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九話 目覚めし村正

『うおおおおおーーーっ!』


 この場の全員が目に止まる者、攻撃の届く者に全力で仕掛ける。攻防共に激しく、強く、一撃でもまともにくらった者からこの乱戦の脱落者が出るだろう。その戦いの最中、親父の真田昌幸は冷静に敵の戦力を分析していた。


「信之、幸村! その斬馬刀の威力はなにやら霊気そのものが強い! 先にそいつを仕留めるぞ!」


 攻撃目標を夜光のみに切り替える真田一族の圧に夜光の身体が一瞬止まる。


「そうはさせんよ」


 すぐに血塗れの槍切は対峙していた信之に必殺の槍を繰り出す。その信之は避ける事も出来ないのを悟っているのか、ただ言葉を紡いだ。


「親父殿の命令は絶対。勝つのは真田」


「何っ!?」


 蜻蛉槍に突っ込んだ信之は左腕を捨てるようにして失った。同時に飛んだ。夜光の目の前に出て斬馬刀の一撃をまともにくらう。信之が我が身を挺して夜光の一撃を受けたのである。そして抱きついた。


「貴様! 何のつもりだ! 死ぬ気か!?」


「さぁ、私は死ぬが貴様も死ぬ。親父と弟の一撃を受けて死なぬ者などないからな! 二人共、我が屍を踏み台にせよ!」


『承知!』


 全身全霊の真田昌幸、真田幸村の一撃が身動きの取れない夜光に迫る。槍切はもうどうにも出来ない位置にいる。夜光も動けない。完全に真田信之の捨て身の覚悟がこの場面を生んでいた。恐ろしき真田一族の絆に夜光は辟易する。もう、真田二人の攻撃を止める者は無い。


『お命頂戴――!』


「貴様等が守っているのは、徳川家康だぞ!」


 すでに勝負は決したと誰もが思っていた。

 だが、今の言葉で全ての時が止まったように攻撃者は動かない。すでに息絶えている信之を横に投げ、安堵の溜息をついた。


「貴様等が真田の絆なら、こっちは村正の絆。心の傷とは霊体にとって厳しいんだ。特に貴様等はやたら昔の事を覚えている。そこが致命的な弱点なんだよ」


 動けない真田幸村はせめて親父をどうにかしようともがくがどうにもならない。せめて時間稼ぎの為に言葉を放った。


「何故そんな事を知っている? 過去の村正の戦闘記憶でも引き継いでいるのか? 確かに徳川家康の墓守という言葉は真田にとって不名誉な事。そこまで効果的に利用されるとは……」


「村正の恨みは長く苦しいという事さ。貴様等が絶対的勝利まで意識がある状態じゃないと言葉の効果は無いようだからな。何とかこの場面を作って作戦成功だ」


「信之……その覚悟をみすみす無駄にはさせんぞ」


 親父の真田昌幸は左右の指を十字にして、印を結んでいた。


「えぇい! ならば真田丸の霊気をサナダアークとして解放すれば、このイエヤスアークなど吹き飛ばして――」


「真田一族はここで終わりだ!」


 動きを止めた真田親子達に死を与えた。

 光を散らすように真田一族は消えて行く。

 ようやく、真田丸攻略戦と真田一族との戦闘が終結した。戦闘後の一服をする槍切は大きく煙を吐いた。


「いやー、今回はしんどかったな。城を攻略して真田も攻略。でも、これで残すはイエヤスアークのある徳川家康の聖櫃だ」


「あぁ。ここを下がれば最後の敵がいる。イエヤスアークはもうすぐだ」


 少し一休みするかと思う夜光は、傷の手当てをしつつすぐに考えを改めた。


「……いや、さっきいた豊臣秀頼とホーキが先に到着してるはずだ。奴等にどうにか出来るかはわからないが、ゆっくりもしてられない。傷の手当てをしたらすぐに下へ――」


「ぬぁ――!?」


 突如、槍切は信之に刺された。

 死んだはずの信之に。

 そして、信之だけではなく、真田昌幸に幸村までもが復活している。赤い怨念のような霊気を漂わせ、悪鬼のような形相をしていた。夜光は槍切を見つつも、復活した真田一族に焦る。


「何故生きている? 真田一族は倒したはずだ……」


『真田一族は徳川家康の聖櫃を守るという屈辱を果たす為に、霊気を別に留めている。その霊気であるイエヤスアークを使って復活したまで』


 三人の真田の亡霊達は恨み言のように言う。


 真田丸が難攻不落なのは、真田達が一度の敗北だけでは倒れないからでもあった。

 徳川家康に利用される自分達への怒りが復活をする原動力になっている。


 攻撃も防御もイエヤスアークを受け入れて使っている三人は強い。徳川家康の霊防御力の高さを上手く利用していた。


 完全に不意を突かれた夜光は三人の攻撃を受け、斬馬刀がその刀身を崩壊させた。武器破壊をされた以上、徒手空拳での技が無ければ夜光はここで死ぬ。


『さぁ、全てを終わらそう。真田一族の恨みと共に』


『……』


 怨念の霊体でしか無い真田一族に対し、瀕死の槍切と武器の無い夜光に為す術は無い。しかし、構わず特攻した夜光は何かを振った。それは刀であり、どこで手に入れたのかわからない一刀だった。


 それは無意味な攻撃だ。

 しかし、その無意味な攻撃が攻防が増している真田に対して手傷を負わせていた。それに対して真田幸村は言う。


「何だこの切れ味は……イエヤスアークを纏うこの私達に傷をつけられるなどあり得ん。私達は今、誇りを捨てて徳川家康の霊気を纏っているのだから……」


 へへっ……と笑う槍切は夜光の持つ刀を見た。これはどこかで見た持ち手の塚部分だ。紫の塚糸は斬馬刀の塚と同じである。


「わからねぇ奴だ。家康の皮膚を簡単に斬り裂く刀など、この世に一本しかあるめぇよ」


 全てを察した槍切と同様に、真田一族も全てを察してしまう。


『ま、まさか……まさかその刀は……!』


「徳川に魔をもたらす呪われし妖刀・村正だ」


 そう、その夜光の今持っている斬馬刀の中身であった刀こそが妖刀・村正だった。

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