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婚約破棄とブチ切れ令嬢(1)

 私は思考を巡らせる。目の前でブルブルと震え上がり、間抜け面をしているこの男二人にどう一発お見舞いしてやろうか、と。

 さすがに温厚な私でもここまでされては黙っていられませんもの!


わたくし、ブチ切れましたっ!」


 なぜ、私がここまで怒りの感情に身を委ねているのか、それは遡ること昨夜のパーティーでのこと。


 私、ローズアリス・カルマ。カルマ侯爵家の次期当主。そんな私にも将来の伴侶となる方がおりますわ。ライウス・オーヘル様。オーヘル公爵家の次男で同い年。金髪の癖毛が特徴の美男子です。私の好みではありませんが、家同士のことなので仕方なく了承した。だから、彼が誰と付き合おうが興味がありません。それはあちらも同じでしょう。ですが、公式の場でくらいちゃんとしてほしいものですね。


 今夜開かれているパーティーは私達が通う学園主催のパーティーです。学園に通う生徒たちが社交を学ぶ場として開かれているものだからといって、婚約者である私を一人で入場させて、自分は別のパートナーを連れて先に入場。それも、なんの連絡もなし。完全に事後承諾。これがどういうことかわかっていないのでしょうね。

 私が入ってきたことも気づかずに目の前の女性に夢中。そして、そんな二人を羨むように見る婚約者。と、周囲の方は思うのでしょうね。まったく、これが紳士のすることですか?

 私は仕方なく彼らに近づく。会場のざわめきもあの方達の耳には入っていない。完全に自分たちの世界に入り込んでいます。呆れを通り越して羨ましいですわ。

 わざとらしくヒールを鳴らして彼らに近づく。

 その音を聞いて他の方たちは成り行きを見届けるように黙る。余計にヒールの音が響く。

 近くまで来てやっと私の存在に気づいた二人がこちらを向く。


「ごきげんよう。ライウス様。それに……」


 ちらりとライウス様の隣にいる女性に目を向ける。するとライウス様は彼女を自身の背に隠してしまわれました。


「アリスっ……」


「ライウス様。私、ずっと待ってましたのよ。それなのに、他の方と入場されたと聞いて慌て一人で入場しましたの。せめて、前もってお話ししてくだされば他の方にエスコートをお願いしたのに……」


 わざとらしくショックを受けているように装いますが、言葉はそんな意味をそんな意味を込めてません。そのことにこの方は気づかれるのでしょうか?


「アリス、すまないとは思っている。直前までは君をエスコートするつもりだったのだが、一人では心細いという彼女を放っておくことなどできなくて。お前なら一人でも問題ないと思ってな」


 この方はご自分の立場をわかっていないのでしょうか?

 一人でも問題ない。その一言が気にかかりますが、ここは気持ちを押さえることにした。

 周囲の視線もありますし、ここは穏便に済ませましょう。


「彼女のことはお前も知っているだろう。ミューラ・デリスト。デリスト男爵家の令嬢だ。貴重な光魔法の適正が認められて学園への入学が許されたんだ」


「ええ、存じ上げております」


「そんな彼女を気遣うのは当然だろう。アリスなら分かってくれるだろう?」


「だからと言って、連絡を怠っていい理由にはならないと思いますが?」


 ライウス様の頭の中では一面見渡す限りの花畑が広がっているのでしょう。こちらの頭が痛くなりそうです。


「それは、すまないと思っている……」


 反省しているようには見えませんね。いつまでも彼女を隠したまま、話になりませんね。ですが、これは私にとってもチャンスですわ! ラッキーっと叫び出したいくらい!


「ライウス様はミューラ様を可愛がっているのですね。それは友人以上の感情を彼女に抱いていらっしゃるのですか?」


 あら、いけない。いきなり核心をついてしまいました。焦ってはいけませんわ。少しばかり反省する。けれど、言葉を消すつもりも、繕うつもりもありません。

 あなた達は何と答えてくださるのでしょうか?


「……」


 ライウス様は何も語らない。どこまでも私を失望させてくれますね。たいした期待はしていませんが。てすが、顔は随分と語ってくるていますわ。


「ローズアリス様! 申し訳ありません!」


 ミューラ様が私達の会話に割って入った。

 それにしても、この方はマナーというものを理解していないのでしょうか? それとも当事者という自覚があるのでしょうか?


「ミューラ。お前は何も気にしなくていい。俺が全て解決する」


 どう解決するのでしょうか?


「ですが、もとはといえば私のせいです。だから……」


 自覚はありましたか。

 ミューラ様は瞳を潤ませてライウス様を見つめる。ライウス様も答えるように頬に手を当てる。あれは彼女を慰めているのでしょうか?

 まるで茶番劇。なぜこんなものに付き合わなければいけないのでしょうか? 二人の世界を作ったままなかなか戻らない二人を私を始め、周囲の方は冷めた目やあきれた様子で見ている。気づいていないのは二人だけ。

 ため息しか出ませんね。ですが、これはチャンスです。何がなんでもものにして見せますわ!


「ライウス様」


「何だ?」


 ミューラ様を今度は後ろに隠すのではなく、自分の胸に抱き締める。あら、そんなことしてしまいますの? これはいい証拠になりますわ。証人もたくさんいますし。

 それにしてもこの状況。まるで私のほうが悪役。まさに悪役令嬢ということですね。そして彼は悪役令嬢にいじめられる主人公を守る正義の味方と。

 まったく、頭の中がお花畑で羨ましいですわ。この場の冷めた空気にも気づかないんですから。


「ライウス様、婚約破棄致しましょう」


 あ、やってしまいましたわ。正直になりすぎました。これでは誤魔化せませんね。


「ライウス様、婚約破棄致しましょう!」


 あ、またまたやってしまいましたわ。ここは少し落ち込んで見せるところなのに、満面の笑みを向けてしまいました。これでは淑女失格ですわ。


「アリス。本気か?」


 こうなっては仕方ありません。押し通すのみ!


「ライウス様は真実の愛を見つけられた。それならば私は涙を飲んで婚約破棄を。お互い合意の上なら両家も納得してくださるでしょう。何より、ライウス様が公爵様を説得して下されば何の問題もありません。さあ、より良い婚約破棄のために頑張りましょう!」


 私はそこまで一気に言う。

 当のライウス様は顔がひきつってます。まあ、私を手離せない理由を考えると頭が痛くなりますわ。


「アリス。婚約は家同士で決めたことだ。俺達の勝手で破棄していいものじゃない。それに、両家や国が認めるはずない。説得するのは簡単じゃないんだ。それをわかっているのか?」


 言い訳ばかり並べて、婚約破棄するつもりはないと言っているのが分かりやすすぎます。ですが、ここで引くとお思いなのでしょうか?


「でしたら、この状況、どのようにして納めるつもりですか?」


 会場の空気はすっかり冷えきり、この二人へ向けられる視線はいいものではない。そのことに気づいているのか、いないのか。ライウス様と私が結婚すれば彼が次期カルマ家当主になる。そう考えると今から家ごと潰したくなりますわ。

 そう考えていると少しだけ魔力の漏れを感じた。

 あら、いけない。やり過ぎは怒られてしまいますわ。


「……」


 この方は黙れば何でも許されると思っているのでしょうか?

 私がいつも許しているから今回も許すと思って黙っているのでしょうか?

 今まで目をつむり黙って許してきた私も悪いのですが、だからと言って今回ばかりは私も後には引けません。


「ライウス様、婚約破棄致しましょう」


 振り出しに戻して差し上げますわ!


「アリス?」


「婚約破棄致しましょう」


「それは両家が」


「大丈夫ですわ。公爵様達を説得しましょう。きっと息子の幸せを一番に考えて下さいます。そして、私はお二人の幸せを願って身を引きましょう。というわけでライウス様、婚約破棄致しましょう!」


 そこまで言ってもこのヘタレは何も言えず、会場から出ていってしまった。もちろん、ミューラ様も一緒に。そんな二人の後について出ていく一人の騎士風の男性に睨まれました。

 まあ、怖い。ということもなく三人を見送った。

 本当に勝手ですわ。せめて、この場の空気を変えてから出ていってもらいたいものですね。この中で一番の家柄だというのに。


 この日のパーティーは微妙な空気のまま終わった。

はじめまして。

読んでくださりありがとうございます!

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