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嗤うがいい…だがコレがオレの旋律(仮)  作者: ken
第一章 現世から異世界へ(仮)
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EP040 一枚の花びらを愛した男

アスファルト道となってから100メートルほど進んだところで、前方に廃墟のような施設が見えてきた!


2階建ての木造で、一見、山中にある昔の小学校の校舎のように見えなくもないが、校庭などのスペースは無く、分岐した道から数十メートル入ったところにひっそりと建っていた。

おそらくは当時の炭鉱の職員たちの宿舎か何かだろう。


そのあまりにも不気味な建物を前に、5人は暫し立ち尽くしていた。

当然、立ち寄る必要などないので、スルーして山頂を目指すのみである。


「写真で見たモノと似ている…オレたちは中腹までは制覇した!」


竹鶴が振り返り皆に言った。が、その時!


「ひいいいいぃぃぃいいいぃぃーーーー!!!」


マリカが、大声こそ上げなかったものの、ただ事ではないような引き摺るようなスクリームを発したのだ!

これには皆びっくりした!


「ど、どうした!?マリカ!」


流石の角瓶も動揺を隠せずに、どもりながらマリカに訊く。


「あ…あそこ…いいい今…光った…よ」


竹鶴にしがみ付きながら指をさす。

それは、廃墟の1階の右端の方だ。道からは遠い側である。

そんな馬鹿な!っという風に、皆もその方に視線を集中させる。

夜中であるため、全体がぼんやりとしているが、ここからでは懐中電灯の明かりも届かない。

窓ガラスは既に無く、枠だけが残った状態だとはいえ、その内部ともなれば、完全に真っ暗である。

勿論、余市にだけは、昼間のように全てが見えているのだが…。


「あっ!!!」


今度は全員がほぼ一斉に声を発した!

マリカの言う通り、1階の一番奥の部屋の窓の内部で、一瞬ではあるが何かが光ったのだ!

しかし少しすると、それは光りっ放しとなった。

何者かが、何かの作業をしているのかもしれない。


「博士!ちょっと様子を見て来てくれよ!」

「ななな!何でオレが!?」

「同業者かもしれない…」

「同業者って…!?」

「パワスポ探索の、に決まってんだろ!」

「いや、いいよ!放っておいて進もう!」


竹鶴は何かあると、直ぐに余市をパシリという名の切り込み隊長に任命する癖があるようだ。

こういうコトは最初が肝心である。竹鶴ペースに呑み込まれ、完全に馴致されぬよう、今後ともしっかり断らなければ!

オレはノーと言える日本人でありたい!


「…殺人犯が死体を隠してるっていう線もあるだろ」


徐に角瓶がコワイことを言う。

だが確かに!確かにその通りだ!

立ち入り禁止エリアの廃墟である!大いに有り得る話ジャマイカ!!!

無暗に藪を突いて蛇を出す必要がどこにあるっていうんだ!?


「この山の管理会社の職員って可能性もある!下手したら説教くらって追い出されるぞ!」


角瓶は現実的な可能性をも述べる。

竹鶴の好奇心を打ち消そうと、何だか必死である。

まさか角瓶…お化けの類が苦手なのでは?


「なっ!アイツは!!!」


発したのは余市だった!

余市だけが確認し得ることが可能な窓の内部…あの顔は!!!否!見間違えるハズもない!

忘れたくてもそう簡単に忘れられそうにない顔である!


「な…何か見えたのか余市!?この距離だぞ!!!」


機敏に反応する角瓶。


「…マサヒコ」

「あ!?誰だそれ!?…あっ!カツアゲのか!?」


角瓶の問いに無言で頷く余市。


「マジかよ!博士!!!金回収して来いよ!!!」


竹鶴の言葉には返答しない…呆れたとかそういう理由ではない。

何故なら…何故なら…マサヒコはどうやら、今まさに!首を括ろうとしているように見えたからだ!


余市は走った!理由は分からない!

正直言って、やつが死のうが勝手である!絶滅危惧種だからって自分には関係ない!

だが…だが!


答えの出ぬまま余市は走った!遮二無二走った!

丈のある草を藪漕ぎしながら、一直線にあの窓目掛けてして突き進んで行く!


そして窓辺に辿り着くなり、


「マサヒクォオォォゥオゥォゥーーーーーーッ!!!」


ビブラートを効かせながら叫んでいた!

この世に生を受けてから、これほどの大音量を発した記憶はなかった!


首を括る最後の勇気がなかなか出なかったのか、マサヒコは天井から吊ったロープに首を通した状態で、木製の椅子の上でつま先立ちをしており、椅子を蹴り飛ばせずにいたようだったが、余市の突然の大絶叫にびっくりして、思わず椅子を蹴り倒してしまったのだった!!!


「ぐひぃ!」


声ともならぬような音を喉から出したマサヒコは、ついに首吊りを成し遂げてしまった!

余市はその様を見るなり、窓枠を登り、室内に転がりこんだ!そしてマサヒコの下半身に抱きついた!!!

勿論、そっち系の趣味は余市にはない。

マサヒコの首にかかる全体重を阻止せんがためである!


「うおぉぉーーーーーいぃ!!!皆!来てくれぇぇーーーいぃ!!!」


先ほどにも劣らぬ大声をを振り絞る!

マサヒコの体重を支えることはできても、ロープをどうにかしなければ、このまま余市の体力が尽きた瞬間、マサヒコは仏となってしまう。


暫くして、竹鶴、角瓶、そして少し遅れて、マリカ、響の全員が部屋に入って来た。


「なっ!何だよコレは!!!?どうなってる!?」


真っ先に角瓶が、余市と同じように、マサヒコの下半身に抱きついた!


「誰か!上のロープを切ってくれぃ!!!」

「わ!分かった!待ってろ!!!」


余市の必死な訴えに、竹鶴が答えた。

近くのデスクのような什器を引き摺って近くに移動させると、その上に飛び乗り、サバイバルナイフのようなモノでロープを切断した!


余市と角瓶は、その場に尻餅をつく格好でひっくり返り、マサヒコは床に倒れて転がった!

背中を海老のように丸め、大きく咳を何度もしている…。


全員がその様子を黙って見守っていた。


「な…ゲホッゲホッ…な、何故テメーがこんなトコに…?…余計なコトすんじゃねぇ…ゲホッ」


肩でゼィゼィと息をしながら、薄眼で余市を見てマサヒコは声を振り絞りながら、上半身を立て直そうとしている。


バキィィイイィ!!!


そんなマサヒコの横っ面を拳で思いっきりぶん殴ったのは角瓶…ではなく、なんと!竹鶴だった!!!


「それはねーだろ!!!カスがーーーっ!!!」


普段の陽気な竹鶴ではなかった!

眼鏡をかけた鬼のような形相を前に全員が固まっていた。マリカですらそんな竹鶴を見て怯えて泣きそうな顔をして黙っていた。


唇を切ったのか、マサヒコは手の甲で口を拭ったが、何も言い返さなかった…。

そして、俯いたまま…鼻をすすり始めた。


あのマサヒコが…カツアゲの…阿鼻叫喚のマサヒコが…泣いているのだ。


「余市から金巻き上げといて、この世から逃げようとしてんじゃねーよ!!!」


エッ!?そこなの!?

余市はズッコケそうになった。…が、竹鶴は真剣だ。


「テメーに何があったかオレは知らねーよ!だがな…オレは自殺するよーなヤツがデーキレーなんだよ!!!」


竹鶴の過去を余市は知らない、ひょっとしたら角瓶なら何か知っているのかもしれない。

赤の他人の自殺に対して、ここまで熱く怒ることのできる竹鶴…彼はいったいこの男に何を重ねて見ているのか…?


「余市…か。お前、余市っていうのか…このアンちゃんに免じて、一応、礼は言っておいてやる」


涙目のマサヒコは余市を見据えて言った。そして、


「ちと、ふたりで話がしたい…ツラ貸せや」


と元気なく言ってきたのだった。

こんな状態のマサヒコが、これから余市をタイマンでシメるとは考え難い。


「ああ…いいよ」


余市は答えた。

皆には少し待っててくれるように言って、余市はマサヒコと隣の部屋に移動した。


隣の部屋に入ると、マサヒコは余市に背を向けたまま、


「すまねえな…色々あってよ」


そんな風に切り出した。


「けどな…あのアンちゃんの一発で少し目が覚めたわ」


そして、尻のポケットから財布を取り出すと、


「今はコレしかねぇ…今度会ったら倍にして返す」


と、野口を3人渡してきた。

意外と律儀なんだな…と思ったが、今度会った時に倍にして返されたとしても、カツアゲした額には遠く及ばないことに気付き、おいおい、とツッコミを入れたくなったが、マサヒコの『今度会ったら…』という言葉の意味を理解した時、素直に、


「ああ、それでも足りないけどな」


と、少し微笑んで言い返してやった。そして、少し躊躇ったが、


「何故…あんなコト?」


と口にした。

マサヒコは胸元から煙草を取り出して1本咥えると、そのまま箱をもう一度振り、もう1本を途中まで出して余市の方に伸ばしてきた。

余市は煙草は苦手だったので、軽く手で断った。


シュポッ


火を点けると、マサヒコは横を向いたまま話し始めた…。


話の初めに、どうしてこんな場所に、余市らが来ていたのかについて訊かれたので、パワスポ探索に夢中な仲間が居て、その付き合いだということを簡単に聞かせた。本来の目的は、話が面倒になるので伏せておいた。

マサヒコは、この立ち入り禁止エリアには、一部の地元民のみぞ知る、秘密の山道を抜けて歩いてきたそうだ。流石は地元民である。


それはさて置き自殺未遂の原因だが、それはこのマサヒコという男の身の上話に他ならなかった。



余市のようにマサヒコにも優秀な兄と美しい妹がいたという。


兄に至っては紛れもない天才で、なんと響と同じく日本の自尊心!最高学府であるT大で、しかも嘘か本当か理科Ⅲ類、つまり埼玉県でも毎年合格者が出るか出ないかの最難関の医学部を昨年卒業したのだそうだ!!


ただ卒業後、医者になるどころか就職もせずにブラブラしていたことだけが、少し気掛かりではあったという…。


そんな或る日、マサヒコがたまたまレンタルした企画モノのAVに、中年男優に混じって女優の前に並ぶ、全裸にソックスだけという姿の兄を発見してしまったのだ!

顔モザイクも無い上に、ひとりだけ無駄に若々しいことも手伝って、ひときわ目を惹いたらしい。

しかも、チラリと映ったソックスのクマの刺繍が、普段、兄が好んで履いているモノとあっては、もはや疑う余地はなかった。


まさか、誰もが認める村一番の天才で、自警消防団でも活躍していた自慢の兄が、中年男優たちに混ざりながら一介の汁男優として華々しくもデビューを飾っていようなどとは!!!

更に残念だったのは、他の中年男優と比べて若い兄の飛ばした汁が、期待に反して思いのほか勢いが弱く量も少なかったために、女優の顔まで届かなかったのだそうだ…。消防団では誰よりも遠くまで放水するあの兄が、まさかのブッカケ未達…である。


それはともかく、そもそも最高学府T大卒の汁男優なんて…マサヒコの兄以外にかつてひとりでも生存し得たのだろうか!?T大卒の汁男優として名を馳せた男が!

よくT大卒の肩書でグラビアなどの表紙を飾るモデルは居る…だが、汁男優である!

大勢に並んで順番がきたら責任をもってスペ丸を発射するだけの、代わりの幾らでも利く底辺AV男優なのだ!

日給も出ないところが多く、女優に触れることすら許されるのは稀であるとも聞く。


ただ、マサヒコの兄がT大卒という立派な最終学歴にもかかわらず、その肩書を驕らず、そして全く活用していないであろうことに於いては、余市も少なからず好感を持ったのは事実だ…。たとえその職種でのT大卒の需要がゼロだとしてもだ!


マサヒコの兄の出演したAVは若者たちを中心に、電光石火の如くたちまち村中に知れ渡ってしまった。

狭い村社会である…無理もない。

それに村のレンタルビデオ店など、新作の入荷も少ないに違いない。たまたまマサヒコの兄が出演しているAVが入荷されてしまったことに、悲痛なうねりのような因果を感じてしまう…。


マサヒコは尊敬していた自慢の兄が、村中で嗤いのタネにされていることに我慢ができなかった!

そんな雑音を全て掻き消すかのように、爆音を奏でながら峠を攻めた!それはもう攻めまくった!

リヤスポイラーの下に貼られた凄みを感じさせる『阿鼻叫喚』のステッカーは、後続車に向けての脅しなどではなく、マサヒコ本人の悲しみの発露に他ならなかったのだ!

マサヒコの兄は半月ほど前から家に帰っていないが、まだ警察に捜索願は出していないということである…。



兄ほどではないが、妹の将来もやはり心配だという…。名は小百合(サユリ)というらしい。

身長こそ低く小柄ではあったが、村一番の美少女としてモテ囃されているマサヒコ自慢の妹であった。村祭りなどでは司会もこなすしっかり者なのだそうだ。

そんな前途が明るいかに見えた村のアイドル小百合が、昨年末あたりから、地元のラーメン屋で皿洗いをしている隣国から来た黒縁メガネの若者(キム)と付き合い始めたらしいのだ。

勿論、夜な夜な突き合ってもいることだろう…。


ふたりの馴れ初めだが、どうやら走り屋のギャラリーをしていた時に、偶然隣り合わせたのがキムだったということらしい。

峠の下り坂(ダウン・ヒル)を豆腐屋の息子が果敢に攻める、某走り屋アニメに感銘を受けて来日したキムは、来日してから随分経つというのに、未だに知っている日本語が『ヤメテ』『イクヨ』『キモチー』『コノヤロ』最近になって『イッショニサケノムカ』を覚えたくらいのもので、思春期より違法ダンロードによって接してきた日本のAVに、下半身だけでなく脳の奥深くまで浸食されてしまった、廃人のような(つわもの)なのだそうだ。

その事実は、同じ中華料理店でたまたまウェイターをしているマサヒコの小学生時分からの唯一無二の親友(マブ)、タツマロによる証言だから間違いないとのことである。


タツマロによると、キムは顔はともかく勤務態度は悪くはなく、無欠勤で働いているそうだ。

夢の車、AE86レビンの中古車を購入するという来日当初からの崇高なる目的がブレていないため、過酷なシフトにも文句を言いながらも耐えているという。

実際、キムが勤務する以前に、何人もの皿洗いが数日で辞めてしまっていたコトから、今では重要な戦力のひとりに数えられているのだそうだ。仮にリストラ問題が浮上したならば、新米のキムよりも自分の方が先に首を切られる可能性が高いであろうと、タツマロは苦笑いを浮かべていたらしい。

そんなキムだから、今では店長やバイト仲間からはキムチの愛称で可愛がられ重宝されているのだという。


ただ今日のように、キムが皆からキムチ!キムチ!と親しまれ、認められるようになるまでには、問題が全くなかったというワケでもないらしい…。


これはキムチの愛称にも由来することなのだが…。

店が忙しい時間帯になると、皿洗いのキムも厨房から出て客にラーメンなどを持っていかなければならなくなる。その時、客に『いらっしゃいませ!』の代わりに『ドゥーユーノーキムチ?』と母国の自尊心たるキムチのことを知っているのかを、いちいち客に確認してしまう悪癖が、長期に亘って直らなかったのだ。

店長だけでなく、バイト仲間やタツマロも注意をしたという。『お客さんにいちいちキムチのことなんて尋ねるな!いらっしゃいませ!だろ!何度言ったら分かるんだ!?そもそも村の連中に英語なんて通じねえぞ!お前はキムチの布教活動をしに日本に来たのか!?』それこそ何度も何度も注意をしまくったが改善は見られなかった…。

キムは根性もあったが、それ以上に頑固でもあったのだ。


そんなキムには店長も頭を抱えてしまっていた。

思い返せば確かにバイト面接の折にも、最後に何か質問はあるかと尋ねた際、昇給や賄などについてなどではなく、全く予期せぬ質問『ドゥーユーノーキムチ?』をやられた前例はあった。だが、ユニークな奴だなぁと、その時は肯定的に捉えて採用してしまったのである。

余談だが、店長自身もともと中国四川省出身で、名を周富継という。

既に帰化し店を持つまでにはなったが、来日してからこれまで30年近くも苦労をしてきた経験があったから、単身で来日した若き青年キムを、当時の自分と重ねて応援したくなる気持ちが芽生えたのやもしれぬ。


だからと言って、キムをこのまま放置しておけば、客足が遠のいてしまうのは必至である。

折角、これまで苦労して掴んできだ常連客たちに、ひとり、またひとり…と背を向けられてしまう事態だけは何としても回避しなければならなかった。


悩んだ末、店長は新メニューとして、キムチの盛り合わせ、キムチチャーハン、店長の気紛れキムチサラダ、そして冬季限定ではあるがキムチチゲ(辛さ5段階)を加えることにしたのだ。

キムに『ドゥーユーノーキムチ?』をする代わりに『コレモ、オススメ!』とそれら追加メニューを指差させることで、


1.客の不快感を解消し、

2.キムの頑迷な自尊心をも満たし、

3.上手くすれば客も新メニューを試す、


という、まさに一石三鳥の奇跡の閃きウルトラCであったと言えよう。

自家製キムチについては、キムに仕事として与えることで、キムもきっと喜んでくれるであろうと期待したが、キムはキムチは食べても漬けた経験は一度もなく、そんなのは女の仕事だ!と翻訳アプリを介して一蹴してきたという…。

結果として現在、店長自らがひとりでキムチの仕込みを店の裏口でおこなっているが、とにかく店の危機は去ったようだ。


そんなキムチと村のアイドルである妹、小百合が交際しているのである。

血の繋がった兄としては、国籍など抜きにしても心配してしまうのは当然であった。

ただ一方で、小百合とキムチがこれまで別れずにいるということは、性格もしくは性癖、はたまたサイズなどは意外と合っているのかもしれない…とマサヒコは冷静な分析もしている。



そして、そんな家庭環境でグレてしまったマサヒコが、親友タツマロの他に唯一心を開いていたのが、あの日、一緒に車に乗っていた糞ビッチ、明菜(アキナ)である。

明菜は性格や容姿には特に大きな問題もなかったとのことだが、何でもアソコのビラが右側だけビローーーンと異様に伸びており、左右非対称(アシンメトリー)が故に、小便がどうしても毎回、明後日の方向へと跳んでいっちまうという不憫な境遇の(スケ)であったらしい…。

マサヒコはその身体的特徴を、恰も標準語でもあるかのようにビライチ!ビライチ!と連呼しているのだが、余市の現レベルでは勿論イミフである…。


しかし、どのようにしてそのような不憫な事実を知り得たのだろう…?マサヒコは普段、いったいどんなプレイを楽しんでいたのだろうか!?

その辺り、余市も興味がないと言えば嘘になる…。


てか、冷静になって考えてみると、そもそもそのようなカノジョの秘匿性の高い情報を何故、赤の他人であるこのオレに対して赤裸々に打ち明けることができる!?サイテーだなマサヒコ!!!


…だが、そんなビライチの明菜から昨夜、突然に別れを告げられてしまったのだという。

その直前まで、産卵中のウミガメが如く涙流してよがっていたというのに…だそうだ。


どうやら、市街地の農家の長男とこっそり見合い話が進んでいたらしい…。

田舎では相対的に結婚年齢が若い。女であれば尚更のことであろう。

最後の心の拠り所さえも失ったマサヒコは、気付いた時にはフラフラとこの山に踏み入っていたのだという…。



余市は目を閉じて思う…。


ここまでのマサヒコの生い立ちを聞き、何も信じられなくなったマサヒコが、最終的に自殺を決意したのは無理もないことなのかもしれない…と。

そして、仮にマサヒコと同じ境遇であったとしたら、果たして自分も自殺を選択したのだろうか?とも自問してみる。


…答えはノーだ!

意外にも即決だった。オレはオレであって、我が道を進むのみ!


余市は閉じていた目をカッと見開く!

哲学的な分野ではあるが、マサヒコに問いたい!


…何故だ!?何故お前は二次元に活路を見出さないのか!?

いい年こいて、男子の本懐が二次元以外には存在しないという現実をまだ直視できずにいるのか!?

いつまでそうやって燻っているつもりだ!?いい加減、目を覚ませ!…と。



今回、絶滅危惧種であるマサヒコの自殺現場に遭遇したことは、同じ山を目指すという奇跡の一致を見た竹鶴の時と同様に、何か避けられぬ不気味な縁のようなモノを感じずにはいられない。

昨日カツアゲをくらったことも含めて、果たして偶然の結果なのだろうか?


合縁奇縁と言ってしまえばそれまでだが、俗っぽい言い方をすれば、運命の悪戯ってコトになるのか?



マサヒコはひと通り吐き出したことで気持も楽になったのか、余市の方を向き直ると、寂しそうではあったが笑みを見せた。


「色々悪かったな…変な話まで聞かせちまってよ!」


その言葉を聞いて、マサヒコはもう大丈夫だな、と余市は思った。

脳内で、阿鼻叫喚の文字を上書きするかのように、YOLOの文字が点灯した。You only live once…人生一度きりという意味のネットスラングである。



皆の待つ隣の部屋に戻ると、


「時間とらせて済まなかったな…気ぃ付けて山頂目指せや!」


立ち直ったマサヒコは、皆に向かって照れ臭そうに言った。

きっと晴れやかで純粋な気持ちでもって言ってくれたのだとは思う。

…だがマサヒコが言うと、気のせいか、初日の出を見るために大晦日に富士山頂を目指す後輩たちに投げかける族OBの台詞ように聞こえてしまうのが少し残念だ…。


その場を後にして、アスファルトの道へと5人は戻ってきた。

とんだ騒動ではあったが、人ひとりの自殺を防いだということで、後味は悪くないものだった。


「博士は隣の部屋で何話してたんだよ!?地元キノコの秘密の収穫ポイントかなぁー!?パワスポならぬキノスポってかー!?」


竹鶴はゲラゲラ笑いながら、いつもの竹鶴へと戻っていた。

今回のコトで分かったのは、竹鶴はマジモードに突入すると、博士とは呼ばずに角瓶のように余市と呼ぶということであった…。



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