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四話 徳川家康と村正一族

 この三河国の山奥にある東照宮は神祖・徳川家康の墓。


 いかに三河の人間と言えども何気無く来れる場所では無い。実際は誰でも入れるような場所ではあるが、それは余所者の感覚が存在しなければ有り得ない事だ。


 三河国の関所の門番である、背中に竹箒を背負っている巫女長の少女は言う。


「いいコンビネーションだったわ。犬とは言え、あの戦国守護霊を簡単に倒せる柊はそうはいない」


「コンビネーション……確か連携技だったか?」


「そうよ。外国語もある程度はわかるようね。思った通り三河を憎む者か」


「三河国の者とて外国語を知ってる者は多いだろ。織田との同盟時代に外国製品の物が三河にも流入してるからな」


 斬馬刀を握る手に力を込めつつ、目の前の少女に対して警戒心を解かないように話す。この長い黒髪の女は異能の柊であり、自分の目的を邪魔する可能性は大である以上ここで殺す必要もある。


 現在の三河国は二百年以上前に同盟国だった織田信長の尾張の影響で三河にも英語という言葉を多少なりとも覚えさせる事になった。今でも多くを使われているわけではないが、日用品などの多少の単語ならば市民も知っている。

 

「こんな場所に何の用だ巫女長。霊気観察方の邪魔をするなよ」


「私は今は巫女長ではなく一歩浮絵(かずほうきえ)。ホーキでいいわよ。そこんとこヨロシク」


「……何を企んでいる貴様? ここは家康の眠る東照宮だ。役職を忘れた人間がいていい場所では無いだろう? 三河の体質ならば部外者はここにいたら死あるのみ」


「そうね。ここに侵入者がいたとして、死ぬのは普通。数ヶ月に一度は侵入者が現れるからね。霊気観察方のように三河国に入れる手段があるような存在達がね」


「そうか。もうご存知の通り、俺も一個人としてこの東照宮にいる。これより俺は俺の目的をなす為にイエヤスアークを手に入れる。邪魔するからここで斬る」


「いんや邪魔しないよ? 私も私でイエヤスアークが必要だから。だから協力して最下層を目指しましょう。お互いに時間は無いからね」


 何を企んでいるかは知らないが、同伴者の槍切が罠にかかって消えた以上、この女を利用するのも悪くは無いかと思った夜光は頷く。だが、最後に聞いておく事がある。


「東照宮には柊達以上に戦える守護霊がいるんだろ? 特にこの下層階には。その守護霊を倒したら、この三河国にいられない覚悟はあるんだろうな?」


「当然よ。もう私も過去の侵入者達と同じだから。東照宮に来る人間の目的はイエヤスアーク。ならば、それがあるこの東照宮を開放しておけば、三河国の人々への被害は無くなるわ」


「そんな考え方か。だが、侵入者が人質を取って東照宮内に侵入した場合は?」


「この国は人質になるぐらいなら自害を選ぶ。だから敵は三河国に侵入したら一目散に霊気が駄々漏れている大権現の東照宮に来るって事」


「まるで空城計だな。陰気な三河国らしい体質だよ全く」


「それだけにこの東照宮は強固よ。イエヤスアークを手に入れる手段はあるのでしょうね?」


「無ければここに来ないさ」


「なら手を組みましょう。私の目的もイエヤスアークだから」


「好きにしろ。俺の邪魔をすれば斬るだけだ」


 冷え冷えとする東照宮内下層に向けて二人は駆けた。その最中、徳川家康の柊としての力を夜光は訪ねた。


(俺は当然、徳川家康の柊としての能力は知っている。隠れた能力があればわからないが、俺が知っている情報程度を知らないようではこの女は使えない。家康を知らねば、イエヤスアークを手にする事は出来ないからな)


 徳川家康が二十年もの歳月を武田信玄から耐えて来たのは霊気を操る術があったからだった。特に家康は異能力者の柊として、防御面でのアークに秀でている。


 元々は霊気という呼称だったが、家康はこの力を西洋の文化のように忌み嫌った。故に霊気を悪としつつも、聖なるもののアークという言葉を使った。


「……それは元々、新しい物好きの織田信長が決めた名前。基本的に徳川家康という男は誰かの模倣。軍政も内政も外交も、基本は模倣。模倣はすでに誰かが試している。自分を客観的に見られるという能力を唯一戦国武将の中で持ち、自分の意思を消すように生きた家康は恐ろしい人間だったのよ」


「確かに人間が自分を公として私を消すなどあり得ない。全ての出来事に耐え忍ぶという報われるかわからない人生を送ったのも常人ではない証拠」


「おそらく家康がアークを意識的に使用出来るようになったのは、武田信玄に無意味な特攻を仕掛けた三方ヶ原の戦い。うんで運を掴んだ戦いでもある」


 そして、武田信玄も織田信長も豊臣秀吉も戦国時代の武将達はその命を散らした。家康は自身のアークにより、長寿という才能を伸ばす事が出来たが、アークという力を日本で一番蛇蝎のよう嫌っていた人間だった。


 矛盾しているが、家康にとっては日本を統一した後にアークを使い無用な反乱分子が生まれて来るのを恐れたのである。


 もし、かつての戦国時代のような猛者が自由自在にアークを使いこなせた場合、簡単に徳川政権は崩壊してしまう。


 故に、先見の妙である異能力者・柊を士農工商の階級に当てはめる事をせず、アークが目覚めた人間は幕府の直参になれる権利を与えて管理した。


 アークは使えば使う程に心身共に疲弊する諸刃の剣。程よく最前線の軍事関連に使っていれば、十年程で大半の柊は死亡した。その家康の教えをこの二百年以上の間、徳川幕府は守り抜いている。


 そのホーキの話は徳川家康という人物を理解している人間として、納得出来るものだった。

 そして、このホーキという女は運命共同体として使えると確信した。


「私は徳川家康の話をしたわ。代わりに村正一族の話を聞かせてもらうわ」


「……わかった」


 夜光は駆けつつも自身の一族である村正一族の話をした。

 村正一族は三河国でも優秀な刀匠を輩出する一族であった。その一族の最高傑作とされる斬鉄すら可能な稀代の名刀村正が完成した。


 しかし、家康が戦場で村正を使っていると、兵や本人の怪我などの損害が多い為に、家臣達の噂話から妖刀村正とされてしまった。


 その後、村正一族は名刀である紫桜式部などを作っている為に家康から三河の反逆者を抹殺する命を与えられる事になった。


 内部監視者である陰湿な村正一族を人々は嫌っているが、家康はこの仕事を任せる事により村正一族のあらぬ噂話を鎮静化させる事に成功した。


 そして、村正一族を存続させ、村正一族に陰湿な仕事を与えつつも身内とし、村正一族の謀反を起こす可能性の芽も摘んだのである。


 刀鍛冶としての村正一族は潰えてしまったが、その技術は実はまだ残っていた。一年に一度、家康の命日である日の供物としての御神刀として村正は捧げられていたのである。故に、村正一族の刀鍛冶は人々には知られていないが存在していた。


 そうして時代を経て、村正一族は千子一族と名を改め三河の闇の中で生き続けていた。


「……内部監視に他国調査。人殺しに拐かしまである。村正一族が生かされたとは言え、その活かし方は人のやりたくない事で存在させられているだけだ。用は、三河の人間達の溜飲を下げる為に存在している。三河国で内乱を起こさせない為に」


「よく話したくも無い話をしてくれたわ。お礼に最高の贈り物をあげるわ」


 と、言うなりホーキは夜光の背中に抱きついた。柔らかい少女の感触を感じた夜光は何をしている? と思ったが、その謎がすぐに解けた。目の前の薄闇が何か大きな力で引き裂かれたからである。


『……!』


 夜光の肌に展開しているアークが多少突破され、左頬から少し血が流れた。すでに背中の竹箒を持つ巫女装束の少女は臨戦態勢である。


「随分と大層な贈り物だなホーキ。嬉しいぜ」


「そうでしょう? あれは独眼竜のマサムネよ」


「竜の守護霊か……斬馬刀に相応しい敵だな」

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