」
「……そうね、フィオナさんは少し反省した方がいいとあたしも思うわ」
まあ。ミアちゃんまでリリサちゃんに味方してしまいました。
「因果応報。フィオナ、諦める」
なんとレティシアちゃんにまで見捨てられました。
ええと、リリサちゃんとミアちゃん、なんでそんなに怖い顔をしているのでしょうか?
ああ、これはいけません。先代の『蒼穹の翼』のときにも経験しました。
ですが――リリサちゃんとミアちゃん、ふたりが満足できるならどうぞ。その後で私は、もっと満足させてもらいましょう。




