いつか貴方に逢えるその日まで
私が危険にさらされたその時、貴方は颯爽と現われ私を救ってくれた。
その日から、貴方を思わない日は一日たりとてありません。
もう一度、せめてもう一度だけで、恋しく愛しい貴方に逢いたいのです。
あら、火に当たらせてくれるの? アナタ好い人ね。うっかり晩ご飯を追いかけてたら、すっかり夜も更けちゃって。こんなに暗くては枝も拾えないじゃない? ちょっと困ってたの。助かるわ、ありがとう。お礼にお肉半分分けてあげるわね。血抜きは済ませてあるわよ。
何で私みたいな若い娘が一人でいるか、気になる? やだっ。何で分かったかって顔をしているわよ? うふふ。だって、アナタずっと私をチラチラ見てるじゃない。そりゃあ、そんなに見られてたらいくら鈍くても気づくわよ。
心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。もしアナタが私にいけないことなんてしたら、きっと後悔しちゃうんだから。アナタくらいの男一人だったら、軽くやりこめる腕はあるのよ? 試してみる? うふふ。そう、賢明な判断ね。
そうね。なぜ私がこんな旅をしているか――少し長くなるけど聞いてくれる? 村を出てからずっと一人だったから、ちょっと会話に餓えてるの。
私の生まれ育った村は木々の生い茂った山間にあるの。岩も多いし、作物だって育ちにくい、人が住むには適してない場所と言えるわね。
だから、よそ者は滅多に訪れないし、他の場所に住む同族からは揶揄して隠れ里なんて呼ばれたりもするわ。
村の生活は基本が自給自足。村のすぐそばに畑を作ったり、近くを流れる小川から水を汲んだり、森の恵みを採ったり獣を狩ったりってね。けっして豊かとは言い難いけれど、慎ましく平和な生活をしているんじゃないかしら。
私を始め、村の年頃の娘たちは若い男衆の目も気になるし、やはりおしゃれとかしたくなるじゃない。男衆だって私たちの目を気にして、少しでも雄々しく逞しく見えるように心がけているわ。
だから、村の外が気にならないと言ったら嘘になるわね。
でも、私たちは外を焦がれて村を出て行こうとは思わないの。仲間意識が強くて、ちょっと人見知りが強い、頑固で堅物という言葉がピッタリはまるような、そんな気質の村なの。日々、小さな不満はあるけど、私はあの村が大好き。あの森すべてが私たちにとって大事なお城なの。
とある日のことだったわ。若い男衆たちが森の見回りから帰ってきたの。滅多によそ者は訪れないけど皆無とは言えないのよね。道に迷ったり、私たちの村を襲うとする輩が少なからずいるの。そういう連中を見つけては、村へ来ないように追い払うのも若い男衆の仕事の一つ。
男衆は最近森の近くまでやってきている連中がいるようだから、森に入るなら気をつけるようにって言ってたわ。その中に、ちょっと潰れた鼻がチャーミングなクルンルってヤツがいてね。ハンサムだし、力も強いし、娘たちにも優しくって、私たちが微笑んだだけで顔赤らめるようなところが可愛いの。娘たちからの人気は凄かったのよ、彼。
でもね。多分、彼は私に気があったと思うわ。だって、いつも花を届けて髪に挿してくれてたもの。
あら。その目はなぁに? アナタの好みから私は外れているかもしれないけれど、村ではそこそこモテた方なのよ? クルンルだって花嫁を迎える儀式では、私のために他の男衆と決闘するはずだったんだから。まぁ、今はその話はいいわ。
でね。クルンルが見回りから帰ってきて、いつものように途中で採ってきた花を届けに私の所へ真っ直ぐ来たの。彼ったら私の目を見つめながら、それはそれは心配そうに言うのよ。君のその黒い髪に映えるからって、トリカブトの花を髪に挿してくれながらね。
よそ者の動きがおかしい。君に何かあったらと想像するだけで、僕は気が狂わんばかりの気持ちになる。どうか、この一件が片付くまで森には入らないで欲しい。ってね。
でもね。さっきも言ったとおり、私の村は自給自足が基本だし、クルンルの気持ちは嬉しいけど、森に入らないってわけにはいかないじゃない? 森の恵みを採るのは女の仕事ですもの。それにクルンルは少し心配性なところもあるし、話半分で聞いてたのよね。
村から飛び出したきっかけにもなったし、ちゃんとクルンルの話を聞いておけばって後悔も少しはあるのよ? でも、ほんの少しだけね。
まぁ、話の流れからして分かるとは思うけど、クルンルの忠告もまともに聞かずに森へ入ったら、件のよそ者と出くわしちゃったわけ。何人いたかしら。五人……いえ、六人だったかしら。どう見ても迷い人って感じじゃなかったわ。
ギラギラした目にみすぼらしい格好。見た瞬間にケダモノって分かったわ。アイツ等は私の村を襲いにきたならず者だったの。
私だって少しは腕に覚えあるし、一人二人程度ならとっちめてやれたけど、さすがに六人は無理だったわ。持ってた剣だって草木を刈るための物だったし、あっという間にそれも取り上げられて女としての尊厳を奪われそうになったの。未だに思い出すと腹が立って仕方ないのよね。でも今となってはどうでもいいことだ話。
だって、そのとき彼に助けられたんだもの! 私の王子様!
アイツ等に押し倒されて、服を引きちぎられて、もうクルンルに顔向けできない。こんな奴らに穢されるくらいなら舌を噛み切ってやるって思ったそのときよ。彼が颯爽と現われたの。
私の上にのしかかっていたならず者を蹴り飛ばし、たちまちアイツ等を追い払ってくれたの。私の気持ちとしては追い払うなんて手ぬるいって思ったけど、彼が現われたことでアイツ等も勝てない、彼はできる男だって思ったのね。追いかける間もなく逃げていったわ!
それから彼は私を見て、痛ましそうな顔をしたの。それもそうよね。だって、うら若き可憐な乙女が衣服を剥がされて、今にも襲われそうだったんだもの。清く正しい彼の心を思うと、私の胸も張り裂けそうになるわ。清廉で気高い彼のことだもの。自分が間に合わなかったことを心の底から悔いたに違いないわ。でもね? 確かに私は恐ろしい目にあったわ。だけど、それは彼のお陰で未然に防げたの。私は穢れを知らずに済んだの。それってまさしく彼のお陰じゃない?
私もならず者に襲われるなんて思ってなかったし、ちょっとびっくりしちゃっててまともにお礼も言えなかったの。今でも、そのときのことを悔やんでるわ。あのとき、ちゃんとお礼が言えてたら彼を村に招いて、いずれは花嫁に……なんてねっ! もう、やっだー! 何言わせるのよ!
そうなの。彼、何も言わずに立ち去っちゃったのよね。外したマントをそっと私の肩にかけて。
そういったわけで! 私、彼を追って村を飛び出してきたの。私の純潔を捧げる相手は彼以外に考えられない。彼の隣りに並んでも見劣りしないよう剣の腕も磨いてきたわ。もちろん女としての魅力もね! うふふ。だから、いくら私に気があっても、だめよ? アナタもハンサムで素敵だけど、彼はもっと素敵だったの。ごめんなさいね? うん、思い出が経つにつれ美しさだけが残っていくって言いたいんでしょ? 彼の素敵な部分だけが美化されていってるって。それくらい分かってるわ。だから、もう一度彼に会いたいの。彼に会って、この気持ちが本物かどうかを見極めるの。
あ、そろそろ夜が明けそうね。私、そろそろ行くわ。ほら、女の一人旅ってやっぱり危険でしょ? なるべく人目を避けて旅をしているの。また縁があったら火を共にしましょうね。うふふ。火だけよ? それ以上は、だ・め。
それじゃ、アナタも良い旅を! オーガの呪いはよく効くから、きっとアナタの旅は素敵になるわよ! またね!