第16話:介入――崩れる相場
「……最大のタイミングで来る」
神谷恒一の言葉の直後。
USD/JPY。
151.80
152.40
152.90
「……」
ゆっくりと、だが確実に上がっている。
「……強いわね」
東條凛が呟く。
「……ああ」
恒一は短く答える。
だが。
「……」
違和感がある。
152.90
153.20
153.60
「……」
「……おかしい」
「……?」
凛が振り向く。
「何が?」
「……押し目がない」
「……」
「普通は、一度落ちる」
「でもこれは違う」
さらに上がる。
153.90
154.10
「……」
恒一の視線が鋭くなる。
「……板が薄い」
「……?」
「買いが入ってるのに」
「売りが出てこない」
凛が画面を見つめる。
「……本当だ」
「……」
さらに。
「……スプレッドが広がってる」
「……?」
「……流動性が消えてる」
空気が変わる。
「……」
これは、普通の上げじゃない。
「……」
「……政府か」
小さく呟く。
「……え?」
凛が固まる。
「……まだ早くない?」
「……」
恒一は首を振る。
「……いや」
「……もう限界だ」
その時。
“別の画面”が点灯する。
非公開回線。
「神谷くん」
低い声。
「……状況は?」
政府側の人間。
「……」
恒一は短く答える。
「……行き過ぎてます」
「……まだ耐えるべきか?」
「……」
一瞬、沈黙。
チャートを見る。
154.20
154.30
ピタッと止まる。
「……」
この止まり方。
完全に“合図”。
「……」
恒一は、静かに言う。
「……今です」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
爆発。
154.30 → 152.80
「……!!」
一気に1.5円。
さらに。
152.80 → 151.20
「……!」
止まらない。
完全な“円買い介入”。
「……来た……!」
凛の声が震える。
「……」
恒一は、すでに動いている。
「……ショート」
即座にポジション。
「……!」
チャートはそのまま落ちる。
151.20 → 150.10
+4000万
+1億1000万
「……」
「……逆らうな」
「……?」
「……国家の流れには乗るだけだ」
さらに落ちる。
150.10 → 149.20
+1億7000万
「……」
市場が、完全に支配されている。
だが。
「……」
恒一の目は、別のものを見ている。
「……」
“いる”。
「……玲奈」
その瞬間。
モニターに表示。
「……押したの、あなたでしょ」
「……」
恒一は、わずかに笑う。
「……どう思う?」
玲奈。
「……なるほどね」
「そこまで読んでたんだ」
「……」
「でも」
少し間。
「これは乗るしかない」
表示が消える。
チャートはさらに落ちる。
149.20 → 148.40
+2億3000万
「……」
だが。
ここで。
動きが変わる。
148.40
148.80
「……止まる」
「……?」
「……ここで一旦終わりだ」
「……利確」
ポジションを閉じる。
結果――
+2億5000万。
「……」
凛がゆっくり言う。
「……完璧ね」
「……」
恒一は首を振る。
「……違う」
「……?」
「……これは勝負じゃない」
「……」
「……“流れに乗っただけ”だ」
チャートを見る。
148.70
149.10
じわじわ戻る。
「……」
これが現実。
「……」
だが。
その目は、次を見ている。
「……次は」
「……?」
「……あいつを読む」




