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二話 東照宮

 徳川家康の大霊幕によって鎖国された日本の裏の首都であり、全ての権威の象徴である三河国。


 そこに入った霊気観察方一行は、国内にある霊脈を調査を開始する。

 三河国の地図は事前に渡されており、調査の為ならば徳川城内以外に関してはどこに侵入しても良い。


 便宜上は国内を自由に動いていいが、結果的には国内の城下町には殆ど滞在する事は無い。三河国の人間の目は余所者には厳しくあり、監視されてしまう。故に宿なども郊外の一角にある物置小屋を改良した宿にしか泊まれない。


 しかし、この調査隊の外部観察者である槍切は三河国より派遣された人間だ。

 ぷかぷかとキセルの煙を吐き出す槍切の横を歩く夜光はその鋭い目をキセルに向けつつ言う。


「相変わらずだな。この三河国は」


「閉鎖的で余所者は信用せずって事か?」


「家康より与えられた職務担当ですらあの扱いだ。やってられんよ」


「そうだねぇ」


 夜光の言う通り三河国は閉鎖的である。他国の者は信用しない。織田信長や豊臣秀吉のような華美さは多くの人間を引きつけ。そこの民衆は楽市楽座のような自由な商売をする事が出来て、金回りも良く風通しも良い。


 だが、徳川政権下では軍事、外交、内政においても織田や豊臣の華美さを嫌い、武田信玄の実直な模倣をする事により家康は徳川家康幕府の基礎とした。

 徳川の世では新しいものや、珍しいものは希少価値があるとはされず、新しい戦争の火種になるとして敬遠される事になった。平和で戦争は起こらないが、特に刺激は無い世の中になっている。


 民衆はただ動くカラクリのように畑を耕し、魚を獲り、食料を次世代に蓄えて日々を質素な暮らしに費やしていた。

 相変わらずキセルの煙を旨そうに吸う男に夜光は言う。


「この調査は次なる村正を発生させない為にある。人の邪気が霊脈に感染すると新しい呪いが発生するぞ」


「硬い事を言うなよ。城下町じゃ煙草を吸うと嫌な目で見られるから森とか郊外じゃないと吸えないんだよ。そもそもこんな煙程度じゃ霊脈は濁らないよ」


 霊脈の発生する場所は人間の暮らす場所には主に発生せず、自然界の癒しに満ち溢れた場所に発生する。夜光は少し先に野生の鹿を見つけ、気合法でもある剣気を放って追い払った。


「霊脈調査でもしも悪しき霊気が放たれていた場合、新しい村正が生まれる可能性がある。過去の霊気観察方もその霊気の封印の中命を落としている者も多い。千子一族の監視者として同行するのは辛くは無いのか?」


「面白く無い世を変えるには霊気の力しかない。悪くは無い仕事さ」


「槍切は三河の人間だろう? 役目とは言え、村正一族を祖先に持つ千子一族とは関わり合いたくないだろう?」


「ん? 村正って言っても、もう二百年もの前の話だ。その千子も他国と混じり合い村正の血も薄れている。特に意識はしないさ。むしろ、意識してるのは自分だろう?」


「……そうだな。確かにその通りだ」


 二人は森の奥のみを見据えて歩く。すると、突然槍切はすでに発見されている霊脈の方向では無く、別の方向に向かって歩き出した。ふと、背後の夜光を見る槍切は歩みを止めた。


「どうした若者。上手く殺気を隠しているが興奮は収まっていないぞ?ここでの揉め事は千子の取り潰しの切っ掛けになる」


「わかっててこの道を歩いているんだろう? それにあんたも三河国じゃ不浄役人と呼ばれているそうじゃないか。このまま進めば問題になるぞ」


「なーに、霊気観察方は徳川城内以外はどこを調査しても構わないんだ。なら、神祖の墓を見てみたくもなるだろうて。チャンスは自分の手で掴むしか無いのさ。汚れた手でな……」


 煙草の煙で霞んで見える自分の手を見て言う。同じ穴の狢かと思う夜光は口元を笑わせる。


「フン、覚悟はあるようだな。どうなっても知らんぞ」


 その二人は森の奥のやや開けた場所にたどり着いた。この場所は三河でも鳥なども近寄らぬ物静かな場所であり、白い建物は神殿作りになっていた。この場所は徳川の神祖・徳川家康の眠る東照宮であった。

立ち止まる夜光は斬馬刀に手をかけたまま言った。


「一つ聞いておく。東照宮へ入るのは興味本位か、謀反の意思か?」


「不浄役人の興味本位さ。この場所でお宝をゲットしてその金で他国へ消える。そんで晴れて隠居が夢さ。こんな陰気な霊気観察方なんていつまでもやってられん。誰かに褒められる仕事でもねーし!」


「外国語を混ぜてるのを聞くと、外国にでも逃げるつもりか? どこで俺の反逆心に気付いたかは知らんが、食えない野郎だ」


 どうにも怪しげな槍切の言動はまだ怪しくはあるが、夜光はある程度は本心だと悟る。閉鎖的な三河では疎外感があるからこそ、煙草を吸ったり、外国語を言葉に多く混ぜていた。ストレス発散をしたい茶色い髪の不浄役人は煙草の紫煙を吐く。


「そんなこんなで、俺は村正一族の反逆心を利用する。ギブアンドテイクだ」


「いいだろう。これより徳川家康の墓を暴く」


 背中の斬馬刀を肩に担ぐ夜光は言い放った。

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