神造兵器
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「第十三次、タルタリカ殲滅作戦……?」
「おう。複数部隊で合同作戦する事になってな。俺達も、そっちに参加するよう言われたみたいなんだ」
甲板で海を眺めつつ、アルに「星屑隊の次の目的」を話す。
星屑隊はネウロン旅団本部が指定した経路を移動しつつ索敵し、タルタリカを見つけたら可能な限り倒す。そういう任務を任されていた。
他の部隊も俺達のように遊撃に回っているが、旅団の立てた作戦計画に従い、複数部隊で合同作戦を行う事もある。
それに参加するよう言われたから、他部隊との合流地点に移動中だ。
「ひょっとしたら、他の実験部隊もいるかもな~」
「大きな作戦になるんですか?」
「多分な。詳細は俺達もまだ知らないんだが、大きな巣が見つかったのかもな」
タルタリカは巣を作る。
巣といっても、そこで子育てしている様子はないが……入り組んだ場所に多数のタルタリカがうじゃうじゃいる事もある。
そういう時こそ<星の涙>の出番だ。
流体装甲による運動弾爆撃を降らせた後、タルタリカの生き残りを機兵部隊で殲滅する。繊一号に星の涙を使える方舟があるから、それが宇宙に上がり、敵の数を減らしてくれるはずだ。
「あっ! 心配するなよ? 今回は第8は出撃しなくていいから」
「えっ? そうなんですか?」
「隊長がそう判断した」
巫術師による機兵運用実験が決まったとはいえ、実戦に出たのはフェルグスとアルだけ。アルに関してはほぼ一瞬の出番だった。
模擬戦での動きを見るに、それなりにやっていけそうではあるが――。
「お前らもまだ機兵に慣れてないし、俺達もお前達に機兵を動かしてもらう作戦に慣れてない。他部隊と足並み揃えて作戦に挑むのも難しいから、お前達は隊長達と留守番だ」
「ラートさんと一緒にいられないんですか……?」
「直ぐに帰ってくるって~!」
今度の殲滅作戦は、内地奥深くの作戦になるはずだ。
そんな場所での作戦に、アル達を連れていくわけにはいかない。
ヤドリギによる憑依可能距離延長があるとはいえ、それも限界がある。内地奥深くでの戦闘になるとアル達も陸地に上がってもらう事になる。
こちらには機兵の混成部隊がいるとはいえ、敵がどこから襲ってくるかわからない。アル達は常に鎮痛剤を使わないといけないような場所だ。
アルが教えてくれた妙なタルタリカの群れ……ニイヤドで明星隊を襲ったタルタリカみたいに、人間的な戦術を使ってくる奴が出る可能性もある。
海辺での戦闘ならともかく、危険な内地に連れていけるもんか。
隊長がそう判断してくれて、本当に良かった。
「危険な作戦なんですよね?」
「こっちも機兵の数を揃えるから大丈夫だよ」
心配そうなアルを落ち着かせていると、警報が鳴った。
索敵中のドローンが、タルタリカの群れを見つけたらしい。その対応のため、機兵対応班と第8が動くよう言われた。
殲滅作戦は機兵対応班だけで行くが、殲滅作戦参加までの道中で運用実験は続ける。ということで――。
「出番だ、アル。格納庫に行こう」
「はいっ!」
アルを連れ、格納庫に向けて歩き出すと――。
「げっ……。雨か」
雨粒がボタボタと降り始め、一気に大雨になった。
この大雨の中、出撃するのは少し面倒くさいなー……。
まあ、殲滅作戦参加のためにさっさと移動しないといけないし、雨が止むのを待つ余裕はない。さっさと片付けちまうか。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「今日は誘導に手こずってるみたいだな」
「この雨だからなぁ……。海辺で楽に迎え撃つのは難しいかもな」
「少し手こずりそうだね」
格納庫にて、レンズとパイプと言葉を交わす。
アル達は念のため、ヴィオラに軽めの鎮痛剤を打ってもらっている。
多用は厳禁だが、流体甲冑使っている時のような重い薬じゃない。アル達の身体は船に乗せて沖合で待機してもらうから、今回も大丈夫だろう。
遠くアルがヴィオラと話しているのを横目で見た後、端末で地図を見る。
そこにドローンとタルタリカの群れの位置が表示され、更新され続けている。
タルタリカの群れが少しずつ、こっちに近づいてきているが――。
「あっ、群れがバラけたな」
「オペレーター共、誘導が甘いぜ」
「雨だから仕方ないだろ。タルタリカの鼻先を飛んでいたら、投石で撃ち落とされる危険もあるんだから」
「オレ達はタルタリカの鼻先で戦うんだぞ」
「ドローンと機兵の装甲は別物だろ? 仕方ないって」
ドローンにタルタリカの群れをおちょくらせ、船からもサイレンを鳴らしているが、タルタリカの食いつきがイマイチ悪い。
タルタリカは水に弱い。
海みたいに大量の水がある場所に入ると、身体を維持できなくなって溶けちまう。余程の長雨が続かないと雨では死なないらしいが、それでも活動は鈍る。
雨による視界不良もあって、タルタリカ側もちょくちょくドローンを見失っているみたいだ。これは機兵を陸地に上げて対応しなきゃダメっぽいな。
「ハァ……。こんな雨の中で獣狩りせにゃならんとは……。せめて雨が上がるまで待ってほしいぜ」
レンズがため息をつき、億劫そうに呟いた。
「タルタリカは放っておいても交国本土まで侵略してくるわけじゃないんだ。戦力割けねえなら、腰を据えてじっくり狩りゃいいのに……」
「レンズだって『早く殲滅して、最前線に行きてえ』って言ってるじゃん」
「そりゃあ早くネウロン以外の最前線に行きたいけど、その前に馬鹿指揮官の仕切りの所為で死んだら元も子もないだろ。……あ、馬鹿指揮官っていうのはウチの隊長じゃなくて、タルタリカ狩りの方針決めてる久常中佐の事な」
「ははっ……」
ネウロン旅団の長。久常中佐。
護衛をケチり、玉帝の派遣した研究者を危険に晒した一件で、久常中佐が処罰された――という話は未だ聞かない。
それ以外にも「久常中佐が口出ししてきた所為で、ネウロン旅団に被害が出た」という話が流れてきてるが……処分が下される様子はない。
ただ、現場の兵士の中には「久常中佐は無能」という噂が流れている。
まあ、「タルタリカ殲滅を急ぐ」という方針を打ち立て、「現場の兵士の安全性はあまり考慮しない」作戦行動をさせて……現場を消耗させていたらそう言われるのも無理のない事だろう。
久常中佐だけが悪い――とも言い切れないと思うけどなぁ……。
ネウロンを後回しにして、大した戦力を派遣しない決定をしたのは軍上層部だ。
対プレーローマ最前線に戦力割きたいから、緊急性の低いネウロンを後回しにしている判断理由も納得出来るが……。現場の人間は文句言いたくなるだろうな。
軍で一番エラい人間より、手近な久常中佐を叩きたくなるのもわかる。
久常中佐も久常中佐で困っていて、焦っていたりするんだろう。中佐にも色々と考えがあるはずだ。……多分。
「次の殲滅作戦、結構奥地まで行かされるはずだ。海辺ならいつでも海に逃げられるが、水辺の限られる奥地だと相当キツくなるぞ」
「前は待機している機兵部隊のとこに、<涙>の流れ弾が来て大変だったよね」
「そうそう……。方舟の奴らが悪いのに、その後の体勢立て直しがもたついていたって難癖つけてきたからな。久常中佐」
レンズは不愉快そうにムッとしている。
「あの時の方舟に久常中佐も乗ってたらしい。そんで、『もっと大量に涙を放て』って中佐が命じた所為で流れ弾が来たって話だ。やってらんねえよ」
「まあまあ、そりゃあくまで噂だろ? 死者出なかったんだから良かったじゃん」
「今回はわかんねえぞ? 最近、旅団は被害続出してるみたいだからな」
レンズはその責任が久常中佐にあると思っているらしく、不愉快そうな顔のまま、中佐について語りだした。
「久常中佐は自分の無能さを棚上げして、上に頼んでるらしいぜ。神器使いをネウロンに派遣してくれ~って」
「神器使いがいたら心強いな」
「来るわけねえだろ、ネウロンくんだりに。神器使いが」
「あっ、副長」
呆れ顔の副長がやってきて、待機中の輪に入ってきた。
短く「誘導が上手くいってねえ。今回は1キロ以上、陸に上がるぞ」と言った。
「で、何を話してたんだ、お前らは。上官の批判か~?」
「そうですよ。まあ上官といっても久常中佐の話ですが」
真っ正直に言ったレンズの額を、副長の手がペチンと叩いた。
「バカ野郎。オレ相手だから良いが、上の批判をホイホイ口にするなよ~」
「副長相手だから言ったんですよ~……。副長だって、久常中佐のこと無能だと思ってるでしょ? 玉帝の威光に頼り切りの無能だって」
「まあな。それでも、今は……従うしかないさ」
「死ぬなら自分の操縦で死にたいですよ。それなら諦めがつく」
そう言って俯いたレンズのこめかみを、副長の親指がぐりぐりといじる。
副長は苦笑しつつ、「まーだ文句を言ってんのか。テメエは」と言った。
「でも、だって、オレがお守りするのって、よりにもよってあのガキですよ?」
「公正にくじ引きで決めただろうが」
「副長とラートは指名で決めたのに~……!」
「ラートは第8の信頼を勝ち取って逆指名。オレは問題児を引き取っただけだよ」
星屑隊の機兵は4機。第8の巫術師は4人。
俺達、機兵対応班が機兵に乗り込み、巫術師は4機の機兵をそれぞれ憑依・操縦する。機兵対応班は操縦席から指示や助言を出す事になった。
俺の機兵には、アルが憑依する。
隊長が子供達の希望を聞いたところ、アルが勢いよく手を上げ、「ボク、ラートさんと一緒がいいですっ!」と言ってくれた。
俺もアルと一緒がいい! 一番の仲良しだし!
ただ、ちょっと心配なのは――。
「副長……。ホントにフェルグスとのペアで良かったんですか?」
「オレ以外に担当できる奴がいるか? お前はあのクソガキに舐められてるし、逆指名されてたし……。まあ、何とか躾けてみせるよ」
副長の機兵には、フェルグスが憑依する。
今のところ、フェルグスが第8で一番、機兵の操縦経験豊富だ。射撃能力に問題があるが、射撃する時は副長が代わればいい話だ。
ただ、性格にも難がある。
フェルグスは俺達の事が大嫌いだ。俺は罵倒されるの慣れっこだから、フェルグスを受け持とうと思っていたが……副長が自分で手を上げて指名していた。
「ラートと組んだ方が、あのクソガキもノビノビやれるだろうが……。オレ達は遊んでるわけじゃない。軍隊としての振る舞いを身体に教えてやらねえと」
「あ、あんまり厳しくしないでくださいね? 相手は子供ですよ」
「ガキだからこそ厳しくするんだ。アイツ自身のためにもならん」
部隊の先輩達曰く、星屑隊で一番怖いのは隊長だ。
けど、副長も怒ったらそれなりに怖い。
フェルグスがボッコボコにされなきゃいいなぁ……。
いや、副長も子供相手には手加減するだろ。大人相手に手を出す事も無いし。
「副長~。オレ、あのクソガキでもいいから、今からでも担当変わってください」
「ダーメ。レンズはグローニャ担当で決まりだ」
「ぐぅぅ……。よりにもよって、女児担当かよぉ~……!」
ロッカとグローニャの担当は、くじ引きで決まった。
グローニャはレンズの機兵に憑依する。
ロッカはパイプの機兵に憑依する。
2人はフェルグスみたいに気性が荒くないから、上手くやれるはずだ。レンズはグローニャみたいな子、苦手だろうけど。
「パイプ! お前でいいから代わってくれ!」
「え~……。僕も、女の子はちょっと……」
パイプは苦笑いを浮かべ、「レンズは妹さん達いるから、女の子の扱いは慣れてるでしょ」と付け加えた。
そのパイプの後方で、シャチのぬいぐるみを持ったグローニャが「うお~! シュチュゲキだぁ~!」と言って騒いでいる。
……フェルグスとは別の意味で苦労しそうだ。
「おっ? おじちゃん達、どうかしたのん?」
俺達の視線に気づいたグローニャが「トコトコ」と歩み寄ってきた。
レンズが嫌そうな顔を浮かべながら「こっち来んな」と呟いたが、グローニャはぬいぐるみを抱っこしながら遠慮なく近づいてくる。
「でもいま、グローニャの話してなかったぁ?」
「してない。あっち行け!」
「あっ、わかったぁ! レンズおじちゃん、グローニャのぬいぐるみが気になってるんでしょぉ?」
グローニャは得意満面でぬいぐるみを掲げ、見せつけてきた。
「この子、触りたいのん? 触らせてあげよっかなぁ~~~~?」
「いらん。どっか行け」
「触らせてあーーーーげないっ!」
「う、うぜえ……!!」
「まあまあ……」
レンズはさらに表情を歪め、パイプになだめられ始めた。
まあ、さすがに手を出したりしないだろう。
レンズは自分の手を大事にしてるし、人はそうそう殴らない。手を壊して操縦や銃の扱いに支障出るのが嫌らしいからな。ましてや、相手は子供だ。
「ムフフン♪ レンズおじちゃん、今日はグローニャが守ったげる♪」
「いやだ~……!! こんなメスガキに機兵を預けたくねぇ~……!!」
「え~! そんなこと言うんだぁ! タイチョーさんに言いつけちゃお☆」
「カ~~~~ッ!! クソがぁ……!! つーか、オレは『おじちゃん』じゃねえ! ラート達と同年代だし、ここは軍隊だぞ!? 階級で呼べ!!」
「ヤダぷっ!」
イライラしているレンズを、ちょっとだけヒヤヒヤする。
レンズも怖いが、副長も怖い。副長は笑っているが、グローニャにも「おいガキ、躾けの時間だ」とか言いそうで怖い。
「ねーね! ラートちゃんラートちゃん!」
「おっ、おうっ! なんだ!?」
駆け寄ってきたグローニャに対し、膝を曲げて視線を合わせて応じる。
さりげなく、副長とグローニャの間の衝立にもなっておく。
「ラートちゃんに質問あるのんっ!」
「なんだ? 機兵に関することか?」
「んーん。この子を作ってくれた人、教えてほしいの~」
グローニャはそう言い、シャチのぬいぐるみを掲げた。
作ったのはレンズだ。
けど、レンズ本人に「言うな」って言われてるし――。
「――――」
レンズの圧を感じる。
ここで教えたら、絶対怒るよな……。
「作った人かぁ……。わからねえ。工場とかで作ったんじゃねえのかなぁ?」
「でも、ラートちゃん、手作りって言ってた~!」
「そっ、そうだっけ?」
「ドロ~ンはバレットおじちゃんの手作りなんでしょ? ひょっとして、ぬいぐるみも船の誰かが作ってくれたんじゃ――」
やばい。聡いぞ。
グローニャの背後に回り込んだレンズが、腕組みしながら無表情でこっちを睨みつけてくる。圧が酷くなっている。
絶対に言うな、って事だろう。
「ええっと……! いやぁ、それは、この間の町で買ったんだよぉ……」
「えぇ~っ! そうなのん? でも、手作りなんでしょ?」
「み~……店の人に聞いたんだ! 誰が作ったのかまでは、わからねえよぉ」
「むーっ! そうなのんっ?」
グローニャはつまらなそうな顔を浮かべた後、ぬいぐるみを指先でイジりつつ、「誰が作ったんだろぉ……?」と言いながらトテトテと去っていった。
秘密は守ったぞ。頼むからレンズ、もう睨むのやめてくれ……。
冷や汗をかきながら半笑いで立ち上がると、パイプがレンズに話しかけた。
俺と同じく、ぬいぐるみの作者を知るパイプが声をかけた。
「……レンズ。あんな邪険にしなくてもいいじゃない? 相方になる子だよ?」
「誰が相方だ! くそっ……。つーか、パイプ! お前だって巫術師に機兵を任せるの嫌がってたじゃねーか」
「うん、まあ、今でも思うところはあるよ」
パイプは腰に手を当てつつ、言葉を続けた。
「でも、それは僕個人の感情だ。隊長が運用実験を認めた以上、部下の僕達が好き勝手言うのは軍人としておかしいよ」
「そりゃあ……そうかもだが……」
「正確には別部隊だけど、彼らはもう僕らの仲間なんだ」
だから歩み寄っていこう。
パイプはいつも通りの真面目な表情を浮かべ、そう言ってくれた。
正直……もっと拒否反応を示されると思ったんだが、そう言ってくれるのは助かる。レンズの不満げな顔は気になるが、胸をなでおろす。
「オレはガキの事は認めねえよ。……隊長の命令には従うが」
「ハァ……。どっちが子供なんだか……」
「なんだとぉ……!!」
「はいはい、ケンカはやめような……!」
パイプとレンズの間に割って入る。
子供達は模擬戦で勝利した。隊長も運用実験を後押ししてくれている。
けど、レンズは完全には納得してくれてねえようだ。
まあ、一番反発してたし……受け入れるまで一番時間がかかるかな?
「チッ……! オレら、今日で戦死するかもなぁ。あんなガキ共に機兵を預けなきゃいけないんだからよぅ」
「危うい時は操縦を変わればいいさ」
フェルグスもアルも、射撃は下手だ。
俺の機兵に軽く憑依してもらった感じ、ロッカとグローニャも似たようなものだった。全員、訓練と経験を積まないとダメだろう。
コツを掴めば話は別だが、射撃は感で出来るもんじゃねえ。
ただ、アイツらは鍛えればグッと強くなるはずだ。
「巫術の感知能力は凄いぞ。雨で視界が悪かろうと、どこに敵がいるか魂で判別できるからな。今日はそこまで大規模な群れ相手じゃないんだ。あの子達がどこまで出来るか見守ろうぜ」
「ケッ……!」
レンズは不機嫌そうなツラを浮かべ、自分の機兵へと向かっていった。
副長が「おーい、出撃前の最終確認……」と呟いたが、直ぐに「まあ、操縦席でやればいいか」と言い、レンズと同じく自分の機兵に向かっていった。
パイプは直ぐに自分の機兵に向かわず、ロッカの方に歩いて行き、声をかけていた。少し言葉を交わした後、ロッカを機兵の方へ案内し始めた。
レンズ以外は、とりあえず問題なさそうだが……。
「ふぅ……」
「ご、ごめんなさい」
「うおっ!? あぁ、アルか。いつの間に」
いつの間にか、隣にアルがいた。
申し訳なさそうな顔で俺を見上げている。
「ボクらの所為で、ケンカさせちゃって、ごめんなさい……」
「アレぐらい、いつものじゃれ合いだよ。気にするな」
アルの頭を撫でつつ、「行こうぜ!」と誘う。
副長もパイプも巫術師を受け入れてくれている。
レンズは実力で黙らせればいいんだ。
アイツも巫術師の力は……一応、認めている。
いつかわかってくれるはずだ。
俺は操縦席に乗り込み、アルには憑依してもらう。
憑依を終えた子供達の本体が医務室に運ばれていくのを見送りつつ、副長から今回の作戦について簡単に説明を受ける。
作戦内容はいつもと変わらない。
違うのは、操縦者が子供達という事。
『第8、とりあえずお前らに任せる。好きに戦ってみろ』
『はいっ!』
『は~いっ!』
『うっす』
『チッ! 仕方ねえなぁ~~~~!』
『――フェルグス。お前、上官に対する口の利き方がわかってねえようだな』
『ひぇっ……』
副長の通信が切れる。
どうやらフェルグスとタイマンで「話し合い」を行うみたいだ。
大事になりませんように……とアルと一緒に祈りつつ、出撃まで待機する。
ドローンによる誘導をまだ試みているようだから、それが終わるのを待つ。いつもならもう出てるが、今回は子供達に任せるから隊長も「いざという時」に備え、出来るだけ海辺で戦わせてくれるつもりらしい。
「さーて……。アル、何か質問とかあるか?」
『えっと……。作戦のこと以外でもいいですか?』
「おう? なんだ?」
『ジンキ、ってなんですか? たまに交国の人が言ってるけど……』
どうやら俺達の会話、そこそこ聞かれていたらしい。
少し気まずい気分になりつつも、神器についての説明を始める。
「ええっと……。神器っていうのは、一言で言えば兵器だ」
それ1つで戦況を大きく変える個人兵器。
それが神器だ。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
「神器の正式名称は<神造兵器>と言う。その名の通り、神が……源の魔神が作ったとされる兵器だ」
源の魔神。
プレーローマを作り、人類を苦しめている悪い神様。
源の魔神本人は亡くなったらしいけど、奴が作ったプレーローマは今も人類と敵対している。そして神器もこの世に残っている。
「要はプレーローマ側の超兵器なんだが、何らかのキッカケで多次元世界中に流出したみたいで、交国も結構な数を確保してるんだ」
『へぇー……。どれぐらいスゴい兵器なんですか? 機兵と同じぐらい?』
「いやいや、機兵よりトンデモねえよ! 機兵換算で1000機……いや、物によっては一万の機兵でも足りねえ強さだよ!」
『そんなスゴいんだ……』
「それも個人武装の大きさで、恐ろしい戦果を叩き出すんだ。性能はそれぞれ違うが、山を消し飛ばしたり、海を飲み干したり、空を切り裂いた神器もあるらしい」
とにかくスゴい武器なんだ。
ボクが知ってるスゴい武器といえば、虹の勇者のカレトヴルッフだけど……アレも実は神器だったりして?
「スゴいけど特殊な武器でな。使い手も選ぶんだよ」
『誰でも使えるわけじゃない……って事ですか?』
「そうだ。神器を使えるのは<神器使い>だけだ。それも、神器使いごとに使える神器は異なる。専用の武器なんだよ」
『使えない人が使おうとしたら、どうなるんですか?』
「死ぬ」
『死ぬ!?』
「最悪、死ぬ。神器に魂を食われてな。本来の使い手じゃなくても無理矢理使えるヤツもいるらしいが、耐性があるだけで最終的に神器に殺されるんだとよ」
ボクらが鎮痛剤を使い過ぎちゃいけないみたいに、多少は耐えられても、「本物の神器使い」じゃないとダメなのかー……。
「使える人間が限られるけど、強力な兵器だから使えるヤツは重宝される。だから大抵の国が、どんな大罪人だろうと神器使いなら受け入れて許す」
『…………』
「世界をひとつ滅ぼした異世界人だろうが、国の重要な戦力として大事にしていく。交国にも……そういう元罪人の神器使いが何人かいる」
交国軍とかで大活躍して、出世してるみたい。
それってどうなんだろう……と思った。
ラートさんもそう思っているのか、歯切れが悪い。
多少悪い人でも、強ければ許しちゃうって事だよね。それだけプレーローマとの戦いが大変なのかなー……。
『なんというか……色んな意味で怖いんですね。神器』
「だな。味方にすると心強いんだけどな」
『ネウロンには来てくれないんですか? 神器使い』
「ウーン……。難しいと思う」
偶然、通りがかりでもしないと難しいみたい。
交国にとって、ネウロンはそんなに重要じゃないんだろうなー……。
だから、わざわざ神器使いを派遣したりしないんだ。
神器について話をしていると、星屑隊の副長さんが「そろそろ出るぞ。最終準備整えろ」と言ってきた。
『ラートさん、流体装甲、展開しますねっ』
「おうっ。頼んだ」
装甲をキチンと出して、ラートさんもしっかり守る。
今日はボクが機兵を任されてる。頑張らなきゃ!
大丈夫。模擬戦で戦ったレンズ軍曹さんは強かったけど、今日はレンズ軍曹さんと戦わなくていいし……にいちゃん達もいる。
ラートさんもいる。
「俺とお前が組んで戦う初めての実戦だ。……今日も緊張してるか?」
『は、はいっ』
「今日はいつでも俺が交代してやれるからな。キツい時はいつでも言ってくれ。俺はお前ほど上手く機兵を動かせないが、戦い方はわかる。手本が必要ならガッツリと見せてやるからな!」
『はいっ! でも、最初はボクにやらせてくださいっ……!』
ラートさんも皆も守って、いっぱい活躍するんだ。
ここで頑張れば、ラートさんと一緒に殲滅作戦に行けるかも……。
ボクが「役立つ」って認めてもらえば、もっとラートさんと一緒にいれるかも。
それに……頑張ったら、にいちゃんも、ボクのこと、褒めてくれるよね?
模擬戦の時はあんまり褒めてくれなかったけど……今度こそ……!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狙撃手のレンズ
「おい、チビガキ」
『むぅ! グローニャはグローニャだよ!』
「ちょっと相談があるんだよ。……機兵はオレに任せろ」
お前は索敵に集中しろ、と言う。
『えー? でも、グローニャが機兵を動かせって言われて……』
「オレの言う事をよく聞けって言われなかったか?」
『言ってたかも~?』
「じゃあ、オレの言う事を聞くべきだよなぁ?」
『んににっ……!? そ、そうかも……?』
機兵の操縦権を奪う。
最近、イライラする事が多い。
タルタリカ相手に暴れて、発散させてもらおう。
「ダスト2。ダグラス・レンズ。出るぞ!」
『出るぞ~~~~っ!』




