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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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まねっこ



■title:ボイル地方にて

■from:星屑隊のパイプ


「うん、いいよ。落ち着いて。傍に敵がいない時は立ち止まって撃っていいよ」


 ロッカ君に機兵の操縦を任せ、指示に徹する。


 人が操縦する機兵に乗るのは、初めてじゃない。


 軍学校時代、教官の操縦する機兵に乗せてもらい、「機兵に乗る感覚」を教えてもらった時に吐くほど経験した。


 ただ、実際の戦場でやるのは初めてだ。


 正直、子供に自分の命を握らせているだけで冷や汗が出てくるけど……想像していたより悪くない。分野によってはロッカ君の方が僕より上手いかもしれない。


「敵が来てるね。ひとまず下がろうか」


『わかってる……!』


 事前にラートの機兵で練習していただけあって、ちゃんと操縦できている。


 フェルグス君やスアルタウ君ほど上手くはないけど、この子も素人とは思えないほど上手く機兵を動かせている。さすが巫術師だ。


 けど――。


「これ以上下がると、味方の後ろに敵を通しちゃうよ。早めに倒そう」


『くっ……!』


 ロッカ君が発砲する。


 発砲したけど、放たれた弾はどれもタルタリカの頭上を通り過ぎていった。


 この子も射撃は下手だ。


 フェルグス君とスアルタウ君と同程度の下手さだ。思考だけで機兵を動かす巫術師といえど、放たれた弾丸までは面倒見切れないらしい。


「操縦変わって」


 一時的に操縦権を貰い、こっちで射撃する。


 近づいてきていたタルタリカ2体が黒い血肉を撒き散らしながら倒れる。まだ1体いるけど、その突撃はジャンプして回避し――。


「ロッカ君。近接戦闘でいい。とりあえず1体仕留めてみよう」


『わかった!』


 流体装甲で斧を生成したロッカ君が飛び込み、斧を振り下ろす。


 こちらに飛びかかってきたタルタリカが真っ二つにされ、死んでいった。


 近接戦闘能力は悪くない。星屑隊で一番弱い僕より上手かも?


 ラートがこの子達を推したのは、単なる感情論だけじゃない。巫術師には戦場を変える可能性が確かに眠っているようだ。


『ごめん。これでやっと1体……』


「気にしないで。初の実戦なんだ。死なないことを――いや、僕達を死なせないことだけ意識してくれればいいよ。危なくなったら皆と一緒に海へ逃げよう」


『わか――――』


 機兵に衝撃が走る。


 タルタリカに体当たりされた。


 さっき、僕が撃ったタルタリカ。まだ死んでなかったらしい。


 再生した身体で体当たりを仕掛けてきた。


 4メートルのケダモノの体当たりにより、機兵が体勢を崩す。けど、ロッカ君は倒れながら機兵を動かし、片手を地面につきつつ、側転して立て直した。


「トドメを――」


 トドメを刺す必要はなかった。


 降り注ぐ雨を弾きつつ飛来した弾丸が、タルタリカの頭を吹き飛ばした。


 そこに(コア)があったらしく、そのまま動かなくなった。


 ダスト2の狙撃だ。


 こっちを援護してくれたらしい。


 けど、今の狙撃……。


『た、体当たりされちまった。今の、大丈夫かなぁ……!?』


「大丈夫だよ。あの程度の衝撃じゃ、機兵は倒せない」


『でも、機兵が傷ついたらバレット達が大変じゃんか!』


 ロッカ君の返答に、少し笑ってしまう。


 操縦席にいる僕の心配より、整備士の心配か……。


 ちょっとだけ傷つくけど、まあいい。


「フレームに異常があれば、キミ達なら直ぐ気づくだろ? 異常はあるかな?」


『えっと……無い!』


「じゃあ戦闘続行だ。敵はまだまだいるよ。頑張ろうか」


 今は戦闘に集中してもらう。


 ダスト1とダスト3が前に出て敵を蹴散らし、ダスト2は戦場全体を射撃でカバーしている。僕らは一番楽な後方警戒だ。


 楽だけど、僕達が倒れると一気に崩れる可能性もある。


 集中してもらわないと。


「…………」


 ロッカ君に戦闘を任せつつ、ダスト2の様子を見る。


 ダスト2は、いつもと同じく狙撃で援護してくれている。


 狙撃はしっかり命中し、順調に敵の数を減らしている。


 順調すぎる。


 レンズ……。キミ、やってるな(・・・・・)




■title:ボイル地方にて

■from:狙撃手のレンズ


『レンズおじちゃ~ん、これでいいのぉ~?』


「おじちゃんじゃねえ。軍曹だ! オレはおじちゃんって歳じゃねえ!」


 クソちびガキを叱りつつ、狙撃する。


 前衛として戦っているダスト1とダスト3の側方に迫っていたタルタリカの群れを次々撃ち殺していく。


 大雨による視界不良があるが、ちびガキの巫術観測で敵の位置は丸わかり。オレにもわかるよう「魂の位置」をディスプレイにプロットしてもらう事で、いつも以上に狙撃が決まっている。


 敵の魂を狙い撃つ事で、確実にタルタリカの脳を潰せてる。


 巫術はなかなか便利だ。敵の位置がわかるだけじゃなくて、しぶといタルタリカを少ない弾で仕留められるのはクソ便利だ。


 あのヴァイオレットって女が機兵のシステムをイジったって聞いた時は「ふざけんな!」と思ったが――。


「悪くねえ」


 巫術師の見ている景色を、ディスプレイに疑似再現しているコレは悪くない。世界の解像度が上がってる。狙撃による援護もやりやすい。


『レンズおじちゃ~ん! 後ろ後ろ! 後ろからもタルタリカが来てるよ!?』


「わかってる。見えてる。騒ぐな! そっちはダスト4がいるだろ」


 ダスト4――パイプの機兵が敵に向かっていく。


 さっきは少し手間取っていたが、今度はキチンと敵を殺してみせた。射撃はド下手くそだが、それ以外は悪くない。


「…………」


 機兵の動きがパイプらしくない。


 ダスト1とダスト3の動きも、いつもと違う。


 全員、巫術師に操縦を任せてる。


 全員、射撃がド下手くそだ。近接戦闘や移動は悪くねえが――。


「気持ちわりぃ……」


 慣れ親しんだ星屑隊の機兵対応班が、まったくの異物に変わってる。


 オレはテキトーに丸め込み、索敵だけやらせてるが……他の機兵がいつもと違う動きをしていると、「気持ち悪い」という感想が湧いてくる。


 巫術師の操縦技能は悪くない。


 射撃は全然ダメだが、他である程度は補えている。戦場に出てきたばかりの機兵乗りよりはマシだが……やっぱ気持ち悪い。


「――おい、チビ。あそこの森の中のタルタリカの位置把握精度を上げろ」


 オレの狙撃である程度間引いた甲斐もあり、周囲の機兵もかなり減ったが……まだ森の中にそれなりの数がいるらしい。


 せっかく、擬似的に巫術観測が使えているんだ。


 それを使って仕留めてやる。


『ぷん! グローニャ、チビって名前じゃないもんっ!』


「いいから……さっさとしろ」


『セイド上げるって、なぁに? わかる言葉で話してねっ! ばかっ!』


「だああああああああああッ!! めんどくせぇ~~~~っ!! あの森の中にいる敵の位置の割り出しに集中しろって言ってんだよ!! 他は片付いてきたから、まだ森の中にいるヤツに対処しとくんだよボケ!!」


『うにゃっ……! うぅぅぅ~……! お、怒るのやだぁっ! やだやだっ!!』


「ぬおっ……!? こ、コラ! 機兵、勝手に動かすな……!」


 機兵がオレの意志に反し、駄々っ子のようにジタバタする。


 模擬戦の時と同じだ。一気に操縦権を奪われた。


 くそっ、仕方ねえ……。


「ま、まだ森の中にいるタルタリカを、今のうちに仕留めておきたい……。森の中にいるタルタリカの位置を、教えてくれ」


『ぷぅ……』


 ちびはまだ怒ってる様子だったが、仕事はした。


 森の中にいる敵の位置が、次々と割り出されていく。


 巫術師に見えている視界が、さらに深く、反映されていく。


「――――」


 ディスプレイ上の光点(たましい)に向け、弾丸を放つ。


 一拍置き、光点が消える。


 ああ、これは確かに悪くない。単なる索敵補助として使うなら、巫術師の存在も悪くない。……あやす必要あるのはクソだが。


「次――」


 次の目標を仕留めていく。


 森の中にいるタルタリカは、森から出ているタルタリカと違ってオレ達の位置を正確につかめていない様子だが……森経由で回り込んで来ると面倒だ。


 さっさと仕留めておこう。


 巫術師を利用して――。




■title:ボイル地方にて

■from:甘えんぼうのグローニャ


『わっ! わっ……! レンズおじちゃん、撃つの上手~!』


「――――」


『……ぷぅ』


 せっかく褒めてあげたのに、おじちゃん無視する。キライ!


 グローニャがガンバって敵探したのに……。キライキライっ!


 でも……撃つのはスゴく上手。


 上手で、きれい。


『…………』


 自分の機兵(からだ)がキビキビ動くのを感じる。


 レンズおじちゃんが動かすのに任せながら、それをよく覚えていく。


 そっかぁ。


 こう動かせばいいんだぁ。


 こう動かせば、弾が当たるんだ。


 なるほど。わかった(・・・)




■title:ボイル地方にて

■from:狙撃手のレンズ


「よしっ……!」


 森の中にいるタルタリカは、大体仕留めた。


 ちびの索敵が正確なら……の話だが。


 この調子で残りもバンバン撃って、いつもみたいにオレが――。


『ダスト2。グローニャ特別行動兵に機兵を任せろ。……命令に背く気か?』


「うっ……。す、すみません……」


 隊長からの通信。さすがにバレるか。


 まあ、敵は半数以上、仕留めた。


 これだけ仕留めたら後はガキ共でも十分やれるだろう。


「チッ……。おい、ちび」


『んにゃ?』


「お待ちかねのオモチャの時間だぞ。少しだけ、オレの機兵で遊ばせてやる」


『えっ! グローニャも動かしていいのん!?』


「少しだけだぞ。壊すなよ!」


 操縦が再び奪われる。


 気持ち悪さが増す。


 ああ、どうせコイツも見苦しい戦い方をするんだろうな……。


『レンズおじちゃん、どの子から撃てばいいの?』


「好きに撃て。どうせ、当たらない――」


 ダスト4に迫っていたタルタリカに風穴が開いた。


 立て続けに1、2、3発の弾丸が飛ぶ。


 その全てがタルタリカに命中。


『――――』


 ちびは「もう仕留めた」と言いたげに視線を切った。


 タルタリカは脳を潰さない限り、再生する。


 普通の機兵乗りなら有り得ない動き。


 普通なら、再生しない事をちゃんと確認してから動く。


 だが、コイツらには見えている。


 魂が見えている。


 敵の生死を、瞬時に判別できる。


 それはわかっていたが、なんだ、この――。


『えいっ! えいっ、えいっ……!!』


 気の抜けるかけ声と共に、ちびが弾丸を放つ。


 それが次々とタルタリカを仕留めていく。


「おい、待て。お前、素人だろ!? 射撃下手くそだろ……!?」


 他の奴らと明らかに違う。


 射撃精度が、他の巫術師と全然違う。


 というかこの打ち方、まるで――。


『ふぅ――――』


 ちびが森の方に向け、狙撃銃を構える。


 そこから飛び出てきたタルタリカが、右から順に倒れていった。


 10発の弾丸が全て突き刺さり、10体のタルタリカが肉塊に変わった。


『わっ……!? レンズおじちゃんの真似したら、当たるんだね……』


「はぁ…………?」


『さっき「お手本」を見せてくれたでしょ? それのまねっこ!』


「――――」


『タルタリカの皆、ごめんね。グローニャ、がんばるから。痛くしないから!』


 一撃でタルタリカが倒れていく。


 正確に脳を打ち抜かれ、バタバタと倒れていく。


 こいつ、オレの操縦を機兵(からだ)で覚えたのか。


 この短時間で?


 きもちわるい。


 なんだ、こいつは。


 オレが血反吐を吐いて辿り着いた領域に……こんな、あっさり……。


『ダスト2。グローニャ特別行動兵に任せろと――』


 違う。


 オレじゃない。


 オレの狙撃なのに、オレじゃない。


 ……こんな一瞬で技を盗まれるなら……オレの努力は、なんだったんだ?




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