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健康すぎる私が医療事務に!?  作者: りむ


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2/17

#2 一応……成績だけは学年で一番でした

オリエンテーションは、あっという間に終わった。


病院の理念、組織図、服務規程。正直、頭に入ったのは半分もない気がする。

でも、「命を支える現場で働く自覚を持ってください」という一言だけは、やけに胸に残った。


「それでは、各配属先へ案内しますね」


前に立っていた総務課の女性が、にこやかにそう言った。立ち姿がきれいで、声も落ち着いている。

ネイビーのベストに名札。総務課の制服も、医事課と変わらないらしい。

病院とはいえ、あくまでも事務職員なんだと紬は妙に安心した。


「医事課配属の方はこちらです」


その言葉に、紬も慌てて立ち上がった。

同時に、すぐ近くの席に座っていた女の子も静かに立ち上がる。


(あ、この子も……)


歩き出した彼女の横顔に、紬は一瞬だけ目を奪われた。


きっちりと整えられた黒髪のボブが、白い蛍光灯の光をさらりと反射している。

シルバーのメガネと切れ長の黒い瞳。

ブラウスは襟元まできっちりとボタンが留められ、ネイビーのベストは寸分の狂いもなくウエストに沿っていた。肩にシワは一つもなく、名札の位置も完璧。

ポケットの中のボールペンまで、まるで展示品みたいにきちんと揃っている。


(……真面目そう)


一目で「しっかりした人」だとわかる。

でも、紬の視線を引き止めたのは、別のところだった。


歩くたびに、整いすぎた制服が、かえって彼女の身体の輪郭を浮かび上がらせている。

ベストの布地は、丸みを帯びた身体に引っぱられるようにして、第二ボタンのあたりにかすかな緊張を滲ませていた。

タイトスカートも同じで、完璧な折り目が、腰から太ももにかけての柔らかなラインを逆に強調している。


(……すごい。きちんとしてるのに……)


真面目一辺倒な装いなのに、なぜか近寄りがたい感じがしない。

整いすぎているからこそ、そこからこぼれ出る柔らかさが目に留まる。

紬と同じはずの新品の制服は、彼女の動きに合わせて大きく表情を変えていた。


彼女は歩きながら、ふと顔を上げて軽く会釈した。

マスクの上からでもわかる白い肌と、丸みのある輪郭。

学生っぽいあどけなさを残した表情だった。


「……おはようございます。今日からですね。木崎沙耶(きさきさや)です」


落ち着いた声色に、紬は一瞬だけ言葉に詰まった。


(同い年……だよね?)


「えっ、あ、はい! 日下紬です! よろしくお願いします〜!」


少し声を張りすぎたかもしれない、と顔を赤らめつつも、沙耶に軽く会釈する。

沙耶はそんな紬を見て、小さく微笑んだ。

廊下を歩きながら、自然と二人は並ぶ形になる。


「えっと、沙耶ちゃんも、今年入ったばかりなんですか?」

「はい。3月に専門学校を卒業して、そのままこちらに就職しました」

「へぇ〜、専門学校ってことは、医療系?」

「はい。医療事務の専門課程でした。2年制なので、今年20歳です」


(20歳!……私より二つ下なのに、この落ち着き)


それに、医療事務の専門課程ってどんな感じなんだろう?


「診療報酬とか、保険制度とか……座学が多かったです」


言葉の選び方も落ち着いていて、すごく大人っぽい。

そんな沙耶の受け答えに、紬は自分のほうが年上だという事実を一瞬忘れそうになった。


「なんか、かなり頭よさそうですよね……」


そう言うと、沙耶は少しだけ視線を外して、

「そんなことはないですけど、一応……成績だけは学年で一番でした」と、照れたように口をつぐんだ。

自慢っぽくないのが、かえってすごみを感じる。


「すごっ! じゃあ、なんでもわかっちゃいますね。頼りにしてもいいですか!?」


紬が勢いよく言うと、沙耶は一瞬きょとんとしてから、小さく微笑んだ。


「いえ、実務は初めてなので……まだ、全然です」

「あ、そっか。バイトとか、してました?」

「いえ……実は、バイト経験もないんです」

「えっ……!? じゃあ、これが初めての“働く”ってやつ?」

「……そうですね。なにかと、お手柔らかにお願いします」

「そっかぁ。私、逆にバイトばっかりやってたかも」

「そうなんですか?」

「うん。高校のときからずっと。コンビニにカフェ、引越しに塾のチューターも。正直、職場によって人間関係が全然違って、社会勉強にはなったかなって感じ」

「いろんなところで働いてたんですね」

「まあね。長続きはしなかったけど!」


紬は肩をすくめて笑った。

沙耶はくすっと微笑みながらも、その言葉の中にある“現場慣れした強さ”を感じた。


そう言って、ぺこりと頭を下げる姿が、あまりに丁寧で立派。

なのに、妙に可愛らしく感じるのは、きっとその真面目さのせいだろう。


(私とは真逆だけど……)


やがて総務課の女性が足を止める。


「こちらが医事課です」


カウンターに並ぶ患者と、忙しなく動く医事課の人たち。


紬は息をのんだ。

沙耶も背筋を伸ばしている。


(それでも、この子と一緒なら……なんとかなるかも)

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