27話
それから1週間後、アリシアはエナを連れてオスルへ旅立った。ノエルが寂しそうな顔をしていたのが心に残ったが、オスルへの期待に胸を膨らませていた。
旅行ということもあり、馬車はのんびりとしたペースでオスルへ向かう。ところどころで立ち寄る街もアリシアにとっては初めて訪れる町で、とても刺激的なものに映った。アリシアは特にその土地土地の伝統的なデザインの刺繍や衣装、建物などに興味を持った。新しいドレスのデザインに使えるかもしれないと、エナと話し合うこともとても楽しかった。
1週間ほどの馬車の旅を経てたどり着いたオスルは、オルカーの3倍はあると思われるほど大きな町だった。ところどころ立っている高い建物はまさに複数の文化が組み合わさったような独特な形状をしているものも多かった。そして様々な人種の人々であふれかえり、活気に包まれた町だった。
「エナ、話で聞いていた以上に刺激的な町ね」
「そうですね。驚きました」
「さっそくいろいろと見たいけれど、まずはユミルおば様のところへ行くのよね」
「はい」
アリシアは馬車の窓からオスルの町を眺めながら、早く町に出たいとわくわくしていた。
エナは驚いている、と言いながらも相変わらず無表情だった。
ユミルが住む屋敷はオスルの中でも北の上流階級が集まる地域にある。その中でも貴族が多い東地区にあるという。馬車で南門から町へ入り、市民街、商業地区、そして貴族街へと入ってきたが、それぞれ違った雰囲気があった。
ただ、ルワン帝国はオルカンド王国と大きく違い、実力主義が住む場所にも表れるということだった。たとえ商人や芸術家、騎士などの元は市民の階級出であっても、北の地区に屋敷を買うこともできたし、男爵位を買って貴族街に住む成り上がりと呼ばれる者もいた。しかしそういった者たちに対して、下賤だという目を向けるものは多くはなく、むしろ成り上がった者にはその能力に一定の敬意を払う、という文化がある国だった。
馬車でエナから説明を受けながら、アリシアは面白い国だと思っていた。オルカンド王国は貴族制度がどちらかというと強く残っている。身分が高い者は髪色が明るい者が多く、貴族の中で色の濃い茶髪や黒髪はあまり好かれない。王の髪はシルバーホワイトだし、王妃は薄いシェルピンクの髪である。バーグ公爵家のウィルキスの髪がブロンドである、というのも彼の人気の理由の一つでもあった。
しかし、このルワン帝国では髪の色に対する差別や偏見も一切ない。マリア姫の婚約者であるユリウス王子もネイビーブルーの髪という暗い色ではあるが、とても頭が良く、将来は第1王子の補佐をするため、宰相になるに違いないと言われている。王族や王宮の役職ですらかなりの部分で実力を重視されるようだった。
アリシアを乗せた馬車がユミルの屋敷の前に着くと、すぐに執事が出迎えてくれた。アリシアはユミルの話は良く母から聞いていたものの、会うのは初めてだったので、内心どきどきしていた。
――お母さまの話では楽しいことが大好きな人みたいだけれど。
「いらっしゃいアリシア」
そう声をかけて現れたのは、赤茶髪にグリーンの瞳で、顔はアリシアの母によく似た女性だった。しかしアリシアの母よりも快活な印象を受ける。
「初めまして、ユミルおば様でいらっしゃいますね。アリシアと申します。この度はこちらに滞在させていただき、ありがとうございます。」
アリシアはオルカンド王国の正式な作法にのっとり挨拶をした。
「まぁ、可愛らしいわね。エミリアにそっくりだわ」
アリシアを見たユミルは手を口にあて、懐かしそうな表情を浮かべながら微笑む。
「母に似ていますでしょうか?」
「えぇ、すぐわかったわ。これからよろしくね。自分の家だと思ってくつろいで頂戴ね」
「ありがとうございます」
「さっそくお茶でもしましょう。長旅で疲れたでしょう」
ユミルにうながされてアリシアは早速お茶をすることにした。少し喉が渇いていたので、とても嬉しかった。
――ユミルおば様は優しい人のようで良かったわ。お母様の妹だから、それほど心配はしていなかったけど……あら?
「このお茶は……」
「あら、気づいた?このお茶はグリーンティーというのよ」
「グリーンティーですか?」
「えぇ、最近オスルで流行っているのよ」
「初めて口にしましたが、とても美味しいです」
「それは良かったわ」
――グリーンティー、おいしいわ。それに色が緑色でとても綺麗。本当にオスルは珍しいものがたくさんありそうだわ。とても楽しみ
「さっそくだけど、アリシア」
「はい」
「明日からの予定だけれど、何か考えているかしら?一週間は私もお付き合いするわ。一緒に楽しみましょう」
ユミルは楽しそうににこにこ笑顔を浮かべている。これからのことに想像を巡らせているのかもしれない。
「はい。実は、オルカンドでドレスのお店を作りまして、その参考になるような、最新のファッションを知ることが出来たら嬉しいです」
「まぁ!アリシアは自分で商いをしているのね!素敵!」
「はい」
「そうね~……そう!よい物があるわ」
ユミルは目を輝かせる。
「よい物ですか?」
「えぇ、最近オスルでは歌劇が人気なのだけれど、丁度明日は開催日だから見に行きましょう」
「歌劇ですか?」
「えぇ、オスルで流行っているのよ。とても面白いし、舞台の衣装も参考になると思うわ。それに皆着飾って集まるのよ」
「それは!とても興味がありますわ」
「ふふふ。では明日私と行きましょうね」
「はい、ユミルおば様ありがとうございます」
「私も一週間が楽しくなりそうだわ」
ユミルの話を聞き、アリシアも楽しくなりそうだと浮足立っていた。




