#2 居場所
小さな喧騒が、朝の教室を包んでいた。今日も1日変わりなく、平穏な日々を謳歌する。
はずだったのだけど。
「おっはよぉ〜う夜空ちゃん!」
背後から、元気いっぱいの声。しかも名指し。
「ん…おはよ。」
「元気ないね〜…わたしの顔見たら元気になる?」
サングラス越しだから顔があんまり分からないぞ、うさぎさん…
そんなことも気にせず、彼女の頭上の蛇たちは今日もうごうごとしている。
ふと気になって、聞いてみた。
「その…蛇ってさ、名前、あるの?」
それを聞いた途端、パッと分かりやすく顔が明るくなった…明るいのは元からか。
「あるよあるよー!えっとね、このちょっとでっぷり?ずっしり?してるのがツバキで…
このちょっと生意気そうなのがサクラ。落ち着いてるのがヤナギ。」
ご丁寧にも指差して説明してくれているが…見分けがつかない。
かろうじて、そんなに動いていないのがヤナギってことでいいのか…
「ほかにもいくつか質問いいかな。」
「なになに〜?」
「蛇たちってさ、ご飯食べるの?」
「あ、食べる食べる!え〜っとねぇ…」
そう言って自分の席に向かい、ごそごそと鞄をいじる。
そうして、保冷バッグを持ってきて、慣れた手つきで開けた。
「…チーズ?」
「そ!チーズ!匂いがお気に入りみたい。」
ぺりぺりぺりぺり…ほろ。はむ。はぐ、んぐ、んむ。
小さなチーズのかけらを、貪るようにんぐんぐと丸呑みにしてゆく蛇たち。
「蛇ってチーズ食べれるの?」
「普通のは食べられないらしいよ〜…?
だからペットで飼っててもチーズあげるのはNGね。」
「…結構詳しいんだね?」
「うへへ、気になって調べちゃって…」
そうしているうちに一匹が満足したように首を下ろしてでっぷりと寝そべった。
「あ…寝ちゃった?」
「いいでしょ?この子達。自由で。」
…自由というかのんきというか。
「あ、夜空ちゃんって部活入ってたっけ?」
「…入ってないね。」
「もったいないよ!…ってそうだ!折角だし演劇部入らない?」
演劇部?ウチの学校にそんなのあったかな…
「ちなみに部長は私!部員は四人だけ!」
「廃部ギリギリ…」
「そ!夜空ちゃんが来れば廃部は免れます!」
「…ちなみに、いつ設立なの?」
「先週!」
…胸を張って言われてもな。
「じゃあ入る。」
「ほんと?やったぁ!」
「…放課後。入部届、貰えないか聞いてみるね。」
「その必要はございません!」
…なぜ懐からまっさらな入部届が出てくるんだ。
「入りたいって言い出した人のために、一枚だけ貰っておきました!」
「用意周到だけど、勉強には活かされないのか…」とは、口が裂けても言えなかった。
「…あんがと。放課後までには書いて出そうと思うよ。部室ってどこ?」
「部室はね〜…三号館の三階で、東から三部屋目!」
「家庭科準備室?」
「そうそう!そこそこ!使わないからって、開けてくれてるの!」
…きっと二階堂先生の仕業だろうな。
きぃん、こぉん、かぁん、こぉん。
はたぱたばたばた。がらり。
「すいません、遅れました〜…STしましょ〜…席についてくださいね〜」
「あっ、もうそんな時間!じゃ、夜空ちゃん、また!」
「…うん、また。」
そのあとは授業を受けながら、空いた時間に入部届を書いて、放課後、職員室。
二階堂先生に入部届を出して、受理されるとその足で家庭科準備室に向かう。
がらがらがら。
「失礼しまーす…」
「お、ウワサをすればカレ!早速来た!」
…間違えてるぞうさぎさん。
部室のソファに腰掛けていた縦ロールの人物が口を開く。
「…それなら『噂をすれば影』だと思いますけれど?」
「あっ!そうだった!」
「…この方にジャンケンで部長の座を任せてしまったの、後悔してますわ…」
「ゴメンって祷さん!」
頭を抱えた金髪の、「祷さん」と呼ばれたその人が、一息ついて口を開く。
「はじめまして。新海 祷と申します。
目出さんから、お話はうかがっていますわ。」
さっきのやりとりがなければ、こっちが部長にしか見えないんだけどなぁ…
「よ、よろしくお願いします…東雲 夜空です。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。歓迎いたしますわ。」
八畳ほどの空間に、ソファとテーブル、小さな棚が置いてあるだけ。
「演劇部」を指し示すような要素は何ひとつない。
浮いた制服、和服の人物、祷さん、うさぎさん、そしてボク。
これで陽葵ヶ丘女子高等学校演劇部は全員なんだろう。
「紹介が遅れましたわね。あそこにいるのは相生 樒さん。
透明人間のスペシャルズですの。」
制服をきちりと着こなした樒さんは、小さく、「ど、どうも…」と漏らした。
「そしてこちらでお茶を点てているのが白水 文さん。
雪女のスペシャルズですの。」
…陽葵ヶ丘女子高等学校は私立だからか、制服は自由だ。
きっちり着物を着こなす上に、所作までどこか美しい。
こちらに気付くと、軽く会釈してくれた。
「驚いたでしょー?夜空ちゃん!演劇要素がひとつもなくって!」
うさぎさんが視界に強引に映り込むように喋る。
「ま、まあ確かに…」
「でも大丈夫!メンバーは三年生だけ!卒業まで、思いっきり遊ぼ!」
…なるほど、うさぎさんらしいっちゃらしいか。
ふと窓の外では、葉桜がのぞき始めていた。
文さんがお茶を点てる音だけが静かな部屋に響く。
ボクは卒業までを、ここで過ごすことに決めた。
2〜3ヶ月に一回更新できると、いいなぁ…(遠い目)




