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妖怪派遣業  作者: 蜂兎類
10/10

第十魔 狐火マリと大炎上

月曜日の朝、営業部の空気は平和だった。少なくとも三分前までは。


「修司さん!」扉が勢いよく開くと、修司は反射的に身構えた。


 百鬼スタッフサービスで元気よく名前を呼ばれる時は大抵ろくなことにならない、経験がそう告げていた


「マリか、なんだよ」


「会社のSNSを改革します!」


 修司は書きかけの書類の手を止め、ペンを置いた「嫌な予感しかしない」


「なぜですか!世の中の流れに乗るのはやっぱりSNSですよ!」


「今までその台詞で良い結果になったことが一回もないからだ」


 マリは机を叩く「現代は情報を発信していく時代なんです!」


「それは知ってる」


「企業の認知度!」


「大事だな」


「ブランド価値!」


「大事だな」


「フォロワー数!」


「まあ大事だな」


「つまりバズです!」


「帰れ」


 即答だった。


「なぜですか!?」


「最後の一言で全部台無しだ」


 マリは納得していなかった。


「今の百鬼スタッフサービスのアカウント見てくださいよ」


 そう言ってスマホを突き付ける。


紙舞ヒナ『本日の営業終了しました』


青木尊『安全第一で頑張りましょう』


轟蓮次『熱中症に注意』


「つまらないです!ただの報告で雑談にすらなりません、まるで女性を口説くのが下手な男性のよう」


「SNSに毒され過ぎだ、普通だろ?」


「普通じゃ伸びません!なんでもっとこう面白いことをつぶやいたり、インプレッションが伸びるような試みをしないんですか??」


「企業アカウントだからだよ!」


 その時、後ろから声がした「楽しそうね」アザミだった。


 修司は助かったと思った。そして一秒後に諦める。アザミは面白そうなことを止めない、狐の血が騒ぐのだろうか。


「何してるの」


「会社のSNSを強化します!」


「へぇ」


「フォロワー十万人目指します!」


「へぇ」


「百鬼を有名企業にします!」


「へぇ」


 修司が割り込む「専務、止めてください」


「なんで?」


「絶対ろくなことになりません」


「大丈夫よ」


「どこがですか」


「あなた、尻拭いは得意でしょ?」


「それ炎上する前提じゃん、俺に負担かかるの前提じゃん」


 マリは感動していた「専務!ありがとうございます!」


「頑張りなさい、素敵な広報にして頂戴ね」


「はい!」


 修司は胃薬をあらかじめ飲むことに決めた。


 数日後、最初の動画は大成功だった。


「見てください!」マリが営業部に飛び込んでくる「五万再生です!」


「おお」


「七万になりました!」


「おお」


「十万超えました!」


「すげぇな」


 動画内容は九郎と源じいの配管修理で特に変わったことはない。普通だった、普通に面白かった。


 二人とも配管修理に関してはかなり詳しく、丁寧だが作業がとても早い、人ではとても出来ない速度で作業を進めつつ、九郎と源じいの掛け合いも面白く、河童ギャグなども炸裂していて、それがとても受けていた。


 極めつけは十時休憩、昼ごはん、三時休憩で二人とも黙々とキュウリを食べてる姿がバズった。


「やるじゃん」修司も感心する。


「でしょう!私を誰だと思ってるんですか!」


「炎上娘」


「そうです!」


「否定しないんかい」


 調子に乗ったのはこの辺りからだった「次は冬華先輩です!」


 修司は嫌な予感しかしない「やめろ冬華さんは危険すぎる」


「なぜですか!可愛いじゃないですか!絶対に動画映えしますって!バズりますって」


「だから危険なんだよ」


 修司は一生懸命説得を試みるが、冬華が動画映えすることに関しては否定はできないため、止めることが出来ず撮影は強行された


 冬華本人は内容を何も知らない「会社の広報動画ですか?」


「はい!」


「私で大丈夫でしょうか?面白いこととか特に出来ませんけど?」


「大丈夫です!普段通りに生活してもらえるだけで大丈夫です!」


「頑張ります」


 冬華が微笑むその瞬間、営業部の窓が凍った。


 マリの目が輝く「最高です!」


「最高じゃねぇ!」


「これです!」


「何がだ!」


「映える!」


「その発想やめろ!」


 そして動画は投稿された翌日「修司さん」


「なんだ」


「百二十万再生です」


「やばい、危険だ」


「なぜですか」


「その数字は終わりの始まりだ」


 案の定だった


『この会社本当にあるの?』


『CGじゃないよな?』


『雪女実在するの?』


『冬華さん結婚してください』


『冬華さんの出勤日教えてください』


 冬華ファンクラブ誕生


 冬華本人は困惑していた


「私何かしましたか」


「存在した」


「?」


 そしてマリはさらに調子に乗る「次は社長です!」


「やめろ」


「なぜですか!」


「社長だからだよ!」


「人気出ますよ!」


「別方向のな!」


 結果


 百目鬼社長の動画公開


『怖い』


『夢に出た』


『子供が泣いた』


『夜見たことを後悔してる』


 大炎上


 受付では瀬良アキが電話を取り続けていた


「はい百鬼スタッフサービスです」


『あれ本物ですか』


「本物です」


『本当に目がいっぱいあるんですか』


「あります」


『怖いです』


「私も最初そうでした」


 電話は鳴り止まない


 相馬は問い合わせ対応で死にそうになっていた


「法務相談が二百件来てます」


「なんでだ」


「個人情報保護法に引っかからないんですかって」


「百目鬼だからなぁ」


「妖怪だから引っ掛かりませんって返しといて」


 翌日の会議室、狐火マリは専務のアザミに呼び出される


「マリ?」


 アザミが微笑む


「はい!」


「冬華をアイドルにして」


「はい!」


「社長をホラー動画にして」


「はい!」


「会社を炎上させたのね」


 マリは少し考えた


「結果だけ聞くとそうなります!」


 修司は吹き出した「自覚あったのか」


「あります!」


「じゃあ何でやった」


「面白かったので!」


 沈黙、アザミの笑顔が深くなる


「マリ?」


「はい」


「広報とは何かしら」


「会社を有名にする仕事です!」


「半分正解」


「やった!」


「残り半分は会社の評判を守る仕事よ」


 マリが固まる


「……あっ」


「今気付いたの?」


 修司が呟く「こいつSNS担当じゃなくて火種担当なんだよな」


 営業部全員が深く頷いた。


百鬼スタッフサービス日報


案件名

狐火マリと大炎上


依頼内容


会社公式SNSの認知度向上


担当者


狐火マリ


実施内容


・九郎の配管修理動画投稿


・冬華の社員紹介動画投稿


・百目鬼社長のお仕事紹介動画投稿


・雨坂つゆの営業密着動画投稿


成果


・フォロワー数大幅増加


・動画再生数累計二百万突破


・冬華ファンクラブ発足


・社長がホラー系インフルエンサー扱いされる


・つゆがアルコール依存症疑惑でネットニュースになる

被害状況


・問い合わせ件数三百四十七件


・受付担当アキの残業時間増加


・相馬律の胃薬消費量過去最高記録更新


・法務相談二百件超


・青木尊が会社を辞めるか本気で悩む


・冬華が知らないうちにファンクラブ会員一万人突破


・百目鬼社長が検索候補で「怖い」が表示される


反省点


・妖怪の常識でSNS運営をしてはいけない


・百目鬼をサムネイル中央にしてはいけない


・営業中のつゆを撮影してはいけない


・冬華を安易に映してはいけない


・マリに投稿前確認を義務付ける


マリの反省文より抜粋


『炎上も拡散の一種だと思っていました』


アザミのコメント


『違います』


修司の感想


最初は会社の宣伝だったはずなのに気付いたら火消しの方が忙しくなっていた


百鬼スタッフサービス


今日も元気に営業中です

※SNS担当は現在玉藻前専務監修のもと再教育中です


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